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1951グアム島沖陽動戦20

 夜戦を決意した時点で、常識的に判断すれば敵日本艦隊はアジア艦隊同様に艦隊を分けている筈だった。戦艦と軍縮条約で性能を縛られた巡洋艦以下の軽快艦艇では想定交戦距離が違ってくるし、錯綜しがちな夜戦においては艦隊主力が混乱に巻き込まれないように索敵部隊を前方に配置するだろうからだ。



 ただし、戦力に限界のある彼らはアジア艦隊ほど大きくは距離をとっていないとケネディ中佐は予測していた。大西洋どころか西海岸で待機する太平洋艦隊から戦力を増派することも可能なアジア艦隊とは異なり、この艦隊は日本人に残された貴重な部隊だろうからだ。

 おそらくは前衛や水雷襲撃部隊を主力たる戦艦群から分離していたとしても、相互に援護可能な距離を保って決戦前の損失を防ごうとしているのではないか。

 そのようなケネディ中佐の予想に基づいて敵艦隊の配置を検討すると、光学観測とレーダーでハイキャッスルから見て大きく角度が違う2箇所で敵艦らしき反応が確認されてもおかしくはなかった。


 レーダーによる観測のみであれば分離した敵艦隊の一方しか確認できなかったのだろうが、ハイキャッスルの左舷前方方向には2つの日本艦隊が存在しているのは確実だった。

 ハイキャッスルが装備する対水上レーダーの探知距離は最大で40キロ近くにもなるというから、夜間に見張員が探知できる距離を遥かに超えているはずなのだが、対象の艦種や気象条件によっても探知距離は大きく変化するからレーダーと見張員の探知距離にさほどの差異がなくともおかしくはなかった。

 勿論水平線の下に隠れた敵艦を直接視認できるとは思えないが、発光信号などが反射した痕跡を捉えていたのだろう。


 少なくともケネディ中佐はそのような予想に確信を抱いているようだった。中佐が海図盤に張り付いている航海士に伝えた敵艦隊の予想針路は2つあったからだ。見張員が確認した光とレーダー観測で発見された目標は異なる部隊だと認識していたのだ。

 そして、敵艦隊がそのままケネディ中佐の予想通りに前進した場合、その針路を遮る位置にゴッサムを先頭とする4隻の巡洋艦が遷移しようとしていた。勿論、偶然などではあり得なかった。ケネディ中佐とゴッサムのウェイン大佐は、短時間のうちに同じ想定を行って敵艦の針路を予想していたのだろう。



 ―――先に敵艦隊に発見されたようだが、これで進路を塞がれた敵艦隊の指揮官に判断を強要するということ、か……

 ウェイン大佐は敵艦隊の目前を塞ごうとしていた。針路の微調整さえ行えば、前衛部隊に配属されているであろう敵駆逐艦の備砲の実用射程外から15.2センチ砲で一方的に射撃を行うことも不可能ではないだろう。

 ウイリー中尉がそう考えている間にも、距離が狭まった敵艦隊の情報が次々と入っていた。やはり敵艦隊は視野内に複数存在していた。接近したことでレーダー観測でも見張員が発見した目標が確認されたのだ。


 ただし、レーダーで観測された反応には接近するに従って差異があることが判明していた。遠距離では個艦の反応を分離できなかった為にレーダー観測では両者は同様に見えたのだが、実際には両艦隊の構成艦には大きな差異があるように思えると報告されていた。

 状況を当てはめてみれば、駆逐艦や軽巡洋艦などの軽快艦艇で構成された水雷襲撃部隊と戦艦などの艦隊主力なのではないか。数は少なくとも個艦の反応が大きな戦艦群に対して軽快艦艇は数が多いから、個別の反応を分離できない遠距離では同様に観測されたということなのだろう。



 だが、ウイリー中尉はレーダー観測の結果に首を傾げていた。状況からすると、ハイキャッスルやゴッサムのように艦隊前方で前衛に当たる部隊の存在が見えなかったのだ。

 軽快艦艇で構成されているであろう既知探知目標の片方にしても、当初のレーダー反応の大きさからすると艦隊の規模が前衛哨戒と言うには大きすぎる気がする。

 レーダー観測からすると、戦艦群と軽快艦艇群では全体の反応が同様だということは、大雑把に言ってみれば部隊単位の排水量では同程度になるということではないか。

 勿論誤差の大きいレーダー観測だけで敵艦の寸法を正確に把握するのは難しいが、少なくとも軽快艦艇群は水雷戦隊程度の規模は有しているはずだった。



 ウイリー中尉が不審に思っていると、ケネディ中佐がまるで中尉の懸念を読み取ったかの様に言った。

「もしかすると日本人には前衛などいなかったのかもしれないな、あるいは少数の敵艦を見逃してしまったか……」

「しかし、本艦含め我々は対水上レーダーを全力で使用しつつ前進していました。仮に哨戒艦が駆逐艦単艦であったとしても、後続の敵艦隊主力と遭遇した以上はどこかで前進していた敵前衛と我々の針路が重なっていてもおかしくはないはずですが……

 そもそも、この海域で敵艦隊と遭遇したということは、お互いに夜間航行中に大きくは欺瞞針路をとらずにほぼ正確にお互いを指向していたということになりませんか」


 ウイリー中尉は怪訝そうな声で言ったが、ケネディ中佐の回答は明解だった。

「いや、我が方のレーダー波を遠距離から探知することが出来ていたのならば、レーダー探知圏を避けて回避するのは容易だろう。この状況では、これみよがしにレーダーを作動させているのは索敵艦だとすぐに分かるはずだからだ」


 ウイリー中尉は思わず声を上げていた。レーダーは肉眼に頼らず、環境を問わずに使用出来るという便利な反面、電波を積極的に発振するという原理から使い方によっては相手により遠距離から察知されるという危険性も有していた。

 レーダーは、アンテナから発振して目標によって反射された電波を解析する事で探知するものだった。その原理からして弱まった反射波ではなく直接発振された電波を探知されれば、レーダー覆域より遠方で電波を探知出来るのではないかというのだ。


 ただし、原理的には可能でも、その様に綱渡りのような機動を要求される戦術を錯綜した戦場で実現するにはいくつかのハードルがあった。

 こちらのレーダーの波長に対応した逆探知用のアンテナがなければ探知自体が不可能だったし、電子機材の操作にあたる乗員にも高度な技能が要求されるのではないか。

 その辺りがどうにもウイリー中尉には納得しがたかった。


「黄色人種にそんな高度な技術力があるのでしょうか……」

 首を傾げたウイリー中尉に、一瞬眉を顰めたケネディ中佐は淡々とした口調で言った。

「昼間の戦闘では我々はその黄色人種に苦戦したのではないかね。敵を侮るのは危険だ。第一、日本人の背後には旧大陸の国々がついているんだ。我々が相手にしているのは、電子戦闘を生き抜いた英国人の知恵を授けられた黄色人種なんだよ。

 それに……相手がどうであれ我々の仕事に変わりはないさ……」



 艦橋隅の艦長席近くで小声で話していた二人に注意するように、伝令が敵艦隊に動きがあると報告を上げていた。継続していたレーダー観測で敵艦の転舵をいち早く捉えたらしい。

 報告された敵艦の動きを脳裏で描いたのか、わずかに表情を消して考え込んでいたケネディ中佐は、すぐに苦笑いを浮かべていた。敵艦隊のうち軽快艦艇で構成されているのであろう部隊が、彼らの前方を横切っていたハイキャッスルに合わせるように西方に艦首を向けていたのだ。


「こちらに同航戦を挑むつもりだな……我が方の4隻が盛大に大出力のレーダー波を撒き散らしているのは連中も観測していたはずだから、こちらが大型のアンテナを抱えた大型艦のみで構成されているのは把握しているだろう。

 日本人は、我々に針路を妨害された挙げ句に艦隊陣容を丸裸にされないために、我が艦隊を始末しようと水雷襲撃部隊を丸ごと送り込んできたというわけだ。

 ウェイン大佐は連中の誘いに乗る振りをして敵艦隊を引き摺り回すはずだぞ。敵水雷襲撃部隊をアラスカ級と重巡の前に誘い出して、戦艦群と接触させる前に殲滅させるんだ」

 ケネディ中佐が檄を飛ばすと、ハイキャッスル艦橋は興奮した雰囲気が漂い始めていた。そしてその興奮が覚めるより前に、ハイキャッスルの前方から光が走っていた。

 轟音が聞こえていたのはその数秒後だった。アーカム級の巨大な飛行甲板に隠されて直接は見えなかったのだが、早くもゴッサムの15.2センチ砲が火を吹いていたのだ。



 針路を変更して同航しつつある敵艦隊とはまだ距離がある筈だった。アーカム級が装備するのは軽巡洋艦主砲の有力な15.2センチ砲とはいえ、実用上の射程にはまだ踏み込んでいないだろう。

 あるいは、ゴッサムのウェイン大佐は対空戦闘時と同様に号砲のつもりで初弾を早々と放ったのだろうか、唐突な発砲に度肝を抜かれながらウイリー中尉はそう考えていたのだが、その理由はしばらくしてから判明していた。

 ウェイン大佐はゴッサム主砲の火蓋を切らせるとともに、隊内無線で後続の僚艦には発砲を待つように命じていたが、伝令がその報告をする前からケネディ中佐は発砲を禁じていた。


 変化が訪れた時、ゴッサムの発砲から一分以上が経過していた。巡洋艦の砲戦距離としてはあまりに長かったこともあるが、おそらくは艦隊の誰にとってもこれまでの人生で一番長い一分だったのではないか。

 そして伝令と見張り員の報告以外誰もが押し黙っていた時間が唐突に終了していた。正確にはそれ以前に時計を確認していたケネディ中佐が口を開いていた。

「右舷見張り員、よく確認しろよ」

 ケネディ中佐が言い終わる前に、淡い光が彼方に発生していた。それはゴッサムから放たれた照明弾が放つ光だった。ウェイン大佐はレーダー観測では難しい個艦の識別を遠距離から放つ照明弾で行おうとしていたのだ。



 アーカム級の艦橋は、船体に屋上屋のように被せられた格納庫とその天井となる飛行甲板の更に上に建てられていた。そのせいで艦橋脇や天蓋上の見張り所からは遠距離まで見渡せた。

 肉眼でどうにかなる距離とも思えないが、高倍率の双眼鏡を与えられた見張り員は、大容量の15.2センチ照明弾から放たれた毒々しい光に照らし出された艦影を掴み取っていた。


 次々と上がってくる見張員の報告によれば、敵艦隊の中核はやはり駆逐艦だった。艦種は不明だが、駆逐艦が7、8隻程度が確認されていた。そして駆逐艦の前方には一回り大きな艦が先導して航行しているらしい。

 おそらくこれが旗艦なのだろうが、駆逐艦とのサイズ差を考慮すればクリーブランド級のような大型巡洋艦とは思えなかった。軍縮条約規定一杯の大型軽巡洋艦などではなく、駆逐戦隊旗艦用のさほど排水量の大きくない由緒正しい軽巡洋艦なのではないか。



 闇の中から引き釣り出された敵艦隊は、駆逐艦が装備する雷装は脅威だがゴッサム率いる艦隊には主砲の火力と射程という有利な点があった。ウイリー中尉はそう考えたのだが、ケネディ中佐は見張り員からの報告に眉をひそめていた。

「昼間の戦闘では日本軍の巡洋艦も何隻かが確認されていたはずだが、奴らは何処へ行ったんだ……」

「主隊と……敵戦艦群に随伴して護衛についているのではありませんか」

 ウイリー中尉の言葉にケネディ中佐が納得した様子は無かった。

「巡洋艦と戦艦を含めた反応と、目前の駆逐戦隊の反応が同一ということはあるのだろうか……昼間に確認されていた日本軍の主力が総揃いしているならば、レーダー波の反応差は距離が同じであればもっと大きく出ていないとおかしいのではないか……」


 ケネディ中佐はそう言ったのだが、先導するゴッサムは既に戦闘機動を開始していた。ウェイン大佐は絶妙な針路を選択し続けていた。斜行しながら接近していた敵部隊を一定以上の距離まで踏み込ませなかったのだ。

 ウェイン大佐が選択していたのはアーカム級とクリーブランド級が装備する15.2センチ主砲の射程内かつ駆逐艦級主砲の射程外となる微妙な距離だった。

 時折照明弾が混ざるとはいえ、視界の悪い夜間の遠距離砲戦の射撃精度は低く、命中弾は僅かなものだったが、被害も小さかった。時間さえ稼げれば圧倒的な砲火力と装甲を有するアラスカ級が敵水雷部隊を撃滅してくれる筈だったのだ。



 だが、いつまで経ってもアラスカ級は来援しなかった。いい加減にハイキャッスル艦橋内の乗員達の間にも浮足立った雰囲気が漂い始めた頃に通信が入っていた。

 ウイリー中尉は呆気にとられて伝令の言葉を聞いていた。

 ―――アラスカ級が敵重巡と交戦を開始した、だと……では日本艦隊の主力はどこにいるのだ……

アーカム級航空巡洋艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cfarkham.html

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