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1951グアム島沖陽動戦17

 硫黄島沖に日本艦隊が確認された後から、防空戦闘能力を向上させる為にアジア艦隊に配属された空母は極限まで艦上戦闘機を増載していた。

 元々米海軍の空母航空隊は他国列強と比べて戦闘機の搭載比率が高かったのだが、一部の艦上爆撃機を陸揚げして作り上げた格納庫内の空間で戦闘機隊の予備機を組み立ててまで更に戦闘機の数を増やしていたのだ。



 アジア艦隊がサイパン島上陸の支援に出動した時点で配属された「空母」はいずれも高速の艦隊随伴用や索敵を主任務として建造された艦であったから、空母自体の打撃力には大して期待出来なかった。

 それがアジア艦隊の艦隊司令長官であるキャラハン大将が戦闘機を増載させる決心を行った理由だったようだが、艦隊司令部の方針は更に徹底していた。

 作戦途中に太平洋艦隊から前進配置される形で配属されたアンティータム級3隻からなる部隊からも、ミッドウェー島を離れる際に同島守備隊から引き抜いてまで戦闘機隊を増やしていたのだ。


 そのような変則的な配置が可能だったのは、占領下にある近隣のハワイ王国に新たに駐留するようになった部隊もミッドウェー島の防衛に転用することが可能となったことと、同島守備隊には海兵隊に所属する航空隊が配備されていたからであるらしい。

 大所帯であるとも思えないミッドウェー島守備隊からすれば、中途半端な規模である上に指揮系統が曖昧な新参者の海兵隊航空隊は継子扱いだったのではないか。

 それで、アジア艦隊から要請があってからミッドウェー島をアンティータム級が離れるまでの短時間の間に海兵隊航空隊に所属する戦闘機隊のみが追加搭載されることになったのだろう。



 アンティータム級航空母艦は、元々ヨークタウン級に端を発する大型空母の流れに対抗して建造された小型空母だった。例え英日海軍のように空母を大型化したとしても飛行甲板の面積には限りがあるし、広大な飛行甲板を持つ空母は損害には弱いはずだと海軍航空関係者の一部では考えられていたのだ。

 だから大型化しても防御を飛躍的に強化することが難しい少数の大型空母ではなく、予めある程度の損失を見越した多数の小型空母で艦隊を構成すれば、結果的に損害を軽減できると考えられていたのだ。


 ただし、ヨークタウン級やその準同型艦であるボノム・リシャール級と比べれは艦型は小さいものの、アンティータム級空母の航空艤装は充実していた。数を揃えて大型空母に対抗するという戦術であるのだから、少なくとも艦載機の種類は大型空母と同等でなければ意味がないからだ。

 アンティータム級の母体となっているたのは、軍縮条約が無効化された後に建造が開始されたボルチモア級重巡洋艦だった。実際には巡洋艦としての艦体の上に格納庫と飛行甲板を被せたといってよいだろう。

 戦艦並みに肥大化した大型空母と比べれば小さいものの、巡洋艦譲りの速度や航続距離は正規空母として運用するのに足りる能力をアンティータム級に与えていた。


 格納庫容積や飛行甲板長から運用機種が限られるアーカム級航空巡洋艦とは違って、大型空母同様にアンティータム級でも数は少ないながら雷撃機なども搭載していた。

 だから大柄なTB2Dデヴァステイター2などを下ろせば、格納庫内部には相当のスペースを空けられたのではないか。作戦前に3隻のアンティータム級に増載された戦闘機の数はかなり多かったはずだった。

 一応海兵隊航空隊に所属する戦闘機隊は、戦闘が一段落した後はサイパン島を占領する海兵隊地上部隊を援護するために同島に移駐する計画となっていたが、慣れない艦上運用で消耗するだろう海兵隊戦闘機隊に艦隊戦が終結した後にどれだけ稼働機が残されているかは分からなかった。



 そのように無理をしてまで航空戦闘においてアジア艦隊が防空戦闘機隊という盾を振りかざす役割に徹していたのに対して、鉾となる事が期待されていた戦力は海軍に所属するものではなかった。

 グアム島に駐留する陸軍航空隊の重爆撃機、B-36が対艦誘導爆弾を装備して日本艦隊を攻撃する手はずが整えられていたのだ。


 第二次欧州大戦の頃から陸軍航空隊は重爆撃機による長距離哨戒と対艦攻撃を組み合わせたいわゆる「航空要塞」でもって北米を防衛すると宣伝していたのだが、海軍がこの陸軍の構想に向ける眼は冷ややかだった。


 高高度からの水平爆撃で大重量の爆弾を投弾した場合は、重力に引かれて海面落着時の運動量は極めて大きくなるから、貫通爆弾であれば戦艦が相手でも安々と撃沈出来るほどの威力を持っていた。

 ただし、これまでの戦闘で重爆撃機による水平爆撃が対艦攻撃に多用されなかったのは、高高度から投弾された爆弾の弾道が不安定となるために、どれだけ照準が正しかったとしても着弾誤差が生じてしまうからだった。

 海上の、しかも自在に回避する一点でしかない敵艦を攻撃するには、大編隊が一斉に投弾を行って着弾点による散布界で敵艦を包み込むようにして行う公算爆撃を行うしか無かったし、それでも投弾から着弾までの間に回避される可能性は高かったのだ。


 対艦誘導爆弾は、この弾道の不安定という高高度水平爆撃の原理上避けられない問題を解決する手段として期待されていた。爆弾自体を自在に機動させることが出来れば落下中の弾道誤差は修正できるし、敵艦の回避行動にも追随して着弾点を動かせるからだ。



 ところが、陸軍航空隊の思惑では飛躍的に爆撃精度を向上させるはずだった誘導爆弾の戦果は、当初の期待を下回っていた。高高度からの水平爆撃の威力には問題は無かった。少なくとも一撃で日本海軍の空母を撃沈することに成功していたからだ。

 だが、今日の爆撃で撃沈に成功した大型艦の数は空母1隻に留まっていた。投入されたB-36の数に対しては、あるいは投弾された高価な対艦誘導爆弾の数に対しては想定よりも過小であると言わざるを得なかった。


 未だ戦闘が終了していないにも関わらず、早くも爆撃が不首尾に終わった理由がいくつかあげられていた。というよりも陸軍航空隊が、真っ先に海軍が約束していた戦闘機隊の援護が不徹底であったことを抗議していたようだった。



 日本軍機による艦隊への空襲が終わった時点で、アジア艦隊は戦闘機隊の収容と再出撃の準備を進めていた。数少ない艦上爆撃機、雷撃機でもって敵艦隊に攻撃隊を送り込むと共に、陸軍航空隊のB-36による爆撃時の援護を行う為だった。

 対艦誘導爆弾を使用した攻撃では、高高度から投弾してから着弾するまでの間は上空の爆撃機から目視で爆弾の誘導を続けなければならなかった。当然、その間に戦闘機の妨害があれば誘導精度は格段に低下することが予想されていた。

 その一方でグアム島に配備された陸軍航空隊の戦闘機隊は少数だったし、洋上での戦闘にも不安があったからアジア艦隊がB-36と同時に送り出す攻撃隊で援護を行う作戦計画だったのだ。


 だが、戦闘機隊の再出撃は当初の計画よりも遅延していた。戦闘機隊と入れ替わるように発艦した偵察機が日本軍機を追跡していたことにより敵艦隊の位置が判明していたにも拘わらず、アジア艦隊からの攻撃隊は発艦作業が中々進まなかったのだ。

 機銃弾と燃料さえ補充すれば、アジア艦隊から出撃した戦闘機隊の再出撃は容易だと考えられていたのだが、実際には各母艦の飛行甲板では混乱が発生していたからだった。


 元々戦闘機の搭載数が多いアーカム級やエセックス級はともかく、まだ戦場まで距離があった上に直前に戦闘機隊を増やしたアンティータム級などでは、帰還機が短時間の間に集中して補給どころか着艦作業だけで手一杯だったようだった。

 アンティータム級から発艦した戦闘機隊のうち、海兵隊機などは慣れない洋上戦闘と長大な母艦からの進出距離に幻惑されて残燃料不足でハイキャッスルやゴッサムに緊急着艦する機体もあった程だが、それでもアンティータム級からの攻撃隊出撃は遅れていたのだ。

 出撃までの時間が限られていたことに加えて、アンティータム級は艦隊主力よりも日本艦隊との間に距離がある為に、特に大容量増槽の準備が必要だったからではないか。



 それに無事に着艦出来たとしても、当初の予想以上に迎撃戦闘で損傷した戦闘機の数が多かった。出撃の度に後方から飛来する戦闘機隊の機数が減少していたから、ハイキャッスルやゴッサムの搭載機ばかりではなく、艦隊主力に随伴しているエセックス級空母の搭載機も状況は同様のようだった。

 本来は日本軍の攻撃隊を数で圧倒するために、アジア艦隊は戦闘機隊の比率を高めていたはずだった。その効果は攻撃機の大部分を阻止するという形で実際に現れていたのだが、日本軍機の抵抗は予想以上だったのだ。


 戦闘前、航続距離の関係から日本軍の攻撃隊に随伴する戦闘機は、第二次欧州大戦末期から確認されているレシプロエンジンを搭載した四四式戦闘機のみであろうと予想されていた。

 ジェット戦闘機は高速性能に優れる一方で、旋回性能や何よりも航続距離で既存のレシプロエンジン搭載機に劣る面があるからだ。

 米海軍でも進攻作戦においては複合動力機であるF15Cを使用する一方で、完全ジェットのF6Uなどは艦隊周辺に戦域を限定した迎撃機として運用する方針だったのだ。


 ところが、日本海軍はあの特異な先尾翼のジェット戦闘機、四六式戦闘機を平然と攻撃隊に随伴させていた。どんな魔法がかかっているのかは分からないが、日本人はジェット戦闘機の航続距離を延長させることに成功しているらしい。

 しかも四六式戦闘機の格闘戦能力も予想以上に高かった。混合動力機のF15Cどころか完全ジェット機のF6Uでも撃墜された機体があったらしい。



 そのような事情からアジア艦隊から出撃する攻撃隊とB-36が敵艦隊に到着した時刻は、当初計画よりも大きくずれていた。これによりB-36の誘導爆弾攻撃は、日本軍戦闘機隊の妨害を受けて誘導に失敗した機体が続出していた。

 これが中途半端な結果に終わった理由なのだと陸軍航空隊、というよりも爆撃集団では戦闘中にも関わらず主張しているらしい。おそらく予め用意されていた誘導爆弾の数やB-36の損害から彼らはもう出撃する機会がないのだろう。

 ただし、ウイリー中尉は何かと乏しい情報から陸軍爆撃集団司令部の見解に疑問を抱いていた。



 今のところ海軍側からこれに反論する声は上がっていなかった。

 不動のグアム島から幾らでも通信を送ることができる爆撃集団司令部と違って、戦闘中の旗艦に乗り込んだアジア艦隊司令部からは必要最小限の発振以外控えていることもあるが、おそらくは艦隊司令部でも今日の戦闘結果をまとめきれていないのだろう。


 僅かな数の艦上雷撃機と艦上爆撃機とで構成されていたアジア艦隊の攻撃隊は、日本軍の戦闘機隊に一蹴されていた。陸軍のB-36とタイミングがずれていたせいもあるのだろうが、これまで確認されていなかった新鋭戦闘機の姿があったとの報告が上がっていた。

 ジェットエンジンに各種翼と操縦席を付け加えた我が方のF6U同様に、太い胴体に最小限の機能を付け加えたような機体だったというから、間違いなくジェットエンジン戦闘機だった。


 日本軍の新鋭ジェット戦闘機は恐ろしく速度が早かったらしい。むしろ早すぎて兵装を満載して鈍重になっていた雷撃機や爆撃機を襲撃するのに苦労していた感さえ見えたそうだった。

 そんな機体がこれまでハイキャッスル周辺で確認されていなかったのは、航続距離に制限が大きいからではないか。つまり米軍方のF6Uなどと同様に実質的に迎撃機としてしか運用出来ないのだ。



 攻撃隊に随伴していたF15Cの操縦員からの報告では、日本軍には誘導式の長距離ロケット弾を搭載した戦闘艦まであるらしいというが、これは信頼性が低かった。

 敵艦隊の方向から上空に向けて伸びていく火炎を見たというのだが、そんな米海軍でも実用化していない高度な戦闘艦が日本軍に存在しているとは思えなかった。

 それにその戦闘艦を目撃したものはいなかった。攻撃隊は、敵艦隊の前方で阻止されていたからだ。日本艦隊の哨戒網は相当に広がっているのだろうが、おそらくはB-36隊も敵艦隊の前方から迎撃を受けていたのではないか。

 勿論艦上機からなる攻撃隊と比べればB-36が進攻していた高度は相当に高かったのだろうが、上昇速度の高いジェット迎撃機であれば迎撃は容易だっだのだろう。



 結局、攻撃隊とB-36のタイミングが揃っていたところで万全の体制で待ち構えていた日本艦隊が相手では結果はさほど変わらなかったのではないか、それがウイリー中尉の結論だった。

 むしろ、後から考えれば出撃地が大きく異なる海陸軍航空隊の攻撃時間を精密に合わせるという当初の作戦計画自体が危うさを孕んだものだったのではないか。


 その一方でアジア艦隊が受けた空襲による損害も、前衛を務めたハイキャッスルやゴッサムなどに集中していたから、やはりこちらも結果的に航空戦による損害は軽微だった。

 今日の熾烈な航空戦は、結果的に見れば双方の艦隊主力に作戦の継続を左右する程の損害を与える事ができなかったのだ。


 だが、何度目かの交代を行っていた日本艦隊を追尾していた接触機が、最後に送ってきた通信にはこうあったらしい。日本艦隊は空母部隊と水上戦闘艦で部隊を二分しつつあるというのだ。

 それは明らかに航空戦闘が不首尾で終わったことを察した日本人達が水上艦隊による夜襲を決断したということだった。

 だから、今日の戦闘はまだ終わりそうになかったのだった。

アーカム級航空巡洋艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cfarkham.html

四四式艦上戦闘機(烈風)の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/a7m1.html

カーチスF15Cフェニックスホークの設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/f15c.html

ワスプ級空母の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cvwasp.html

四六式戦闘機震電/震風の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/46f.html

四九式艦上戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/49cf.html

石狩型防空巡洋艦改装型の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/clisikarikai.html

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