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1952グアム島沖砲撃戦30

 日英を主力とする国際連盟の有力加盟国では、第二次欧州大戦後に講和したドイツから接収した技術資料を吸収した航空業界の本格的な再編成が行われていた。戦時中に野放図に拡大していた航空機生産能力を平時に適正な範囲に縮小しながら企業体を維持するための改変と言っても良かっただろう。

 英国などでは航空省の指導によって雑多な中小航空製造会社の合併が行われていた。それに加えて、日英などではこれ迄にない国境を越えた協業体制が構築されようとしていた。


 尤も、この動きは第二次欧州大戦中には既に始められていたと言えた。それ以前に行われていたような単なる技術供与よりも一歩踏み込んだ企業間の協力体制が構築されていたのだ。

 例えばライセンス生産や技術者の疎開受け入れなどによって、川崎重工と英ロールス・ロイスのエンジン製造部門は強固な協力体制を組んでいた。大戦中に製造されたマーリンエンジンの少なくない数は、ロールス・ロイスの設計を元に川崎の刻印が押されたものだったのだ。

 機体製造でも、愛知時計電機と九州飛行機を吸収合併した中島飛行機は、英ホーカー・シドレーグループやシベリアーロシア帝国で始めて誕生した航空会社であるセーヴェルスキイと関係を持っていた。

 日本空軍が主力爆撃機として採用した五一式爆撃機も、この企業グループの一つであるイングリッシュ・エレクトリックと三菱航空機の協業体制で制式化されたものだったが、五一式の原型となったキャンベラは英空軍にとっては主力機ではなかった。



 第二次欧州大戦中は搭載量の大きいランカスター爆撃機を愛用していた英空軍は、大戦後も大型爆撃機を指向していた。

 噂では開戦初頭にトラック諸島で米軍によって使用されたという核兵器を運用する能力を英空軍の次期主力爆撃機も前提としているというという話だったが、詳細は下士官搭乗員上がりでしかない石井少尉は知らなかった。

 ただシベリアにあると噂される多国籍の先端技術研究都市では、核兵器だか核で動くエンジンとやらの研究が行われているのは確かなようだ。そうでなければ、トラック諸島が壊滅した直後に、米軍が使用した新兵器の正体に日英関係者が短時間で辿り着けなかったのではないか。


 噂が正しければ、英空軍の主力機は重量があるらしい核兵器を搭載可能な大型機が求められていたようだ。そこで英空軍は、第二次欧州大戦後に一挙に画期的な技術を導入したジェット大型爆撃機の開発を命じた、らしい。

 英国も日米開戦後は戦時体制に移行していたから新兵器に関する情報は秘匿度が上がっていたが、その要求された新型ジェット重爆撃機は、キャンベラなどと比べると搭載量は格段に大きいのは確かなようだった。

 搭載量で言えば大戦中のランカスター爆撃機に肩を並べる規模が求められているようだが、開発中の機体は大戦終盤で既に旧態依然といった様子だった同機と比べると、数々の画期的な構造や装備を有するようだ。



 その一方で新機軸を際限なく取り入れた新型ジェット爆撃機は、高性能と同時に開発計画の難航も予想されていた。実際に開発期間の延長が幾度となく行われているようだった。

 そのすきに新型機就役までの繋ぎ役や開発失敗時の保険として提案されていたのが、中島飛行機と同社と提携するホーカー・シドレーグループが提案した五二式重爆撃機の英国仕様機であるヴィンディケーターだった。


 そもそも五二式重爆撃機は、一式重爆撃機を開発した中島飛行機の開発陣が同機の後継機として開発を進めていたものだった。四五式爆撃機を主力と考える空軍はさほど乗り気ではなかったが、兵部省からの指示で試作の認可が行われていた。

 石井少尉が操縦する機体の構造も、エンジンが4発から6発に増加したことが示すような機体規模の拡大こそあるものの、確かに欧州戦線で何度も見た陸軍の一式重爆撃機に連なる印象を与えるものだった。



 先の大戦では日本海軍の一部航空隊でも使用された一式重爆撃機は、機体の規模や爆弾搭載量の割に防弾装備や自衛機銃が充実した機体だった。

 高射砲を転用した大口径砲を装備する破天荒な重襲撃機型や打って変わって兵装をすべて取り払った貨物輸送型などの派生型も多かったが、最終生産型の四型になると、排気過給器による高高度性能や、射程や弾道安定性能に優れる20ミリエリコン系列への自衛機銃の統一なども図られていた。

 双発の高速爆撃機がその速度性能で敵陣をすり抜けていくものだとすれば、一式重爆撃機は重装備で強引に敵防衛網を突破していくという構想のもとで設計されたものだと言えた。


 その一式重爆撃機の後継として開発が進められていた五二式重爆撃機が同様の性格を持つ機体となるのは当然のことだと言えたが、逆に言えばその設計思想が日英空軍の主流から遅れた保守的なものとなっていたのも当然のことだったのかもしれない。

 高速爆撃機や先進的な重爆撃機に日英空軍の主力が移行しつつある中で、巨人機であるにも関わらず保守的な思想を持つ五二式重爆撃機が採用されたのは、対米関係の悪化によるものと言えそうだった。

 それに加えて、英国製の将来重爆撃機は勿論だが、イングリッシュ・エレクトリックや三菱が製造しているキャンベラ、五一式爆撃機も高速性能に優れる一方で発展性には欠けている所があったのだ。



 英国純正のキャンベラの両翼に詰め込まれたエンジンは、フロントファンの無い純粋なジェットエンジンだった。前後に長い両翼の骨構造に設けられた開孔は、その細いエンジンを搭載するためにエンジン径に合わせたものだったようだ。

 その一方で、三菱製の五一式爆撃機では、第二次欧州大戦中から日本国内で開発が進められていたことで使い慣れたフロントファン付のエンジンが採用されていた。

 日本空軍の主力としてソ連領奥深くや太平洋の彼方に進出しなければならない五一式は、同様の任務に先進重爆撃機を使用することを想定していた英国空軍のキャンベラよりも航続距離の要求が厳しいから、燃費に優れるフロントファン付ジェットエンジンの搭載は不可欠だったのだ。

 そこで両翼の構造はキャンベラで理想形とされたものとはかけ離れていたのだが、一時期はイングリッシュ・エレクトリック社の主任技師と三菱開発陣との間で主翼構造に関する改設計の是非を巡って相当の論争があったらしい。


 それに比べれば、一式重爆撃機に倣って長大な主翼に無造作にナセルを設けた五二式重爆撃機のエンジン配置は、いざとなればエンジンナセルごと換装できる構造になっていた。

 中央側のエンジンナセルには左右脚も設けられていたが、機体規模が大きく地上姿勢でも水平となる前輪式を採用したことから、五二式の主脚は胴体側に設けられていた。だから荷重をさほど負担しないエンジンナセル内の脚構造が変わっても地上走行性能に与える影響は少なくて済むだろう。

 実際には正式生産型では後退翼の採用で主翼構造ごと開発途中で変更されてしまったのだが、構造的には石井少尉が操縦する原型機に近いこの機体もジェットエンジンに換装することは出来たのではないか。



 しかも大出力のジェットエンジンを搭載しなくとも、五二式重爆撃機の巨体にはその搭載量を活かして他にも使い道があった。

 初期不具合に対応する機体改修作業も終わっていない開発試作中であったにも関わらず、五二式重爆撃機は原型機の段階で複数機が製造されていた。かつての陸軍航空隊で三式戦闘機の原型となったキ60が増加試作機の名目で一定数量産されて部隊配備されていた例もあるが、当時とは事情が異なっていた。

 キ60の限定生産は一線級部隊に配備する最新鋭機の不足がその理由だったが、本来の主力計画から離れた五二式重爆撃機の場合は、純粋な爆撃機仕様に加えて派生型の開発を同時に進めるためのものであったようだ。


 異例とも言える措置によって、爆弾倉に電源と長距離捜索電探を詰め込んだ上に巨大な空中線を外部に突出させた対空捜索用の機体などが早々に原型機から改造されていた。

 この派生型では、空中線は機体進行方向と関わりなく旋回が可能な覆いの中に収容されていたから、艦上攻撃機に搭載した魚雷状の機外電探と違って広い範囲を確認する為に頻繁に針路を変更する蛇行飛行を強いられることもなかった。


 大型機に捜索用電探を搭載するという方針そのものは、英空軍がタービンライト仕様機の空飛ぶ探照灯としての運用を放棄したあとの哨戒機運用に連なるものであったが、九七式重爆撃機と比べて格段に機体規模の大きい五二式を原型とする事で機内には余裕が生じていた。

 電探本体に加えて、長距離に電波を照射する対空捜索電探に安定した電力を供給する大容量の電源を積み込んでもなお機内には余剰空間が存在していたのだ。


 五二式原型機を改造した哨戒機では、そこで従来の爆弾倉下部に電探機械部を設ける一方で、爆弾倉上部の空間を区切って電探表示面や簡易ながら態勢表示盤まで設けているらしい。

 そこで電探を操作して表示面から読み取る操作員の他に、状況の把握と指揮に専念する要員の作業空間を確保した事で、この機体は単なる捜索用の機体では無くなっていた。


 自ら敵機を含む周囲の状況を把握すると共に、海上の防空巡洋艦や哨戒艦の様に友軍機を指揮、誘導する能力を得た事で、この機体は空中指揮官機と呼称されていた。

 以前から攻撃隊の指揮官を乗せた機体などをそう呼ぶ事もあったが、五二式改造の空中指揮官機は地上の防空司令部が進出してきたようなものだから、一歩引いた位置から戦闘指揮に専念する筈だった。


 制式採用前だというのに、空中指揮官機は既に複数機が就役しているらしい。開戦直後の本土空襲の時から実戦投入されているようだが、今後は脆弱な特設哨戒艦に代わって長距離捜索の要となることも期待されているようだ。

 現在の空中指揮官機は、セントーラスエンジンと直線翼を持つ原型機を改造したものだったが、いずれは後退翼にジェットエンジンを搭載した制式採用型を原型とする機体も出てくるのではないか。



 ―――そうなると、この機体もいずれは制式型から改造された後継機が出現するのだろうか……

 今回の作戦に合わせて延長されたセントーラスエンジンの排気口から火炎が吐き出されていないのを無理やり体を捻って目視確認しながら石井少尉はそう考えていた。


 石井少尉が操縦するこの機体も、五二式重爆撃機の原型機をもとにしたものだったが、空中指揮官機の様に目立つ巨大な空中線覆いは設けられていなかった。

 実際には機体各部には電探波を透過する樹脂製の空中線覆いが設けられているのだが、使用する波長や照射角が異なる事から、小さくまとめられた空中線は機内に収められてその覆いも機体外壁とほぼ一体化されていた。

 それに機体各部に設けられた樹脂製の覆いの中に収められた空中線は電探用のものだけではなかった。電波妨害用に単なる雑音を放つものや、逆に機体に向けられた特定の周波数を探知して強度や方位を測定する逆探知機などもあった。


 空中指揮官機型は、最前線ではなく一歩下がった位置に展開するのが前提である上に、戦闘機隊の護衛も考えられていた。その為に原型機が装備する自衛機銃は廃止されていたのだが、電子戦闘型と呼ばれるこの機体も、電子兵装が充実する一方で自衛機銃は貧弱極まりなかった。

 石井少尉が操縦する電子戦闘型の五二式重爆撃機は、闇夜の空にその姿を溶け込ませながら水上戦闘の支援を行うべく予想戦闘海域に侵入しつつあった。

五一式爆撃機/イングリッシュ・エレクトリック キャンベラJ型の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/51lb.html

五二式重爆撃機/ホーカー・シドレー ヴィンディケイターの設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/52hb.html

一式重爆撃機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/1hb.html

一式重爆撃機四型の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/1hbc.html

四五式爆撃機天河の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/45lb.html

一式重爆撃機三型(一式重襲撃機)の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/1hbba.html

二式貨物輸送機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/2c.html

キ60の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/3hfp.html

三式戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/3hf1.html

ボストン爆撃機(タービンライト仕様)の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/97tr.html

九七式重爆撃機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/97hb.html

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