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1952グアム島沖砲撃戦13

 カウペンスからジェット戦闘機であるF6Uが一旦発艦した次は、本命の攻撃機であるBTMが次々と兵装を満載した重々しい機体を浮かび上がらせていた。このBTMがカウペンスから放たれる攻撃隊の主力であるのだが、攻撃隊の配列にはBTMの後にF6Uの第二陣が待ち構えていた。


 カウペンスに搭載されたカタパルトには連続使用制限があった。爆装した重量級の機体を連続発艦させるために最大出力を維持した場合、シリンダーや高圧を供給するための油圧ポンプなどが過熱状態となってしまうからだ。そこで戦闘機隊の一部がカタパルト使用後に残されていたのだ。

 爆装した攻撃機に比べれば軽量であるF6Uは、一応自力での発艦は可能だったが、それには飛行甲板の全長を使う必要があったし、正確に風向きを揃えて合成風力の助けを得ないと発艦は難しかった。



 ビール中尉は、カウペンスと主機関を含む船体構造が同一といってよいクリーブランド級軽巡洋艦タラハシーでも航海士として勤務した経験を有していたが、操舵の癖はクリーブランド級とプリンストン級ではかなり違って感じられていた。

 航空母艦特有の舷側に偏った配置である島型艦橋からの視界が悪いせいかもしれないが、単純に飛行甲板や格納庫の増設で膨れ上がった上部構造物による風圧の増大などによるものかもしれなかった。


 何にせよ、飛行甲板全長を使って発艦するF6Uの姿を横目で見ながら、ビール中尉は操舵に集中するしかなかったのだが、カウペンスが就役した当初は、このような変則的な手法は考えられていなかった。

 確かにカタパルトの射出能力には余裕がないことは分かっていたが、どのみち軽空母の攻撃隊の配列に使用できる飛行甲板後部の面積を考慮すれば、カタパルトが音を上げる前に攻撃隊全機が発艦しているだろうと考えられていたからだ。

 通常は、配列に使用できる面積の制限から、全搭載機を一斉に発艦させるのは現実的ではなかったのだ、


 アンティータム級とプリンストン級が装備したカタパルトそのものは、より大型のボノム・リシャール級が装備したものと同じ型式だった。ただし、カタパルト本体ではなく蓄圧器や加圧ポンプなどの容量には差異があるらしい。

 巡洋艦の船体に航空艤装を詰め込んだ軽空母と、ヨークタウン級を原型として最初から空母として建造されたボノム・リシャール級では、カタログスペックには現れない周辺機材を収める余裕が違うのだろう。

 ただし、ボノム・リシャール級の場合は広い飛行甲板を有するために攻撃隊配列のスペースが確保されている事も無視できなかった。むしろ発艦機が多いからこそボノム・リシャール級はカタパルトの連続使用能力に余裕を持たせていたといえるのではないか。



 軽空母計画が立ち上げられた当初はそれ程問題視されていなかったカタパルトの余裕が取り沙汰されるようになった理由の一つは、当然完全ジェット戦闘機であるF6Uの採用によるものだった。

 同機は米海軍で最有力の艦上戦闘機となったのだが、飛行甲板長等から航空巡洋艦等での運用は難しく、大型空母専用となるのではないかという話もあったらしい。


 だが、搭載機数は少ないとはいえアンティータム級やプリンストン級は、就役数の多さによって可能となる柔軟な運用で大型空母に対抗するために計画されたものだった。小規模でもその航空隊は大型空母と同じ機種を運用出来なければ、この方針そのものが無意味なことになってしまうのだ。

 そこでF6Uを運用する為に慌ただしく改造工事や機材の追加が行われていた。これでジェットエンジン機の通常運用が何とか可能となったとようやく判定されていたのだが、今回の作戦前に急遽F6Uの搭載割合が上げられたことで等々プリンストン級の能力は破綻していたのだ。



 カウペンスだけではなく、今回の作戦に投入されたアンティータム級とプリンスン級への戦闘機隊増強は、攻撃機の削減によって可能となっていた。ただでさえ大型化で搭載機数の少なくなった攻撃機は更に減らされていたのだ。

 航空機には門外漢のビール中尉は、それなら攻撃隊発艦時のカタパルトへの負荷は減りそうなものだと考えていたのだが、実際には減少した攻撃機数で打撃力を維持する為に、攻撃隊に参加するBTMはカタパルトの限度一杯まで兵装を増し積みして出撃させることになって、一機あたりの負荷はむしろ上がっていた。


 強引にF6Uの搭載数が増やされたのは、艦隊から一斉に発艦する攻撃隊と共同攻撃を行う予定である陸軍機の援護を行う為だった。

 空母機動部隊の計画時に海軍航空関係者が危惧していたとおり、陸軍航空隊の重爆撃機は軍内部で影響力を増していたのだが、ある意味では最近になって海軍側がそれを証明する戦訓を作り出していたのだ。



 先日、日本本土への戦略爆撃を行った陸軍航空隊の重爆撃機隊は、海軍の援護を受けていた。空母と航空巡洋艦を主力とする艦隊がグアム島を発したB-36とタイミングを合わせて戦闘機隊を発進させていた。


 日本本土は太平洋の端に存在していた。米陸軍航空隊が拠点とするグアム島から日本本土は巨人機にふさわしい航続距離を持つB-36であれば悠々と往復出来るのだが、陸軍の戦闘機隊が全行程で随伴するのは不可能だった。

 陸軍の主力戦闘機は、海軍のF15Cとは仕様違いとなるF-83だった。同機の航続距離は標準的な戦闘機程度だったから、グアム島にしばしば空襲をかける日本機を迎撃するので手一杯らしい。


 それどころか、長距離援護機であるはずのF-87でさえグアム島よりも北に位置するサイパン島から発進しても日本本土までの航続距離が足りず、日本領の硫黄島から発進する迎撃機を牽制することしか出来なかった。

 完全ジェット戦闘機のF-87は、燃費の良い巡航速度ではB-36との速度差が大きくなってしまう上に、戦闘機動を行うと急速に燃料を消費してしまうから、B-36隊への随伴も難しかった。

 それならば日本軍が外郭陣地としている硫黄島あたりを占領して基地化してしまえば良さそうなものだが、マリアナ諸島の攻略に投入された海兵隊を含めて太平洋方面に投入可能な地上戦力が枯渇している現状では大規模な上陸作戦を行う余裕は米軍にはなかった。



 予想以上に日本軍の迎撃体制が強固なものであったことから、段階的にB-36には行程の一部でも護衛戦闘機が随伴するようになっていたのだが、結局は日本本土近海では丸裸となって毎回のように少なくない損害を出していた。

 ところが、先日の空襲では、横合いから空母搭載の戦闘機に襲われた日本軍は混乱していたのか、普段よりも脆弱な迎撃網を突破してB-36は大した損害も出さずに帰還出来ていたようだった。それに日本人達の首都を焼き払う大戦果が後から確認されたとも聞いていた。


 この時投入された空母は、艦隊随伴用のエセックス級1隻と、損傷したアラスカ級の後部を飛行甲板に作り変えて航空巡洋艦としたグアンタナモだけだった。搭載機は2隻合わせても百機にも満たない数でしかなかったはずだ。

 だが、戦略爆撃の援護に徹して戦闘機隊を集中搭載する事で、この僅かな航空部隊が大戦果を引き出していた、と軍上層部では評価していたらしい。



 B-36の戦略爆撃は久方ぶりに大戦果を上げたが、逆の視点から見れば彼らの首都に大きな損害を被った日本人がグアム島に対して報復攻撃に出てくるのは必至だった。

 しかし、この時期米海軍は大西洋でも戦力を必要としていた。カリブ海植民地の奪還を狙って欧州諸国が艦隊を南米に集結させつつあるというのだ。

 パナマ運河を通過可能な大型艦の大西洋艦隊への引き抜きは、グアム防衛に投入可能な戦力を制限していた。この状況の中で、従来以上に海陸軍、正確に言えばアジア艦隊と陸軍航空隊の共同攻撃が求められていた。


 日本軍が大型空母を中核とする艦隊を投入してくるであろうことを考慮すると、機動力を持つアジア艦隊がグアム島の盾とならなければならないという認識が広まっていた。

 アジア艦隊が日本艦隊をいなす間に、高価な誘導爆弾を使用するB-36部隊が攻撃をかけるのだ。それに日本艦隊がグアムに接近するのであれば、足の短い陸軍の戦闘機隊も役に立ってくるのではないか。


 米海軍は、戦艦群を引き抜く代わりに太平洋艦隊を経由してアジア艦隊に空母を配備していった。狭いカリブ海では解放された欧州諸国植民地が航空基地として使用できる為か、大西洋艦隊には旧式のコロラド級やヨークタウン級ばかりが残されていた。

 そしてアジア艦隊にはアンティータム級、プリンストン級に加えてエセックス級を加えた計8隻の空母が配属されていたのだ。いずれも船型は小さいが、速度は高いから縦横無尽に機動して日本艦隊とグアム島の間に割り込むことが可能だった。



 この高速空母部隊を盾として運用するという方針に従って急遽カウペンス他の軽空母部隊には戦闘機隊が追加されることになっていた。

 尤も、何もない所から戦闘機隊が湧いて出るはずもなかった。それどころか、艦隊に急に配属されたグアンタナモなどは搭載機を確保する為にドック入り中の艦から搭載機を分捕っていたらしい。


 軽空母部隊に増備された戦闘機は、実はボノム・リシャール級に当初配備されていたF6Uだった。

 妙な話だった。ボノム・リシャール級からF6Uを転籍させるくらいならば、直接同級をグアム島防衛に回せば良さそうなものではないかとビール中尉達は話し合っていたのだが、話はそう簡単ではなかった。


 太平洋艦隊に配属されたボノム・リシャール級3隻は、それぞれが船団護衛部隊に回されていた。貧弱な護衛艦艇を補う為に対潜哨戒機を積み込んで太平洋を往復し続けていたのだ。

 船団襲撃に日本軍機が飛来する可能性は低いから、確かに船団護衛任務中は艦上戦闘機の出番は無いのだろうが、貴重な大型空母を船団護衛に投入するのは勿体ない気もしていた。

 むしろ数が多い軽空母を船団護衛に投入すれば、それこそ柔軟な対応が可能ではないか、そう考えたビール中尉はサンディエゴから出港するボノム・リシャール級の姿を見て唖然とする羽目になった。


 航海の合間の短い整備期間しか与えられなかった為か、新造艦とは思えないほど錆の浮かんだボノム・リシャール級の飛行甲板には、巨大な双発機が翼を休めていた。

 それが対潜哨戒機であるということは一目瞭然だった。要は途中の補給拠点の乏しい太平洋航路を絶え間なく哨戒する為に対潜哨戒機が大型化し、その大型機を運用できるのが大型空母のボノム・リシャール級しかいなくなってしまったということらしい。



 ―――何にしても、我が海軍は長期的な軍備計画に関しては後手に回っている気がする……

 ようやく攻撃隊全機の発艦作業を終えた為か、ビール中尉はそんなことを考え始めていた。上空を通過する爆撃機の報告が上がったのはその時だった。

 視界の悪い艦橋窓から、首を折るように不自然な格好で上空を見上げたビール中尉は、雲を引きながら何機ものB-36が艦隊上空を通過していくのを複雑な顔で見つめていた。


 結局以前海軍が懸念していたとおりに陸軍航空隊の重爆撃機が戦争の主役に躍り出て、海軍の艦隊航空隊は脇役に甘んじることになっていたのだが、そこへビール中尉を叱責するように艦長が回頭の命令を出していた。

 余計なことを考えている余裕は無かった。急がなければならなかった。発艦を終えた艦隊は、今度は航続距離の短いジェット機が帰還するまでに攻撃隊の帰還予定海域に戻らなければならないのだ。


 発艦以上に攻撃隊の収容は厄介だった。ジェットエンジンの燃料消費量は膨大だから着艦作業を急ぐ必要があるのだが、失速速度の高いF6Uを着艦させる為には飛行甲板をクリアにして前方を開ける必要があった。

 高速のジェット機をバリアで抑えきれずに艦首付近に滞留していた機体に衝突する事故が発生していたからだ。

 もたもたしていると上空待機する機体が燃料切れとなってしまうから、カウペンスのエレベーターは休みなく動くことになるし、再び風上に向けて全速を出す必要があった。



 だが、一斉回頭する艦隊の中で、脆弱な空母を庇うように北方を航行する巨艦を見つけたビール中尉は愁眉を開いていた。

 ―――あんな有力な戦艦がいるのであれば、アジア艦隊自体が鉾となっても良かったのではないか。

 頼もしい思いでビール中尉は新鋭戦艦の姿を見つめていた。

F15Cの設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/f15c.html

グアンタナモ級航空巡洋艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cfguantanamo.html

コロラド級空母の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cvcolorado.html

ワスプ級空母の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cvwasp.html

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>戦略爆撃の援護に徹して戦闘機隊を集中搭載する事で、この僅かな航空部隊が大戦果を引き出していた、と軍上層部では評価していたらしい。 こういった評価って難しいですよね。 同じ状況条件が揃う事も無いし、…
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