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1953決戦、ハワイ沖海戦9

 移駐する垣花飛曹長達の四四式艦攻編隊を先導する四三式貨物輸送機は、煮えきらない海軍航空行政を逆手に取った中島飛行機の設計案が通ったという四四式艦攻以上に混沌とした状況で就役した機体だった。

 当時の海陸軍では若干の制度の違いはあるが、この2機種の制式年度はほぼ同時期だった。ところが、最近生産された機でも操縦席内の機器や補機程度にしか違いがない四四式艦攻に対して、制式化されてから10年で四三式貨物輸送機はその姿を大きく変化させていたのだった。



 元々は陸軍航空隊の輸送機という機種は、若干の貨物と人員を高速輸送する為のものだった。航空隊を支援する整備員などの地上要員や、交換用のエンジンといった重要機材などを高速で遠隔地に進出させるためだった。

 航空隊に限らずに、陸軍は友好国となったシベリアーロシア帝国から満州共和国、更には内戦中の中国本土に至る広大な大陸内部で、共産主義勢力の大軍に対するために機械化部隊による機動戦を構想していた。

 だが、日本本土から戦略機動を行う航空部隊は、単独で進出しても短時間のうちに戦力を消耗させてしまう筈だった。それどころかジェット化や電子機材の追加などで強力だが繊細になった新鋭機は、専門化された多くの整備員達が手厚い整備を行わなければ離陸すら不可能だった。


 空地分離で航空部隊と飛行場部隊を分けたとしても限度があった。飛行場大隊の主な任務は航空基地の維持管理となるから、日常的な整備を行う部隊は航空部隊と切り離せなかったからだ。

 陸軍の輸送機は、空地分離を行ってもなお分け難かった航空部隊の地上要員を純粋な航空機部隊と共に進出させる為の機材として開発が進められていたのだと言えた。



 陸軍のこのような方針は正しかったと言える。むしろ第二次欧州大戦中の輸送機は、平時の想定以上に量産されると共に酷使されていたからだ。

 当時は日本本土から遥かに彼方の欧州を結ぶ高速連絡輸送の需要が急速に高まっていた。その一方で、輸送機という機種自体に対する要求はやや変化していたともいえた。


 開戦前に陸軍航空隊が想定していた輸送機は、戦闘機や襲撃機など他分科の航空戦隊などに随伴して前線に進出するものであったから、設備が不十分な前線飛行場であっても平気で着陸するというものだった。

 だから陸軍で制式採用されて初めてまとまった数で量産された輸送機は、民間機からの転用を除けば高速で頑丈な双発重爆撃機を原型とした一〇〇式輸送機となっていたのではないか。


 だが、第二次欧州大戦では日本本土は最後まで戦場とは無縁だったし、北アフリカにしがみついた地中海戦線の英軍がエジプトまで追い込まれていた時期でも、前線後方には安全に使える飛行場が整備されていた。

 その一方で、日本本土から欧州の戦域に至るまでの地域は欧州の植民地や友好国などが広がっていた為に陸伝いに飛行するのは難しくなかったものの、従来の輸送機では航続距離の限界から頻繁に中継点への離着陸を強要されていた。


 このような状況から、日本陸軍は最前線で運用される輸送機の他に、一歩下がった後方拠点までの輸送に専念する貨物輸送機を整備していたのだが、貨物輸送機として制式化された二式貨物輸送機は大柄な4発機ではあったものの、その原型となったのはやはり一式重爆撃機だった。

 大戦中盤以降は、一〇〇式輸送機の原型となった九七式重爆撃機が搭載量の少なさなどから従来の軽爆撃機のような前線での反復攻撃に専ら投入されていたのに対して、一式重爆撃機は英本土に展開して欧州への航空撃滅戦に最後まで投入されていたより大型の重爆撃機だった。

 原型機となった重爆撃機の性格の違いが貨物輸送機という機種を生み出していたものの、この2機種は同様の形態をとっていた。


 だが、二式貨物輸送機に続いて採用された四三式貨物輸送機は従来の輸送機とはやや出自が異なっていた。原型機とは厳密には言い難いが、四三式輸送機も一部の設計を他機から流用していたが、それは陸軍機ですらなく、海軍の二式飛行艇であったのだ。

 しかも、日本国内では二大航空会社である中島、三菱ではなく、川西航空機と川崎航空機の協業という奇妙な形で試作開発が行われていたものだったのだ。



 用途や生産数が限られているものの他社が参入しにくい安定した市場を確保していた両社だったが、実際には以前から将来の需要に不安を覚えていたらしい。川西航空機の場合はその懸念は明瞭だった。第二次欧州大戦を通じて同社が得意とする水上機の需要は低下していたからだ。

 大型の飛行艇などには島嶼部の輸送用や海上高速救難などの用途が残されているかもしれないが、機械化された設営隊によって短時間で陸上の飛行場が整備されるようになればそのような特殊な用途ですら減らされていくのではないか。

 実際に大戦終結後は巡洋艦などの搭載機は水上機から回転翼機に取って代わられていたから、川西航空機の懸念は正しかったと言える。そして大戦の終結で大きく需要が変化したのは川崎航空機も同様だった。


 川崎航空機は以前から陸軍機の中でも水冷エンジン搭載機を主に製造していた。そして同社の技術力を極めた傑作機と言えるのが三式戦闘機とその派生型だった。

 第二次欧州大戦開戦前夜に日本陸軍は対戦闘機戦闘に特化した軽戦闘機と、万能の高級機である重戦闘機という戦闘機に対する概念を固めていた。

 中島飛行機では軽戦闘機である一式戦闘機と重戦闘機である二式戦闘機を同時期に開発していたのだが、川崎航空機の場合は中間戦闘機ともいえるキ60を投入していた。

 このキ60が大戦中盤以降の陸軍主力戦闘機である三式戦闘機や、エンジンを中央部に配置した代わりに大口径機関砲を装備する三式襲撃機、そして胴体内部に2基の水冷エンジンを配置した特殊な双発戦闘機である四四式特殊戦闘機に繋がっていったのだ。


 だが日本陸軍のみならず他国などにも供与、売却されて国際連盟軍主力戦闘機の一翼を担っていた三式戦闘機を大量生産していたにも関わらず、川崎航空機には将来に対する不安があった。

 戦後は、大戦によって爆発的に進化した航空技術から大量航空輸送時代が来ると川崎航空機の経営陣は正確に予想していたのだが、同社にはこれに対応する大型機製造技術が存在していなかったのだ。



 元々本社所在地が近く関係が深かった2社は、こうした事情から大型陸上機の製造技術を確保する事も目的の一つとして陸軍航空隊向けの輸送機開発を共同で行うことを決定していた。

 尤も、こうした判断には日本国内における航空機製造能力の再編どころか、同盟国との協業体制にまで踏み込んだ業界の再編成を主導していた現在の兵部省や企画院などに勤務する官僚の意向も働いていたのではないか。


 いずれにせよ、制式年度はわずか1年しか変わらないものの、中島飛行機が製造する二式貨物輸送機と、川崎、川西協業の四三式貨物輸送機では同じ輸送機でも基本的な機体形状からして大きく変わっていた。

 四三式貨物輸送機の正式名称が二桁の数字となったのは、皇紀二六〇〇年以降は下一桁のみの数字が取られていたのに対して、国際連盟軍に加盟する諸国軍に日本製兵器を供与、売却する例が増えていたことから制式年度を皇紀ではなく西暦表記とするように変化していたからだったが、両機の差異はそのような小手先の変化にはとどまらなかった。


 一〇〇式、二式の各輸送機が製造業者が同じ重爆撃機を原型としていたのに対して、四三式貨物輸送機は川西航空機製の二式飛行艇を参考にしていたものの、大型の飛行艇である同機から陸上機である貨物輸送機の設計に流用が可能だったのは、主翼や尾翼などに限られていた。

 そのような制限があるものだから、四三式貨物輸送機は従来の輸送機からすると異様な機体構造を取っていた。二式飛行艇の主翼から発展していったために、空力的な形状も同機に似せなければ成立しなかったからだ。


 具体的に言えば、従来の輸送機が低翼の尾輪式であったのに対して、海面から離水する二式飛行艇と離着陸時の姿勢を合わせた四三式貨物輸送機は高翼の前輪式となっていたのだ。

 しかも、頑丈な桁材で箱状の胴体強度を確保する構造の同機は、主脚格納用の開口を設けるのが難しかったものだから、昨今の高速化のために空気抵抗を極限するという航空機設計の常識に反して、陸上で重量の大半を負担する主脚格納部分は不格好に左右に張り出した部分に設けざるを得なかったのだ。

 さらに、側面に大きな開口部を設けるのが難しい上に、主脚格納庫によって胴体側面の扉から地上までの高さが生じてしまった同機は、尾翼部分の強度をブーム形状の天井に負担させるとともに、強度部材とならない胴体後部に扉を設けるという同時期の四三式滑空機に似た形状をとっていた。



 だが、こうした大型陸上機の製造技術を持たない2社による苦肉の策として採用された数々の設計方針は、従来の輸送機形状に慣れた操縦員や整備員に違和感を覚えさせる一方で、皮肉なことに貨物輸送機としての使い勝手の良さを実現していた。

 エンジンを海面から離さなければならない飛行艇形式から流用された高翼式は、4基も装備されたエンジンの整備は難しくなっていたものの、貨物室天井に主翼桁が押し込められたことで広々とした貨物室を実現させていた。

 その上に地上姿勢でも水平が保たれている貨物室は、大きな後部扉から迅速に物資人員の出し入れが出来たからだ。


 今となっては開発当時に川崎川西の2社がそこまで把握していたかどうかはわからないが、基本的に自分達の足で移動する人員を輸送するならともかく、二式貨物輸送機に大重量の貨物を積み込むのは手間だった。飛行姿勢と違って尻餅をつくようになる尾輪式によって貨物室床面が傾斜するからだ。

 原型となった一式重爆撃機の場合は、爆弾倉扉を開ければすぐ下が地面であるし、爆弾積込用の専用吊具なども用意されていたのだが、形状や重量が規格化された爆弾と違って、様々な貨物を積み込む輸送機に専用吊具を其々の形状に合わせて用意するのは不可能だった。

 ところが、四三式貨物輸送機の場合は、積み込まれるのが車両などであれば胴体後部の扉を開けて自走して貨物室内に入り込むことさえ可能だったから、積み込み作業の時間も人手も格段に有利だったのだ。



 当初は製造会社の大型陸上機開発技術の限界から取られた形状が、貨物輸送機として適していたというのは奇妙な話だったが、陸軍から空軍に移管された後も四三式貨物輸送機の使い勝手は高く評価されていた。

 生産数が多かった一〇〇式輸送機や二式貨物輸送機でさえ空軍創設に前後して余剰機の払下げや諸外国への売却が相次いでいたのだが、元々高価で生産数の少なかった四三式貨物輸送機は空軍の輸送戦隊に大部分が残されていた。

 それどころか、空軍は四三式貨物輸送機を輸送機部隊の主力として捉えていた。飛行艇を原型としたために陸上機としては不条理な形態を改めると共に、より大出力でこれからの主力となるジェットエンジンと整備技術などが共有化されたターボプロップエンジンに換装した改型を採用していたのだ。

 レシプロエンジンからターボプロップエンジンへの換装は海軍機である烈風改などで試みられていたが、この設計作業を主導したかつての海軍航空技術廠は兵部省隷下の技術本部に集約された研究機関の一つだったから、空軍機にもエンジン換装手法に関する技術が転用されていたのではないか。


 今回の移駐作業で海軍の新鋭輸送機である五二式艦上輸送機ではなく空軍から四三式貨物輸送機が派遣されてきたのも、ターボプロップエンジンの採用で高速化が図られた同機の方が四四式艦攻の先導に適していたからだったのだろう。

四四式艦上攻撃機流星の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/b7n.html

四三式貨物輸送機の設定は下記アドレスで公開中です。

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一〇〇式輸送機の設定は下記アドレスで公開中です。

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二式貨物輸送機の設定は下記アドレスで公開中です。

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一式重爆撃機の設定は下記アドレスで公開中です。

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二式飛行艇の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/h8k.html

キ60の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/3hfp.html

三式戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/3hf1.html

三式襲撃機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/3af.html

四四式特殊戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/4sf.html

一式戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/1lf1.html

二式戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/2hf.html

四三式滑空機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/43g.html

五二式艦上輸送機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/52vs.html

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