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1952グアム島沖砲撃戦27

 日本海軍が第二次欧州大戦終結中に就役させた大和型以降の新鋭大型戦艦は、3基の主砲塔に加えて巡洋艦主砲相当の大口径砲を副砲として備えていた。紀伊型に続いて建造されているという新戦艦も、同様に重巡洋艦主砲並の副砲を備えているらしい。



 だが、他国海軍の一部新鋭戦艦や旧式戦艦などが装備していた副砲と同等の6インチ級程度ならばともかく、紀伊型が諸外国に公開された当時から、その8インチという大口径の副砲配置は、近代戦艦の祖とも言えるドレッドノート級で否定された中間口径砲の復活なのではないかと訝しむ声は少なくなかった。

 排水量を抑える目的もあるのだろうが、米海軍の新鋭戦艦などは中間口径の副砲を完全に廃して、機銃を除くと16インチ主砲と5インチ両用砲に兵装を揃えていたのだが、むしろこうした割り切った配置は第二次欧州大戦後に建造が続けられた列強各国戦艦の主流と言えた。


 実際に日本海軍の中に入ってから栗賀少佐は知ったのだが、大口径副砲の装備だけではなく対空機銃座の代替となる8センチ砲の採用などを含めて日本海軍における砲兵装の刷新は、第二次欧州大戦の戦訓を日本人達が解釈した結果として発生したものだった。

 地中海戦線でドイツ空軍の戦闘爆撃機や急降下爆撃機によって大きな被害を受けた事で、日本海軍では近距離でも一撃で敵機を葬る対空火力を求める声が上がっていた。それが実口径が3インチという長10センチに近しく見える対空砲を開発させた切欠だった。

 大口径副砲だけではなく、日本海軍が4インチ級と3インチ級という似たような口径の対空砲を同時に装備させる事に怪訝な顔を向ける外部者も多かったが、実際にはこの2種類の砲は使い方自体が違っていたのだ。



 大口径副砲の採用も8センチ砲と同様に戦訓を反映したものだと言えた。

 第二次欧州大戦中は、電探装備の充実によって雷装を有する軽快艦艇でも戦闘距離は伸びていた。ある意味において副砲の装備はこうした軽快艦艇の撃退という先祖返りをした任務を与えられたものだったのだが、日本海軍では6インチ級砲ですら近代戦では射程や威力が不足していると判断していたのだ。


 射撃プラットフォームとしてより優れた性能を持つ戦艦も高精度の電探を備えていたから、主砲を用いれば軽快艦艇の射程外から制圧することも可能だったが、電探で周囲の状況を詳細に把握した軽快艦艇側は、友軍戦艦と挟撃に走る可能性もあった。

 そうなると戦艦側は、脅威の種類が異なってくる敵戦艦と軽快艦艇のどちらに強力な主砲の火力を向けるかといった難しい選択を強いられるのではないか。



 半世紀前の旧式戦艦に載せられていた中間口径砲は、主砲と同じ標的を狙う事で結果的に弾着修正を困難にさせてしまっていた。ドレッドノート級が諸元が統一された大口径主砲のみの搭載にこだわったのは、射撃管制を容易にして長距離砲戦時の命中率を向上させるためでもあった。

 だが、現在の日本海軍では戦艦が敵戦艦との砲撃戦を行う際には、副砲の射撃目標は主砲射撃を妨害しないように主砲とは別個の標的とする事が明示されていた。

 彼我共に複数の戦艦と交戦する場合、通常は単縦陣を組んだ友軍の1番艦が敵1番艦を狙うことになるが、副砲はこうした時には単艦、あるいは戦隊、小隊単位による共同射撃で単縦陣内に位置して友軍戦艦の射撃目標となっていない敵戦艦に射撃を行うものと定められていた。


 重巡洋艦の航海長である栗賀少佐はその微妙な立場もあって実際に文章を読んだことはないが、副砲射撃に関しては意外なほど明確に定められているらしい。

 戦艦群に接近する敵巡洋艦部隊や水雷部隊に対しては、旗艦と思われる先頭艦を戦隊単位で集中射撃するとされていた。やはり出来るだけ遠距離で軽快部隊を阻止するためだろう。

 だから副砲で敵戦艦を射撃するのは、周囲に接近しようとする敵軽快艦艇が存在しない場合に限られる筈だが、逆に敵戦艦に集中できる場合は副砲だけではなく高角砲も敵戦艦への射撃を行う事と定められていた。


 実際には電探射撃の実用化で夜間戦闘であっても主砲戦距離は伸びていたから、高角砲の実用的な射程では敵戦艦にまともに砲弾を送り込めるとは思えないから、現実には夜戦で照明弾による支援が出来る程度だろう。

 元々、戦艦による決戦距離とされた20キロ程度となると、副砲でも敵戦艦の重装甲に対する貫通能力が到底期待出来る距離ではないから、上部構造物の防御区画外にある艤装品をなぎ払ったり、火災を起こせれば上等といった程度でしかないのだ。


 いずれにせよ大口径副砲の存在がそのような戦策の策定に繋がったのだろうが、それは結果であって原因ではないだろう。

 おそらくは米海軍に対して当初から数上の不利が生じることを予め想定していたからこそ、日本海軍は自軍戦艦の主砲で狙いきれない敵戦艦を牽制するために、主砲戦に影響を与えない形で最大限の効果が得られるように副砲射撃を細かく定めていたのではないか。

 消極的な理由とも言えるが、そう考えると現状は日本海軍の想定どおりと言えるのかもしれない。グアム島に向かって突き進む八雲の艦橋で星明りに照らされた海面を見つめながら、栗賀少佐はそう考えていた。



 日中行われた航空戦のさなかに行われた艦上偵察機による写真撮影の結果、マリアナ諸島の沖合に展開する敵艦隊には、少なくとも7隻の戦艦が確認されていた。

 戦力の少なくない分を大西洋方面に抽出されているのか、米海軍が保有する戦艦の総数からすれば少なく思える数だった。作戦前の想定では、日本海軍の残存戦艦数に匹敵する10隻程度がグアム島防衛に前進配備されていてもおかしくないとさえ考えられていたのだ。


 だが、緒戦の核兵器による大損害に加えて、修理、改修などの理由で稼働する戦艦が減らされていた結果、日本海軍が今回の作戦に投入できた戦艦は6隻を数えるだけだった。

 しかも、練習艦であった比叡や大改装中の陸奥を除くと、旧式艦を一挙にトラック諸島で喪失した後の日本海軍では最も旧式となる磐城型と、第二次欧州大戦開戦以後に建造されたもののその戦訓を完全に反映させたとは言えない常陸型と大和型で戦艦部隊は構成されていた。

 欧州大戦を見据えて建造された2隻の信濃型は遣欧艦隊に配属されたままで未だに英国から引き抜けなかったし、紀伊型は1番艦がトラック諸島で失われた上に尾張も大改装を終えたばかりで再戦力化には時間がかかりそうだったからだ。


 結局、戦策で定められた大口径の副砲を装備している戦艦は、この中では大和型の2隻だけだった。日米戦艦同士の砲撃戦となれば、一対一で主砲戦を挑んだとしても敵戦艦1隻は主砲で狙えないということになる。

 この1隻に対しては副砲や高角砲で牽制射撃を加えるということなのだろうが、大和型の副砲配置は常識的に両舷に2基づつを割り振ったものだったから、片舷側に指向できるのは2基のみだった。

 大和型が配属されている第4戦隊の2隻分で集中射撃を行っても計12門にしかならないから、この大型軽巡洋艦1隻分程度の火力では有力な米新鋭戦艦を制圧し切るのは難しいのではないか。



 彼我の戦力比が不利なのは戦艦群だけではなかった。むしろ巡洋艦部隊の方が不利だった。米艦隊の戦艦は、1隻はまだ艦種不明らしいが、残りは巡洋戦艦に近しいとされるアイオワ級と、中型戦艦のコネチカット級らしいから、常陸型や磐城型でも一対一ならば互角の戦闘が出来るはずだからだ。

 ところが、巡洋艦の数は一対一どころか倍近くになるようなのだ。航空戦が開始された時点では、両軍における巡洋艦の総数はさほど変わらなかったはずだが、日本海軍の巡洋艦部隊は日中の航空戦で消耗してしまっていたからだ。


 6隻の米代型防空巡洋艦は全艦が残存していたが、同艦を夜戦には投入できなかった。防空戦闘の要である米代型は空母部隊の直掩から外せなかったのだ。

 マリアナ諸島沖の予想戦闘海域と航空戦を繰り広げていた海域との距離を考慮すると、南下した水上戦闘部隊が戦闘後に最速で空母部隊に合流しても、夜明からしばらくは無防備となってしまう事が予想されていたからだ。


 むしろ、6隻の大鳳型、龍鳳型に日中の戦闘を生き延びた飛龍を合流させた空母部隊は、米代型と航空戦隊直属の駆逐隊を連れて硫黄島方面に移動して戦場から間合いをとっていた。

 場合によっては、消耗した分の航空隊を本土から補充して、明日以降の航空戦再開に備える腹積もりだったのだろうが、どのみち長10センチ砲しか持たない防空巡洋艦である米代型では、夜戦では敵駆逐艦を制圧する程度のことしかできないのではないか。



 つまり、日中は合流して巨大な輪形陣を構成していた第11分艦隊は、空母部隊の第21分艦隊を分離して純粋な水上戦闘部隊である第31分艦隊のみで進撃を続けていたと言えるが、実際はさらに戦力は低下していた。

 戦闘開始時点では、第31分艦隊は6隻の戦艦の他に、同じく6隻の石鎚型重巡洋艦が3個戦隊に分かれて分艦隊主力として配属されていた。この6隻ずつの戦艦、重巡洋艦は、戦隊毎に各航空戦隊を中核とする輪形陣に配置されて航空戦においては防空戦闘を遂行していたのだ。


 航空戦における損害は少なくなかった。撃沈された大型艦は、空母翔鶴のほかはその直援についていた防空巡洋艦熊野の2隻だけだったが、第10戦隊の2隻の石鎚型重巡洋艦が戦闘不能となる損害を受けて後退を余儀なくされていた。

 大鳳型空母の直援についていた石鎚、六甲の2隻は、空母を守り切る代わりに主砲を含む激しい対空砲火でB-36から投弾された誘導爆弾を引き付けていたようだった。


 米空母航空隊の攻撃は中途半端なものだった。何度か爆装したレシプロ戦闘機が確認されたくらいだった。爆弾を抱えて鈍重になったレシプロ戦闘機は大半が阻止されていたから、本来高角砲が対処すべき中低高度からの脅威は大きくはなかった。

 その代わり、B-36から投弾される誘導爆弾の威力は大きかった。戦闘機隊だけではなく、誘導噴進弾を積み込んだ艦攻隊まで全力投入しても、米海軍艦上戦闘機の妨害で阻止しきれなかったのだ。


 まばらに放たれる高高度まで到達可能な対空砲火を無視するようにして艦隊上空に達したB-36は、次々と誘導爆弾を投下していた。残念ながら今日の戦場となった海域は晴れ渡っており、視界を遮るのは薄い砲煙だけだったから、上空からの目視による誘導は容易だったのではないか。

 撃沈された瑞鶴の様子からしても、投弾された爆弾は1トン級の大型爆弾なのは間違いなかった。1万メートル程度からの高高度から重力に引かれて加速された大型爆弾の海面落着時のエネルギー量は、戦艦主砲弾にも匹敵するはずだった。

 16インチ砲の砲弾重量はおおよそ1トン程度で、その弾道の最大高度も1万メートル程度となるからだ、


 一部の空母は飛行甲板を装甲化されていたが、想定された攻撃は航空撃滅戦における先制攻撃となる急降下爆撃機の攻撃だった。

 精々が500キロ程度で低高度から投下される爆弾と、戦艦主砲弾では格段に威力の差があるが、空母に戦艦主砲に耐えうる装甲を施すのは物理的に不可能だった。


 直撃を食らわなくとも、海面下で炸裂する1トン爆弾がもたらす被害は大きかった。石鎚と六甲の2隻も至近弾の炸裂で生じた圧力で機関室内に浸水を起こしていたのだ。

 石鎚型は日本海軍の重巡洋艦としては厚い装甲を持っていたが、高速を発揮する為に船幅を絞られた巡洋艦構造では十分な水雷防御は出来なかったのだろう。

 2隻を率いる第10戦隊の司令官は応急工作でなんとか本土まで両艦を帰還することは可能と言っていたが、これ以上の戦闘は不可能だった。そこで左近允中将はm誘導弾を打ち尽くした石狩型を護衛につけて第10戦隊に後退を命じられていたようだ。

 その結果、南下する艦隊の中で対空誘導噴進弾を保有する艦は鈴谷だけになっていたし、巡洋艦の数でも不利となっていたのだ。


 ―――分艦隊司令部は、例の機体と我が戦隊の噴進弾攻撃でこの戦力比をひっくり返せると本当に考えているのだろうか……

 そう考えていた栗賀少佐の耳に、友軍機飛来の報告が聞こえていた。

八雲型重巡洋艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cayakumo.html

大和型戦艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/bbyamato.html

紀伊型戦艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/bbkii.html

信濃型戦艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/bbsinano.html

磐城型戦艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/bbiwaki.html

常陸型戦艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/bbhitati.html

戦艦陸奥の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/bbmutu.html

尾張型航空戦艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/bbowari.html

コネチカット級戦艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/bbconnecticut.html

石鎚型重巡洋艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/caisiduti.html

米代型防空巡洋艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/clyonesiro.html

鈴谷型防空巡洋艦改装型の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/clsuzuyakai.html

大鳳型空母の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cvtaiho.html

瑞鳳型空母(改大鳳型)の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cvzuiho.html

蒼龍型空母の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cvsouryuu.html

石狩型防空巡洋艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/clisikarikai.html

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