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1952グアム島沖砲撃戦38

 通信士から奇妙な報告を受けた時、B-49「アロー号」の機長であるヘイル大尉は、状況がようやく一段落ついた所で操縦を副操縦士のスレーター少尉に預けたところだった。

 つまり、グアム島に襲来した日本軍機が去ったという報告をようやく受けて、夜食として機内に詰め込まれていた冷えたサンドイッチにかぶりついた瞬間だったのだ。

 一瞬ヘイル大尉は通信士に恨めしい視線を向けそうになったが、こればかりは大量に送られてくる元が何だったのか分からない肉が詰め込まれたいつもと変わりないサンドイッチを一瞥すると、ため息を付きながら後部席に振り返っていた。



 B-49を装備するヘイル大尉達の第21混成爆撃群は、開戦前に駐留していたグアム島から占領したテニアン島に移動していた。隣接するサイパン島と比べると島の面積は狭いものの、起伏が少ないテニアン島は大型機用の航空拠点として整備するのに適していたのだ。

 だから、開戦直後に行われた占領直後からグアム島から送り込まれた工兵部隊の手によって急速に滑走路が造成されると、第21爆撃群はテニアン島に移動していたのだが、それはグアム島から追い出されるのに等しいものではなかったのかとヘイル大尉は考えていた。


 隣のサイパン島と違って、原住民すらいないテニアン島はまさに隔離されるのにふさわしい所だった。

 初期の滑走路や駐機所の造成こそ行われていたものの、後方の補給拠点として大々的に整備されているハワイや航空基地拡張が続くグアム島と比べると、テニアン島の居住環境整備などはお座なりにされていたからだ。



 第21混成爆撃群が所属する第20爆撃集団は、開戦以後急速に規模を拡大されていた。上級指揮官が不足しているのか部隊の格は爆撃集団以上に大きくは出来なかったようだが、隷下の爆撃群はすでに群と言える規模を超えていたといえるだろう。

 ただし、優先的に増強が図られたのは、B-36を主力とする第20爆撃群ばかりだった。同群だけが日本本土に向けて行われている戦略爆撃を行っていたからだろうが、同時に損害も大きかったようだ。


 日本人共は思ったよりも強いらしい。そんな言葉は開戦以後はどこの部隊でも聞かされていた言葉だった。日本本土上空ではあの化け物のようなB-36でさえ次々と喪失していたからだ。

 陸軍航空隊はそれでも戦略爆撃の実行を諦めなかった。第20爆撃群向けに喪失数を越える数の補充機や搭乗員達がグアム島に送り込まれると共に、整備や補給体制も拡充し続けていた。

 グアム島内における物資の蓄積状況さえ良好であれば、開戦時を超える百機単位の大規模爆撃まで可能となっていたのだ。



 開戦以前から西太平洋を制する大規模航空拠点として重点的に整備されてきたグアム島だったが、特に滑走路が集中する北部は昨今では草地が見えないほどの有様で、増えすぎた将兵の居住地域は次第に南部の丘陵地帯へと侵食していた。

 巨人機であるB-36は、爆弾や燃料を満載した最大離陸重量となると恐ろしいほど長い離陸距離を必要とするのだが、それ以上に整備や補給を行うのに必要な駐機所にも広大な平地が必要だった。

 そのうえ、しばしば行われる日本軍の航空攻撃に備えるために、駐機所には面積を圧迫することを承知の上でB-36を収容する恐ろしく広い掩体まで拡張して設けられていた。


 だが、もともとさほど大きな島ではないグアム島でその様に広大な面積を確保するのは難しかった。以前からの適地は既に基地化が進められていたものだから、拡張された駐機所の中には、傾斜地を無理やり造成した為に滑走路まで坂道になって移動に手間取るような箇所も多かった。

 そのような状況であるのだから、今の陸軍航空隊で重要視されている戦略爆撃に直接寄与することのない第21爆撃群は、未だ設備の整わないテニアン島に追い出されていた、というのがヘイル大尉の出した結論だった。

 それに爆撃集団の中で第20爆撃群が優先されていたのは、機材の補充だけではなかった。補給に関しても自分達は等閑に付されているとヘイル大尉達は考えていた。その証拠、というよりも象徴が代わり映えのない肉入りサンドイッチ野菜抜きだった。



 遥々米本土西海岸からハワイやミッドウェーを経由してグアム島まで運ばれてきた物資は、目減りしながら最終目的地であるフィリピンに向かっている、らしい。

 上陸した日本軍との戦闘が続いているフィリピンはともかく、グアム島もハワイ諸島も海上輸送される物資を仕分けする中継点であると共に、物資の消費地でもあった。


 この戦争が終わればハワイは遅れた王制から米国に正式に編入されて準州となるのだろうが、半世紀前の米国系市民によるクーデター騒ぎが失敗したハワイを平穏に編入するためには住民の宣撫工作は必要不可欠だった。

 ハワイ王国時代から住民の生活水準を下げないためにも、西海岸から運ばれてくる物資は少なくない量がハワイでそのまま下ろされて民政本部に引き渡されているという話だった。


 最前線にいるヘイル大尉達からすれば腹立たしい話なのだが、政治的にハワイを干上がらせるわけには行かないという判断のようだ。実際に、従来の通商路が開戦以後封鎖されたハワイ以外の太平洋の孤島では、住民生活に影響が出ているという噂もあるようだが、真偽は不明だった。

 どのみち米国の目は日本人達がいる北方側に向けられているのだから、占領地域の後方や南方のことは考慮外なのだろう。

 状況を悪化させているのは消費地の多さだけではなかった。日本人達は卑怯にも潜水艦を用いて商船を襲っていたのだ。神出鬼没の日本軍か英国軍の潜水艦は遥々西海岸近くまで通商破壊戦を仕掛けてきていた。西海岸とハワイ間航路だけではなく、当然グアム沖でも被害は出ていた。



 こうして、計画上はグアム島に山のように積み上がっていくはずだった物資は、現実には各地ですり減らされているとヘイル大尉は主計科の知り合いから聞いていた。しかも、万全とは言い難い補給体制の中でも、後方の参謀本部や航空隊総司令部は日本本土への戦略爆撃継続を命じていた。

 主力である第20爆撃群がB-36の喪失と本土からの補充が続く中で、太平洋を横断する貧弱な兵站線のしわ寄せはグアム島から追い出された第21爆撃群に集中していた。

 グアム島からサイパン島、テニアン島の距離は僅か200キロ程でしかないから、B-49なら離陸して十分かそこらでたどり着けるような距離なのだが、補給物資を積んだ貨物船の航行は不定期な上に遅れがちだった。集積地であるグアム島自体が物資を消費し尽くしてしまうからだ。


 補給が不十分な第21爆撃群は、第20爆撃群とはまた違った理由で消耗が激しかった。戦闘による損耗だけではなく、資材不足で修理不能とされた機体も多く、だましだまし使い続けているヘイル大尉達のアロー号も被弾や被爆の修理痕があちらこちらに目立っていた。

 そんな中で、サイパン島に派遣されていた幾つかの独立飛行隊を吸収した第21爆撃群は、混成爆撃群と改称されていた。純粋な爆撃機隊に戦闘機部隊が編入された訳だが、航空基地が両島に離れているものだから単に管理上の問題で将兵に一体感は無かった。

 それに単純にどちらも消耗が激しいものだから、再編成後も開戦時の戦力には達していなかった。


 一体感を阻害する原因としては、機材ではなく食糧などの補給状況が僅かな距離しか離れていないサイパン島の方がテニアン島よりも格段に状況が良好らしいという話もあった。

 スペイン統治時代に無人化されたテニアン島と違って、現地人の社会がまがりなりにも存在するサイパン島では、現地人の統治が必要な代わりに食料の現地調達も可能だった。

 戦闘機隊だけではなく、サイパン島には守備隊の海兵隊を含めて約一万もの米兵が乗り込んでいたから原住民の人口を遥かに越えていた。だからサイパン島の生産力では自給自足までは不可能のはずだが、テニアン島の場合は食料生産能力自体が無かったのだ。


 占領初期には、テニアン島でも野生化した豚などが狩り放題だったらしいが、基地化工事に投入された工兵隊が作業の邪魔となる野生動物を無駄に駆逐していたらしい。

 テニアン島の乏しい食料事情に工兵隊に代わって駐留を開始した爆撃群の将兵が気がついた頃には、転圧された荒野から野生動物は絶滅寸前で、食料源とするのはもう手遅れとなっていた。



 最近は肉といえば保存が効くことだけが取り柄の味気ない缶詰ばかりになっていたから、いい加減ヘイル大尉も機内弁当に飽きていた。だから貴重な夜食を放り投げていたのだが、通信士の報告はアロー号の任務にも関係がありそうだった。

 操縦が難しいことを除けば有力なジェットエンジン爆撃機である筈のB-49であるアロー号は、今夜はテニアン島とグアム島の中間辺りの空域で哨戒飛行を命じられていた。


 尤も純粋な爆撃機であるB-49には大したレーダーを積んでいるわけではないのだから、司令部がアロー号の哨戒に期待しているわけでは無さそうだった。要は空中退避にそれらしい名目をつけただけなのだろう。

 地上撃破を恐れたとも言えるが、開戦以来酷使されているアロー号の飛行時間を更に積み重ねることに懸念もあったし、ただでさえ乏しいテニアン島に備蓄された燃料の消費も無視できない筈だ。


 だが、そう文句を言って眉をしかめたヘイル大尉に、司令はいった。帰りの燃料はグアム島に緊急着陸して分捕ってこい。もちろんガスは満タンで帰ってこい。

 投げやりな司令の声にヘイル大尉は首をすくめていた。テニアン島の燃料が乏しいのは事実だが、大飯ぐらいのB-36を抱えたグアム島にも余裕があるとは思えなかったのだ。


 ヘイル大尉の懸念は、やや想像とずれながら現実のものになろうとしていた。米日艦隊の戦闘をすり抜けて日本人の爆撃機がグアム島の第20爆撃群の駐機所に奇襲をかけていたからだ。

 幸いと言って良いかは分からないが、アロー号の哨戒空域からは日本軍の進入ルートは外れていたらしく、ヘイル大尉達を緊張させる以外の影響は無かった。

 だが、被害は大きくはないようだが未だにグアム島は混乱している様だから、アロー号が悠長に燃料補給に着陸しようとしたら、見慣れない機体に殺気立った防空部隊から誤射される危険性も高いのではないか。



 日本軍が去ってからも、ほとぼりが覚めるまでは空中待機を強いられそうだったが、通信士の報告を聞いたヘイル大尉は首を傾げていた。

「グアム島から不審電波が出ている、だと……だが、日本軍を警戒する為に四六時中あの島からはレーダー波が出ているんじゃないか、その反応とは違うのか」


 複数のレーダーや逆探知機を次々と操作していた通信士は、ヘイル大尉と同じ様に首を傾げながらも確信を持って様子で言った。

「我が軍のレーダーとは明らかに波長が違います。これは、レーダーよりも長距離用の無線航法装置用のものに近いですね。海軍が空母にも積んでたでしょう。ただ、観測された電波の出力は不規則な上に波長の乱れも大きいようです。アンテナが破損しているか、効率の悪い地上に置かれているのかも……」


 要領を得ない通信士の説明に怪訝そうな顔でヘイル大尉が何かを返す前に、アロー号の操縦席にどよめきが満ちていた。


 慌てて振り返ったヘイル大尉に、スレーター少尉が叫ぶ様に言った。

「日本軍のロケットです。グアム島を狙ってやがる……いや、駐機所に直撃した模様……B-36が……」


 機首方向を見たヘイル大尉は、彼方のグアム島に向けて閃光が地上に降り立っていく姿を見つめていた。これまでもグアム島は日本軍のロケット攻撃を受けていたが、命中精度は低く、大半は撃墜されるかグアム島をすり抜けて海面に落着しているという話の筈だった。

 ところが、艦隊戦がまだ続いている筈の海域からかけ離れた南方から撃ち込まれたロケット弾は、まるで引き込まれる様にB-36の駐機場に次々と着弾していった。


 ―――不審な、電波か……まさかあのロケット弾に関係しているのか……

 そう考えていたヘイル大尉は、ふと我に返っていた。どう考えてもあの状況ではアロー号をグアム島に降ろすのは無理そうだった。

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