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1951グアム島沖陽動戦11

 グアム島内には米陸軍航空隊の大規模な基地がいくつか設けられていたが、今日は分散して配置されていたどの駐機所でもB-36の出撃準備に大わらわになっていた。

 だが、奇妙なことに多忙だったのはB-36を装備する第20爆撃群の将兵ばかりで、それ以外の部隊は蚊帳の外に置かれていた。



 グアム島に将旗を掲げる第20爆撃集団は、防空用に配属された集団司令部直轄の戦闘機隊などを除くと、第20爆撃群と第21爆撃群の2個爆撃群からなる爆撃団を主力としていた。

 ただし、爆撃集団の隷下に並列して配属されてはいたものの、B-36配備の第20爆撃群に対してB-49が配備された第21爆撃群は実質的には補助部隊という扱いを受けていた。


 開戦前からグアム島に移駐していた第20爆撃集団は、開戦劈頭のトラック諸島への核攻撃や、その後の日本本土への爆撃作戦などこの戦争において一貫して陸軍航空隊の主力として運用されていた。米領から日本本土まで爆撃を行うことが出来る機材であるB-36を唯一配備された部隊だったからだ。

 離陸時には最大150トン程度になる空前の巨人機であるB-36は高価な機体であり、開戦前の生産体制は限定されたものでしか無かった。だから配備部隊も第20爆撃群隷下の爆撃隊に限られていたのだ。


 第21爆撃群に配備されたB-49も、これまで陸軍航空隊爆撃隊の主力だったB-32などと比べれば大型の機体だったのだが、B-36の前では大人と子供のようなものだった。

 B-49は原型となったB-35同様の全翼機だったが、B-36と並ぶと同機は言ってみればその主翼部分だけを切り出したようなサイズ感だったのだ。

 結局陸軍航空隊内においては、B-32の後継となる純然たる重爆撃機がB-36であったのに対して、それよりもひと回り小さく高速のB-49は従来の軽爆撃機に変わるものという扱いだったのだろう。



 ただし、軽爆撃機と捉えてしまうとB-49は恐ろしく高価な機体だった。全翼機として試行錯誤していたB-35の発展形として完全ジェットエンジン搭載機として誕生していたからだ。

 開戦当初から配属されていた第20爆撃群を主力として運用している第20爆撃集団が、開戦以後にグアム島に来援した第21爆撃群をどこか持て余しているのも無理はなかった。


 グアム島の基地機能は、開戦を前提として島の居住環境に影響を及ぼすほど限界まで拡大されていたのだが、航空基地の大半は巨人機である第20爆撃群で埋まっている状態だった。

 開戦以後は意外に強力だった日本軍の本土防空体制によってB-36に損害が生じていたのだが、第21爆撃群のB-49は未帰還機によって生じた空間に押し込められたようなものだとも言えた。

 そのような経緯があるせいなのか、第20爆撃群の将兵達は遅れてきた第21爆撃群を冷ややかな目で見ていた。

 出撃するたびに損害を生じていたB-36の搭乗員達からすれば、航続距離の関係で日本本土に爆撃を行うことが出来ないB-49は、この局面に対応できない余剰の機材という認識でしか無かったのだろう。



 米陸軍航空隊の上層部は、実質的にこの戦争の主力を担っている第20爆撃集団の増強を早い段階から考えていたようなのだが、根本的な原因がグアム島の基地機能が飽和していることにあるのだから、部隊規模を抜本的に増強するのは短時間では難しかった。

 それに開戦前に陸軍航空隊が立てていた当初の目論見は、開戦直後にトラック諸島に集結している日本海軍が保有する戦艦の半分を核の炎で焼けば、米軍、もとい陸軍航空隊の主力たる重爆撃機の絶大な脅威を世界中に知らしめる事が出来るだろうというものだった。

 その上で日本列島の首都をデモンストレーションとして爆撃してやれば、大威力の核爆弾を恐れた日本帝国も米国の言いなりになって何も出来ずに講和のテーブルに着くだろうと考えていたのだろう。


 政府や陸軍航空隊の狙いはおそらくは日本だけではなかったのだろう。太平洋の日本を標的として叩く事で、複雑に勢力圏が絡み合うカリブ海の覇権を巡って米国とは微妙な関係にある大西洋の欧州諸国をも牽制する事も狙っていた筈だ。

 つまりは世界で合衆国だけが保有する画期的な核爆弾さえちらつかせれば世界に平和が訪れるというのだ。



 だが、実際には米国の思惑は半分は成功したものの、日本帝国は講和を拒絶していた。それどころか、どこまで本気かは分からないが、英仏とその影響下にある欧州諸国が次々と米国に宣戦布告するという予想外の事態まで発生していたのだ。

 未だに大艦隊を保有する英国はともかく、欧州の中小国が集まったところで実質的な米国の脅威とはならないが、政治的な影響力は無視できなかった。


 確かに、開戦まで厳重に秘匿されていた核爆弾の威力は凄まじかった。トラック諸島の日本艦隊は一撃で殲滅されていたと言っても過言ではなかったのだが、米国の蹉跌は次に行われた日本本土爆撃から始まっていた。

 核攻撃後の戦力集中に手間取って日本人達に時間を与えてしまったせいか、B-36による日本本土爆撃は整然だった日本軍の迎撃を受けたことで彼等の首都まで辿り着けなかったのだ。

 その後の爆撃では何度か彼らの首都を叩けていたのだが、開戦から日が経ったせいか政治的な衝撃は低かったようだ。しかも、核攻撃の惨禍が顕になるにつれて、米国の対外関係と大統領の支持率は日に日に悪化していった。



 この予想外の苦戦を受けた陸軍航空隊は、日本本土への爆撃体制を強化するのが現状で最も効果的な戦略であると判断していた。本土の惨禍が拡大されれば講和を頑なに拒否する日本帝国も無視できなくなってくるだろうと考えたのだ。

 勿論その為にはB-36を装備する第20爆撃群の増強が必要不可欠だった。


 すでに米本土のチャンスヴォート・コンヴェア社の大型機製造用の工場では、平時では考えられないほどの勢いで資機材や人員が投入されてB-36量産体制の増強が行われていた。それに開戦前から進められていたジェット化によるB-36の発展形の開発計画も並行して進められているらしい。

 工場で完成したB-36を新たに装備する爆撃隊も新規編成が次々と進められていた。練度と規模が一定に達した爆撃隊は、グアムに移駐して第20爆撃群の指揮下に入れられることになるはずだった。



 それでも最大の問題であったグアム島の基地機能を短時間で強化することは難しかった。元々グアム島は、ミッドウェーと並んで太平洋航路の中継点としての機能を持たせるために限界まで開発が進められていた。

 勿論長大な滑走路も以前から適地となる平地に複数が設けられていたから、これ以上B-36のような巨人機を多数受け入れられるような基地機能の強化を図ったとしても、付随する弾薬庫や燃料槽の増設が追いつかずに歪な構造になってしまうのではないか。

 残る手段はグアム島以外に展開するしか無いのだが、米領フィリピンは日本領である台湾島に近すぎるし、グアム島より米本土からは遠距離にあるから継続して大規模な爆撃隊に対して補給を行うのが一段と難しくなっていた。



 ―――結局は滑走路や駐機場を造成出来るような手つかずの土地を求めて、俺達は本来は放っておいても良いようなテニアンやサイパンに手を出す羽目になったということか……


 B-49の翼下にまばらに置かれていたチェアに腰を下ろしていたヘイル大尉は、慌ただしそうにB-36に取り付いて作業している将兵の姿を遠目にしながらげんなりとした顔をしていた。

 尤もB-49は全翼機だから自分がいる場所が翼下なのか胴体下なのか、いまいち判断は付きかねていた。



 そんなやる気のなさそうなヘイル大尉が日傘代わりにしているB-49に極近い駐機所にB-36が置かれていたのは、別に大尉達がB-36側に乗り込んでいったわけでは無かった。

 先日の硫黄島への爆撃でB-49隊が損害を出していたものだから、今度は移駐時とは逆に余剰となっていた第21爆撃群の駐機場にあぶれたB-36が割り込んできていたのだ。


 担当していた機体が撃墜されたり、あるいはサイパン島に不時着したことで、B-49の少なくない数が未帰還となってしまったことから、第21爆撃群では割り当てられていた駐機所だけではなく、整備の手も余っている程だった。

 だから最初は第21爆撃群の整備隊は親切心からB-36の出撃準備に手を貸そうとしていたのだが、機体の構造があまりに違う上に第20爆撃群の将兵達には自分たちが爆撃集団の主力という自負もあったのか、けんもほろろに断られていたらしい。



 ヘイル大尉自身は、燃料切れ寸前になりながらも愛機のアロー号を何とかグアム島に持ち帰っていたのだが、それでも危ういところだった。硫黄島への爆撃を成功させた上に敵艦隊を発見するという殊勲を上げたB-49隊だったが、損害も大きかったのだ。

 帰還機の中でも燃料切れとなった機体は多かった。滑走路に滑り込んだ時点でエンジンが停止したり、甚だしいものになると無理に飛行してきたもののグアム島寸前で燃料切れを起こして沖合に不時着した挙げ句に基地隊付きの連絡艇で救助されるクルーもあったのだ。

 それに比べれば、タキシング中に燃料が切れて牽引車を待つ羽目になったアロー号の状況はまだましな方だったのだ。


 当初は燃料切れになりそうな機体も二百キロほど手前にあるサイパン島に不時着させようとしていたのだが、実際には損傷機や確実に燃料切れになっている機体ばかりが墜落寸前に不時着していた。

 ヘイル大尉は以前は日本人が使用していた空港があるというから不時着地ぐらいにはなるだろうと思っていたのだが、実際にはただ野原が広がっているだけでろくな整地もしていない貧弱な規格の滑走路があるだけだったらしい。

 しかも海兵隊が海軍が散々に元滑走路近くをかき回していたものだから整地も怪しいものだった。悪いことにB-49は低空時には揚力が過大となる傾向があった。

 その結果大して長くもない滑走路では着陸速度を打ち消せずに滑走路の先の疎林に機体を突っ込ませて完全に破損させたものが多かったと何とか不時着できたクルーが海兵隊の無線機を借りて連絡してきていた。


 グアム島まで燃料切れを起こさなかった機体も損傷が激しいものが多かった。

 アロー号の様に硫黄島に配備されていた日本軍の対空砲に撃たれまくっていた機体ばかりだけではなく、対空砲火を避ける為に高速で海面近くの低空飛行を連続させたものだから構造材に負荷がかかってしまったものも多かったようだ。

 だが、B-36の手伝いをすげなく断られた第21爆撃群の整備隊は、数少なくなった損傷機に群がると僅かな間に完璧に修理を行っていた。予備部品が無く修理不可能な機体もあったが、損傷機の多くを稼働状態に復旧した整備隊の技量は高かったといえるだろう。



 だが、第20爆撃群は対艦攻撃用の誘導爆弾を搭載して華々しくヘイル大尉達が発見した日本艦隊の攻撃にむかう事になっているのだが、修理を終えた後も手持ち無沙汰のまま第21爆撃群は待機を強いられていた。

 元々の計画では、B-49装備の第21爆撃群や戦闘機隊の一部は占領されたサイパン島に今頃は移駐しているはずだった。サイパン島を爆撃集団の付属部隊を展開させる前哨陣地とする一方で、平地が連続するテニアン島及びグアム島はB-36を装備する主力部隊の専用基地化するという壮大な計画だったのだ。


 勿論サイパン島に移動した部隊も仕事が無くなるわけではなかった。B-49は、前衛として硫黄島などを爆撃して日本軍の外郭陣地に穴をこじ開けるという任務が連続して与えられることになるだろう。厳重に防護された最前線の敵航空基地を叩くにはB-36の巨体は持て余す事になるからだ。

 そして主力であるB-36は、B-49が血まみれでこじ開けた防御網を悠々と通過して日本本土に全力で爆撃を行うのだ。


 また、サイパン島には増強された戦闘機隊も展開するはずだった。海軍と共有化された複合動力戦闘機のカーチスF-83ではなかった。グラマン社を吸収して社名を変えたカーチス・グラマン社製ではあるものの、純然たるジェット戦闘機であるF-87ブラックホークやその改良型となる予定だった。

 直線翼の中央にそれぞれ2基のジェットエンジンを納めたエンジンナセルを装備したことで戦闘機としては異例の4発機となったF-87は、F-83のように純然たる戦闘機として開発されていたものではなかった。

 F-87は、元々はジェット化された攻撃機の実験機として発注されていたものらしい。だから先頃命名基準が改正されるまでは攻撃機を意味するAから始まるコードであったようだ。


 だが、当時各国の動向を見据えていた航空隊では、攻撃機の主力が戦闘爆撃機やソ連の襲撃機の様な単発機に移行していると判断していた。

 その上以前の軽爆撃機の枠には本来純然たる重爆撃機として開発されていた筈のB-35、B-49が収まろうとしていたから、F-87原型機は中途半端なものに見えていたようだ。

 F-87の開発計画が迷走し始めたのはここからのようだった。

カーチスF15Cフェニックスホークの設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/f15c.html

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