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1951グアム島沖陽動戦22

 あれだけ多くの艦艇をつぎ込んだというのに、夜戦は引き分けに終わったらしい。接触機からグアム島に向けた通信内容を検討しながら、ヘイル大尉は愛機の操縦席で眉をひそめてそう考えていた。



 駐機場で慌ただしく夜間照明に照らされながら出撃準備を行っていたB-49を尻目に、丁度曙光が海面にさす頃に敵艦隊を確認出来る位置に進出するために接触機はまだ暗い中からグアム島を離陸していった。その接触機にようやく追いつく位置までヘイル大尉達はたどり着いていたのだ。

 ただし、接触機が出撃しても、グアム島から後続の攻撃隊が出撃するかどうかは分からなかった。昨日の戦闘でグアム島に駐留する第20爆撃群指揮下のB-36は大きな損害を出していたからだ。

 爆撃集団司令部としては、接触機から送られてくる敵艦隊の現状に関する報告を検討してから、敵艦隊に再度攻撃を加えるかどうかを決定するという方針のようだった。


 日本艦隊の防空能力は予想以上に高かったのだが、それ以上にアジア艦隊から出撃した戦闘機隊との合流に失敗したことが有効な対艦攻撃の手順を狂わせる主因であったと出撃した第20爆撃群では主張していた。

 だから接触機からの報告で、アジア艦隊との夜戦で日本艦隊が被った損害を確認してからではないと作戦計画を立てようが無かったのだろう。

 日本側が昨日と変わらない防空戦闘能力を保持しているのであれば、今度こそアジア艦隊と出撃時間を調整して慎重に共同攻撃を行わなければ、第20爆撃群は壊滅的な損傷を被ってしまうと考えているのではないか。



 だが、そのような爆撃集団司令部の方針を漏れ聞いていたヘイル大尉は、僅か1日の戦闘経験で司令部からは積極性が失われているのではないかと感じていた。

 日本艦隊は水上戦闘艦のみを抽出して夜戦に挑んでいた。つまり彼らの後方には直掩艦に守られた空母部隊が温存されているということになる。昨日の戦闘では少なくとも空母1隻の撃沈が確認されているというが、まだ日本艦隊には健在な空母が残されているはずだった。


 帰還したB-36の搭乗員からの報告によれば、日本艦隊は空母を中心とした重厚な陣形を構築して爆撃隊を待ち構えていたらしい。

 ただし、その場しのぎか景気づけに撃ち出したのだろう戦艦主砲などを除けば、駆逐艦など多くの艦艇の火力はB-36にとって無視出来たはずだった。B-36は大型の対艦誘導爆弾を投弾するために高射砲の射高近くまで上昇していたからだ。

 対艦誘導爆弾は、水平爆撃による弾道の不確実性を誘導装置によって補うという方針で開発されたものだったから、誘導さえ可能であれば出来るだけ投弾時の高度が高いほうが有利だったのだ。


 状況からして射撃艦の真上を飛行しない限り高射砲の射程内に入り込むことすら無いだろうし、射高近くでは射撃を受けたとしても短時間だけの筈だった。射撃時間が短時間であれば送り込める砲弾の密度も大幅に下がるから、高高度を飛行する限りは大きな損害を受けることもなかったのではないか。

 先の大戦でドイツ軍から分捕ったものなのか、一部の艦艇は高射砲ではなくロケット弾を撃ってきたというが、数は少なかったようだし、海面から重力に逆らって一挙に1万メートル上空に駆け上がらなくてはならないのだとすれば、そもそもロケット弾の弾道が大した精度を保てるとは思えなかった。



 やはり日本艦隊の防空戦闘能力を構成する中核となっているのは戦闘機隊と考えて良さそうだった。アジア艦隊から出撃した戦闘機隊の援護が受けられなかった為もあるのだろうが、予想外に強力だった日本艦隊の戦闘機隊にB-36隊は苦戦させられたようだからだ。

 昨日の戦闘では未知のジェット戦闘機も確認されていた。日本軍ではこれまでも四六式という特徴的な先尾翼機が陸上、艦上兼用機として確認されていたのだが、より上昇力と速度に優れる戦闘機が日本艦隊上空に現れていたのだ。

 結局B-36の高高度飛行能力は、艦艇の対空砲火は減衰させられたものの、大出力で強引に上昇してくるジェット戦闘機に対しては効果が薄かったのだろう。


 この状況からすれば、日本艦隊の防空能力は昨日の戦闘から8割程度は保持していると考えるべきではないか。日本艦隊の空母は最初に確認された6隻中5隻が無事だし、距離を取れば硫黄島からの援護も受けられるかもしれなかった。

 つまり夜戦で水上戦闘艦がいくらか損害を受けていたとしても、B-36に対する脅威という点では大きく低下などしないはずなのだ。勿論爆撃集団でもその程度のこと把握しているはずだった。

 これでは、単に司令部は虎の子のB-36をこれ以上損耗させたくないから、出撃を中止に出来るだけの理由を探しているだけと言われても仕方がないだろう。



 操縦桿を握ったままそこまで考えて、ヘイル大尉は思わず頭を振っていた。強引にB-49編隊を出撃させるためにあちらこちらを走り回されていたのだが、実際に出撃してからは何故か状況を悪い方にばかり考えてしまっている気がしていた。

 必ずしもヘイル大尉が考えているほど状況が悪化しているとは限らないのだ。実際には日本艦隊の水上戦闘艦減少は、防空火力の減衰に加えて陣形内部への進入を容易にするかもしれない。そうなれば後続のB-36編隊による爆撃時も妨害は大きく減るのではないか。


 それに硫黄島の航空基地にはつい先日ヘイル大尉自身が爆撃を行っていた。滑走路を掘り起こす勢いで猛烈な爆撃を加えたのだから、そう簡単には復旧は出来ないはずだった。

 軽快な戦闘機や連絡機程度ならば滑走路の一部だけでも仮復旧して運用できるかもしれないが、そうした軽快な単発機の行動半径内に踏み込まなければ爆撃隊の障害にはならないだろう。



 ヘイル大尉は、気を取り直すように操縦席から共に出撃した僚機の姿を見渡していた。ささやかな攻撃隊だった。しかも僅か4機のB-49編隊は、既に接触機からの情報を元に海面近くまで降下していた。

 北上するB-49の右手に見える東の空は曙光に照らされて赤く輝きだしていたが、海面はまだ薄暗かった。それにも関わらず編隊の飛行姿勢はどの機も安定していた。

 明るくなりだした高空には既に接触機に指定されたB-36の姿が見えてもおかしくはないはずだが、まだ低い位置から差し込んでいる太陽光を隠蔽されでもしないかぎり肉眼で確認するのは難しそうだった。


 だが、接触機からの報告は続いていた。グアム島に向けた通信ではなかった。上空から敵艦に接近するB-49編隊に向けて状況を送り続けてくれていたのだ。

 海面を這うように飛行するB-49からは敵艦の姿は水平線の下に隠れて見えなかったのだが、上空からの連絡で手に取るように敵艦の動きを把握することができたのだ。


「接触機の機長を拝んでまで情報の転送を依頼して良かったな」

 ヘイル大尉は機内通話装置でそういったのだが、乗員達から返ってきたのは苦笑する声とも言えない声ばかりだった。ヘイル大尉のその時の態度は、拝み倒すというよりも、脅しすかすという方が正しかったからだ。

 手土産の煙草数箱だけを持って接触機の駐機場を訪れたヘイル大尉は、気の荒そうな下士官兵ばかりを引き連れて出撃前で接触機の乗員だけが集まっていたところに押しかけていたのだ。

 場合によっては接触機が見えてきたところで無線でまた脅さないといけないかと思っていたのだが、接触機の機長が律儀な男だったのか、B-49が見えた時点で敵艦への進路や距離を上空から教えてくれていたのだ。


 低空侵入の弱点は索敵だった。レーダー観測や見張り員による目視から逃れる為に低高度を飛行した場合、逆に自機からも接敵する直前になるまで敵の様子を伺うことが出来ないのだ。

 相手が不動の航空基地なら大した問題とはならないが、刻一刻と機動する航行中の敵艦を襲撃するには相対位置の把握は必要不可欠だったのだ。特に今回は目標となる敵艦と発射時の相対関係を正確に守らなければ命中は期し難かった。



 ―――しかし、B-49のこうした攻撃手順が単独では成り立たないとすると、今後は対艦攻撃の手順を考え直す必要があるな……

 そう考えながらも、ヘイル大尉は敵艦との距離を再度確認するとゆっくりと機首を上げ始めていた。

 ただし、高度を上げたのはヘイル大尉のアロー号だけだった。僚機を務める3機のB-49は、横一線に並ぶように隊列を整えながら低空飛行を続けていた。機首を上げた事で、高度の代わりに速度が低下したアロー号の操縦席からは先行する僚機の姿がよく見えるようになっていた。


 出撃機数が少ない分、各機の乗員は手練の組を選んでいた。硫黄島航空基地への爆撃作戦では低空飛行に不安のある機体も見えたのだが、今日出撃した3機はいずれも飛行姿勢は安定していた。

 むしろ、一番操縦が不安定となっているのはヘイル大尉のアロー号だった。他の3機が爆弾倉内部に軽量の百ポンド汎用爆弾を詰め込んでいたのに対して、アロー号だけは長尺物が爆弾倉に収まらなかったものだから、使用頻度が低い胴体下部に外付けされるラックを使用して機外に獲物を搭載していたからだ。



 ヘイル大尉達が狙っているのは空母部隊では無かった。昨日最後に確認された時点でも、日本軍は空母部隊に防空巡洋艦と思われる直掩を残していたからだ。

 爆装して動きが鈍くなったB-49が狙うには空母部隊は危険過ぎる獲物だった。対艦誘導爆弾を使用するB-36と違って、低空を進攻するB-49は高度差を盾とすることも出来ないから、高射砲や対空機銃ですら脅威となる筈だった。


 ヘイル大尉が獲物としたのは、夜戦で傷ついている筈の水上戦闘艦だった。アジア艦隊の戦果を横取りするようで気が引けるのだが、空母部隊と合流すべく北上する艦隊ならば、陣形も乱れているだろうから少数機の編隊による奇襲攻撃も成立すると考えていたのだ。

 だが、B-49に残された装備は貧弱なものでしかなかった。

 開戦時に想定されていた陸軍航空隊による対艦攻撃の主力は高高度からB-36によって投下される対艦誘導爆弾だったし、そもそもグアム島に爆撃集団が管理する弾薬庫に残された爆弾は、中途半端なサイズからこれまで重爆撃機隊ではあまり使われていなかった百ポンド汎用爆弾ばかりだったからだ。


 勿論百ポンド爆弾でも対艦攻撃が不可能というわけではない。その程度の爆弾でも防御がされていない艤装品、敵艦の高射砲や機銃程度ならば破壊できるのではないか。

 ただし、通常の水平爆撃で高高度から百ポンド爆弾をばら撒いたところで効果は薄かった。弾数を増やしても散布界は過大となるし、重力加速度で落着時の速度が早まったところで重量が軽いから運動量はさほど大きくならないのだ。

 それ以前に炸薬の比率が高い汎用爆弾では、薄い弾殻の強度が足りずに敵艦に命中しても起爆前に破損して不完全にしか起爆しないかもしれなかった。


 途方に暮れたヘイル大尉に、弾薬庫の奥底に眠っていたものの存在を教えたのは整備隊の古参下士官だったが、話を聞いていた若い乗員や整備兵は怪訝そうな顔を浮かべていた。

 ―――弾薬庫には航空魚雷が残されている。

 空母に積む海軍の兵器がなぜこんなところにあるのか、そんな疑問を顔に浮かべている将兵が多い中で、B-18から重爆撃機を乗り継いでいたヘイル大尉だけはその正体に気がついていた。

 だが、面白そうな顔の整備下士官と違って、ヘイル大尉は自分から出撃の強行を言い出したのにひどく嫌そうな顔になっていた。

四九式艦上戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/49cf.html

四六式戦闘機震電/震風の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/46f.html

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