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1952グアム島沖砲撃戦29

 英国空軍でタービンライトに繋がる探照灯を空中に持ち上げるという特異な発想が持ち上がったのは、黎明期の重量のある機載電探を装備出来たのが、鈍重な爆撃機改造夜間戦闘機しか存在しないという現実があったからだ。


 ところが、機首前方に探照灯を固定したタービンライトMk.1からMk.2に発展する頃になると事情が変わり始めていた。第二次欧州大戦も中盤になる頃には、戦闘機に搭載可能な軽量で電力消費量の少ない電探が出現し始めていたからだ。

 単発単座の二式水上戦闘機に積み込まれたような脆弱な試作品などではなかった。実用段階に入った射撃管制用の電探が、何とか双発戦闘機であれば搭載可能な寸法になっていたのだ。



 当初は、見張りの数が増えるだけ単発単座戦闘機よりはましという程度だった双発複座戦闘機改造の夜間戦闘機は、電探の装備で急速に実用性を増していた。

 海軍では高速の双発陸上爆撃機を原型とした四三式夜間戦闘機極光が制式化されていたし、日本陸軍でもエンジンまで原型機から大出力のものに換装した二式複座戦闘機三型丙が本格的な夜間戦闘機仕様として投入されていた。

 日本海陸軍の第二世代とも言える夜間戦闘機は、昼間の戦闘では横方向の機動では不利であっても、高速性能で上下方向や速度性能では単発機にも劣らない高速双発機を原型としていたのが特徴だったと言えるだろう。


 極光の原型となった双発機は、それまで基地航空隊の主力対艦攻撃機であった一式陸上攻撃機の実質的な後継として開発されていたものだった。本来の計画では、切り詰めた機体構造や搭乗員数の削減などで高速性能を追い求めることで、自衛機銃などを省いても被害を極限出来るという構想だったようだ。

 結局、参戦直後の爆撃作戦などで陸上攻撃機部隊が大損害を被った事で、日本海軍では陸上爆撃機という機種の存在意義そのものが見直しされていたから、この試作機が直接日の目を見る事はなかった。

 その一方で制式化から7年経った今でも空軍で配備が続いてる四五式爆撃機天河でさえこの機体を原型としているというから、機体構造そのものは優れていたのだろう。



 機体の構造や思想が長寿を保った日本海軍の試製陸上爆撃機系列とは別の意味で、英空軍に置いても同時期に傑作機と呼ばれた双発機が出現していた。木製の高速爆撃機として誕生したモスキートだった。

 異様な機体の素材や構造が目立つ同機だったが、英空軍のスピットファイアや日本陸軍の三式戦闘機と同じマーリンエンジンを双発で装備したモスキートの機動性能は高かった。

 モスキートが持つ汎用性に注目した英空軍は、原型となった非武装の高速爆撃機仕様だけではなく重武装の長距離戦闘機仕様などを開発していたが、その中には電探を装備した本格的な夜間戦闘機仕様も含まれていた。


 モスキート夜間戦闘機は、それまで代用として夜間戦闘に運用されて苦戦していた単発単座戦闘機であるハリケーンなどを尻目に、着々と戦果を上げていった。

 自ら電探で捜索して射撃を行う本格的な夜間戦闘機が誕生した以上は、制限の大きい単発単座戦闘機を夜間戦闘機として運用する意味はなくなっていた。同時にそれらを支援する予定だったタービンライトもその存在意義を失っていたのだ。



 役割を終えたタービンライトMk.2だったが、機体そのものはしばらく製造が続いてしまっていたらしい。タービンライト仕様への改造とモスキート夜間戦闘機の本格的な運用開始時期が重なっていたからではないか。

 保険としてタービンライトが製造されていたというよりも、単に惰性で製造を止められなかっただけではないかという気が石井少尉はしていた。


 いずれにせよ製造されたばかりで機体寿命が残っていたタービンライトMk.2は、その大半が探照灯のみを撤去して、機載対空捜索電探を用いた早期捜索用の電探哨戒機として運用されていた。

 タービンライト仕様では空中で単座戦闘機と交信するために通信機能も充実させられていたから、指揮機能も有していた。

 現在日本空軍が運用している長距離捜索電探を装備した空中指揮官機の源流とも言える運用だったが、製造されたタービンライトMk.2の全てが電探哨戒機に転用されたわけでは無かった。


 マルタ島沖で石井少尉達の前に出現したタービンライトもそうした転用機の一つだったのだろう。闇の中に隠れる敵艦隊を安全な空から照射する事で、友軍艦に一方的な射撃精度を提供しようとしていたのだ。

 ただし、独伊仏連合艦隊を闇夜から追い出したあのタービンライトは、綿密な計画の元に行われていたとは思えなかった。


 確かにタービンライトは砲撃戦が開始された当初における日英艦隊の射撃精度を向上させていたと思われるが、同機は早々に撃破されて戦場から退避せざるを得なかった。

 もしも、単なる思いつきではなくタービンライトによる支援が艦隊側から大きく期待されたものであったならば、即座に照射を引き継ぐ予備機が用意されていたのではないか。


 だが、あの時のタービンライトによる砲撃戦支援が中途半端な結果に終わっていたとしても、その事を覚えていたものが日本海軍内部にいたのは確かだった。

 あれから10年近くたった今、マリアナ諸島沖で艦隊上空を飛行するこの機体は、使用する機材は全く代わっていたにしても、タービンライト同様に艦隊戦の支援を行う為に投入されていたからだった。



 闇夜を照らし出した九七式重爆撃機を原型とするタービンライトと比べると、石井少尉が操縦するこの機体は何もかもが進化していた。共通するのは原型機が日本軍の重爆撃機ということぐらいだが、実際にはこの機体は日本海空軍が積極的に開発に携わっていたものではないらしい。

 近く制式化されれば五二式重爆撃機と呼称される予定だというこの機体は、6基もの大出力エンジンを広大な主翼に備えた巨人機だった。機体寸法は勿論だが、消費する物資量も膨大だから限られた大規模基地からしか運用出来ないのではないかと懸念する声が有る程だったのだ。


 五二式重爆撃機の搭載量は圧倒的なものだった。日本製爆撃機の常で爆弾搭載量はさほど重視されていないのだが、その分自衛火器や電子兵装などは充実していた。

 おそらく、その機体性能は米軍のB-36に勝るとも劣らないものである筈だった。中立国経由の情報ではB-36にはジェット化の噂があったが、正式に生産される予定の五二式重爆撃機は当初から大出力フロントファンジェットエンジンを搭載した姿で就役するからだ。



 しかし、操縦席に座る石井少尉の左右から聞こえてくるのは、ジェットエンジンの機体後方に沿って生じる轟音ではなく、多数基が装備されたレシプロエンジンによる唸りだった。

 6基のセントーラスエンジンが装備された主翼構造も、機種転換訓練時の座学で見た正式生産型の姿とは違って、先進的な後退翼ではなく愚直に左右に真っ直ぐに伸ばされた従来機の形状そのままだった。

 この機体はフロントファンジェットエンジンを搭載した正式生産型ではなく、開発計画が開始された当初に製造されたレシプロのセントーラスエンジンを搭載する試作機を原型とした派生型であったのだ。


 実は、制式化前の状態であるにも関わらず、既に五二式重爆撃機は純粋な爆撃機仕様とは異なる数多くの派生型が製造されていたのだが、その中には今石井少尉が乗り込んでいる機体の様に実戦投入されているものも少なくなかった。

 そもそも空軍における爆撃機の主力は、五二式重爆撃機のような大型爆撃機ではなかった。

 五二式の源流となったのは、先の第二次欧州大戦で日本陸軍航空隊の重爆撃機主力であった一式重爆撃機だったが、大戦後に発足した空軍が主力としたのは海軍の陸上爆撃機に連なる双発高速爆撃機だったのだ。



 日本空軍は、陸軍航空隊と海軍の基地航空隊の合流で誕生した組織だったが、海陸軍の攻撃機部隊は使用する機材の性能は似たようなものだったが、与えられた任務は明らかに異なっていた。

 海軍は対米戦における対艦攻撃を主任務と考えていたのだが、陸軍は友邦シベリアーロシア帝国領に前進展開して大陸深部のソ連軍根拠地に対する航空撃滅戦を意図していた。

 展開する地域や目標どころか相手国さえ異なる予想戦場だったが、空軍関係者はその最大公約数として高速爆撃機を追い求めていた。いずれにせよ、群がる敵機を高速で突破することが出来ればよいからだ。


 かつて全金属製航空機の黎明期に戦闘機無用論の論拠となった双発爆撃機の再来のようだったが、日本空軍はジェット化による速度性能と搭載量の増大で、理想的な攻撃機を得ようとしていたのだろう。

 幸いな事に、空軍発足と同時に彼らは四五式爆撃機天河を手にしていた。元を辿れば海軍の試作機である15試陸上爆撃機にたどり着く機体だったが、空技廠が当時の最新技術を惜しみなく投入した機体構造は、その時点でも古びていなかった。

 15試陸爆は、5年もの間放置されていたわけではなかった。セントーラスエンジンや英国のホイットル技師が考案した燃費の良いフロントファンジェットエンジンなどの実験機として運用されていた上に、派生型として夜間戦闘機極光の原型ともなっていたからだ。


 少数生産機とはいえ15試陸上爆撃機系統の機体は第二次欧州大戦中も絶え間なく改良や製造が続けられていた。その甲斐もあって中島飛行機における四五式爆撃機天河の生産も順調に進められていたが、その性能は空軍の要求を完全に満たす程では無かった。

 むしろジェット爆撃機として天河を運用し始めたからこそ、不満点も明らかになったと言えるだろう。そうした不満点を折り込んだ機体の開発が進められるはずだったが、これは意外な形を迎えていた。



 第二次欧州大戦終結後も日本帝国は対英露関係、ひいては国際連盟を重視していたが、その流れの中で装備統一という新しい動きも起こっていたのだ。

 国際連盟加盟の有力国である日英露に加えて戦災復興が進む伊仏を限定的に組み込んだ各国は、使用する銃、砲弾の互換性に続いて、いずれは装備の統一にも踏込もうとしていた。

 どのみち自由フランスや国際連盟側で対独参戦したイタリア軍などには日英製の兵器が供与されていたから、今なら砲弾の互換性などを推し進めるのは可能だった。

 兵器類の互換性を確保しておけば、二度にわたる欧州大戦のような大戦争の際にも迅速に兵器の輸出入、供与が可能となるはずだった。


 そうした趨勢の中で、空軍の主力となる高速爆撃機も英国イングリッシュ・エレクトリック社製のキャンベラを日本仕様に改めた機体と決定していた。

 イングリッシュ・エレクトリック社ではキャンベラJ型と呼称された五一式爆撃機は、四五式爆撃機に代わる高速爆撃機として開戦以後急速に配備が進められていた。

 フロントファンエンジンや、視界の良い風防形状などが英国空軍に配備されている純正機とは異なるらしいが、亜音速にまで達する高速性能を得た五一式爆撃機は、日本空軍、つまりは嘗ての海陸軍基地航空隊の爆撃機乗り達にとって理想的な高速爆撃機であるはずだった。


 五二式重爆撃機の開発計画は、この四五式から五一式につながる空軍の理想的な高速爆撃機構想とは外れたところに存在し続けていたのだった。

ボストン爆撃機(タービンライト仕様)の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/97tr.html

九七式重爆撃機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/97hb.html

二式複座戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/2tf.html

二式複座戦闘機丙型(夜間戦闘機仕様)の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/2tf3c.html

四三式夜間戦闘機極光の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/p1y1.html

四五式爆撃機天河の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/45lb.html

三式戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/3hf1.html

五二式重爆撃機/ホーカー・シドレー ヴィンディケイターの設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/52hb.html

五一式爆撃機/イングリッシュ・エレクトリック キャンベラJ型の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/51lb.html

一式重爆撃機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/1hb.html

一式重爆撃機四型の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/1hbc.html

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