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1951グアム島沖陽動戦4

 日本軍による探知を逃れるために海面近くを飛行していたB-49編隊は、硫黄島上空で一気に高度を上げて目標を確認すると、各々の目標に向けて分散しようとしていた。

 だが、編隊長に追随して硫黄島の基地施設爆撃に向かおうとしたヘイル大尉の機先を制する様に通信が入っていた。



「俺達の小隊は滑走路を縦断せよ、か。無茶を言ってくれるぜ」

 口では愚痴のようなことを言いながらも、ヘイル大尉の顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。高度を上げるとはっきりしたが、やはり硫黄島中央に設けられた長大な滑走路からは次々と大型の双発機が離陸しようとしていたからだ。


 最後の瞬間になってようやくB-49編隊を探知した日本軍の対応が後手に回っている様子が、ヘイル大尉には手に取るように分かっていた。やはり海面近くに降下しての進撃は大きな効果があったらしい。至近距離になるまで日本軍はB-49編隊の接近を探知する事が出来なかったのだろう。

 それで慌てて待機中の機体を空中退避させようとしたのだろうが、日本人は接近するB-49編隊の飛行速度や距離も見誤っていたとしか思えなかった。大型機の離陸は続いていたが、それよりも早くB-49編隊が硫黄島上空に到着してしまったものだから大混乱になっているようだからだ。



 日本軍もどうせ間に合いもしない邪魔な大型機の離陸を行わせるくらいなら、最優先で身軽な戦闘機隊を発進させて爆撃の妨害を行わせるべきだったのだ。離陸直後で速度が上がっていなくとも、戦闘機が銃弾をばらまくだけで爆撃隊を萎縮させることくらいは出来たのではないか。

 だが、今日はもう戦闘機隊の離陸は不可能になるだろう。そう考えながらヘイル大尉は僚機が続航しているのを確認すると、一度大きな旋回を打って滑走路と水平にアロー号の針路をとっていた。


 そこには誘導路を脱して滑走路端についた双発機の姿が見えていた。日本軍の識別帳はしばらく前から覚えさせられていたが、上空からでは機種の識別は難しかった。

 日本軍の爆撃機か輸送機か、その中規模の双発機にのしかかるように、ヘイル大尉はアロー号を滑走路上空に持ってきていた。

 傍から見れば速度が早すぎることを除けばアロー号が着陸態勢をとって滑走路に入り込むようにも見えていたかもしれなかったが、その時既に爆撃手は照準を終えていた。

 B-49には最新の爆撃用レーダーも装備されていたが、この高度ならそんなものは必要無かった。



 先導するアロー号の爆弾倉扉は、滑走路上空に達する前に既に開放されていた。爆撃手による針路の修正は最低限のものだった。予めヘイル大尉がとった針路が最適だったからだ。

 アロー号と後続の小隊機は、滑走路上空を駆け抜けながら低空で爆弾を次々と投下していた。爆撃手の照準は今まさに離陸しようとしていた日本機に合わされていた。最初に投下された爆弾は、滑走路で加速しようとしていた機体の鼻先に落下していたのだ。


 そして、次の瞬間に着発式の遅延信管が取り付けられていた爆弾が起爆していた。かろうじて離陸しようとしていた日本軍機は爆弾の直撃を免れていたものの、起爆した瞬間はまだ爆弾は翼下にあった。

 アロー号から投下された爆弾の炸裂の衝撃は、離陸機の主翼を真下の地面側から完全に吹き飛ばしていた。しかも、その衝撃で一旦浮き上がった頃には、炸裂した爆弾の破片が脆弱な胴体に深々と突き刺さって破壊し尽くしていた。


 その頃には、アロー号と後続する僚機から滑走路上に投下された爆弾が突き刺さって炸裂していた。滑走路端で横倒しになっている日本軍機に生存者がいるかどうかは分からないが、滑走路端からみれば自分達の行き先に次々と火の柱が生じていく様に見えるのではないか。

 高速で滑走路上を飛び去るようにしながら爆弾を投下したヘイル大尉達の小隊は、硫黄島の滑走路を短時間のうちに切り裂いていた。投下されたのは全て着発式の信管だったから滑走路上に落下した爆弾はアロー号が滑走路を脱する頃には全て起爆していたからだ。

 これで滑走路上に生じた大穴を埋め戻すまでは離発着は不可能になるはずだった。


 ふとヘイル大尉は、B-35からB-49に設計が発展する途中で機銃座の数が減らされたいったことを残念に思っていた。

 高速化によって射撃機会の少なくなるだろう防御機銃の数を減らしたのだが、こんな低空侵入の時は機銃があれば地上を銃撃して戦果を拡張できたのではないかと考えていたのだ。

 今の米陸軍航空隊所属機で、高速で低空を進撃して敵基地を強襲するといった強引な作戦が出来るのはB-49だけだった。爆弾搭載量は多くとも鈍重なB-36では遥か以前に探知されて幾重もの迎撃を受けていただろうし、単発の戦闘爆撃機では火力が不足してるだろう。



 今回の作戦でB-49の爆弾倉に搭載された爆弾は、遅延式の着発信管がつけられた500ポンド汎用爆弾に限られていた。

 爆撃集団がグアム島に建設していた弾薬庫には、汎用爆弾の他に戦略爆撃用に開発されたという焼夷爆弾が集積されていたのだが、焼夷爆弾はB-36を装備する第20爆撃群が優先的に使用していたから、B-49に搭載されていたのは在庫が豊富な汎用爆弾ばかりで、数が少ない大型の対艦用貫通爆弾も無かった。


 考えてみれば、実際に米陸軍航空隊の爆撃機が敵飛行場を空襲するのは史上始めての事かもしれなかった。そもそも航空基地を制圧するのに最適の爆弾が何なのか、航空隊はそれも手探りでこれから探していくしかなかったのだ。

 出来る事ならば一発でもっと広範囲に損害を与えられる爆弾があればよいのだが、戦略爆撃用の焼夷爆弾は木造住宅などの可燃物がないと効果が薄いし、徹甲爆弾は分厚い装甲を貫くために弾殻の強度が高められた結果として炸薬の充填率が低いから敵基地への爆撃に向いているとは思えなかった。

 汎用爆弾は弾殻が薄く重量の半分程度まで炸薬を充填できるのだが、それでも広範囲に被害を及ぼすには足りなかった。相手は装甲を持つ艦艇や戦車などではなく脆弱な航空機なのだから、運動量は小さくなっても通常の爆弾よりも破片をより小さく、数を多くすることが出来るのではないか。


 あるいはヘイル大尉達が今終えたように滑走路のような特定の目標を破壊するのであれば、対艦攻撃用の誘導爆弾を対地攻撃に転用するという可能性もあるのではないか。それならば低空に降りることなく高度という防御を身にまとって安全に攻撃を行うことが出来るはずだからだ。

 ヘイル大尉はあれやこれやと試作機の数ばかりが増やされていたのに対して、現在の陸軍航空隊は官給品であったためか兵装の開発がおざなりになっているのではないかと感じていたのだ。



 ヘイル大尉は、自分達の戦果に満足しながらアロー号を滑走路から飛び出させていたのだが、獰猛な笑みを浮かべたままだった大尉の表情は唐突に凍りついていた。後方から衝撃が襲っていたのだ。

 振動するアロー号を宥めすかしながらヘイル大尉は慌てて振り返ったが、平たく曲がりくねったB-49の先端に設けられた操縦席からの後方視界は狭く、衝撃の原因が視認出来ずに思わず舌打ちしていた。

 ヘイル大尉の舌打ちが聞こえていたわけではないだろうが、すぐに悲鳴のような声が後部銃座から機内通話装置越しに聞こえて来ていた。後続する僚機が墜落したらしい。

 その頃には、アロー号も連続した衝撃に襲われていた。どうやら高射砲の射撃を受けているらしく、機体周辺の気流が砲弾が炸裂するたびに揺さぶられていた。


 咄嗟にヘイル大尉は操縦桿を倒して強引な旋回を打って高射砲弾の爆散域から逃れようとしていた。

 ―――真正直に飛び過ぎたか。

 滑走路に沿って真っ直ぐに飛行したものだから、日本軍の対空部隊からは目をつけやすい目標になっていたのだろう。幸いなことに急旋回で照準を見失ったのか、アロー号に対する高射砲の射撃は短時間で途絶えていた。



 しかし、空襲の衝撃から早くも脱したのか、まだ爆撃中にも関わらず日本軍の対空射撃は本格化していた。ヘイル大尉は、慎重に操縦桿を元に戻してこの高度にしては危険な程傾けられたB-49の機体を水平に戻していたが、それでも照準をつけさせない為に蛇行を続けていた。

 操縦に集中して硫黄島を離脱しようとしていたヘイル大尉は、ふと視線を上げていた。視線の先で、編隊長率いる本隊も硫黄島基地の駐機場を爆撃し終えた所だった。


 編隊長機の姿を見てヘイル大尉が安堵したのは一瞬だった。編隊長機の鼻先で唐突に高射砲弾が炸裂していたのだ。砲弾の起爆と同時に、炸薬の爆発による衝撃と計算され尽くした破片の散乱が始まっていた。

 ただでさえ不安定な全翼機のB-49は、高射砲弾の炸裂という外乱に弱かった。高射砲弾によって作り上げられた乱流域に突入したB-49は、それでもしばらくは飛行を続けたが、一度ぐらりと機体を傾けると真っ逆さまに地面に突き進んでいた。

 乱流によるものではなかった。その程度の外乱ならば編隊長の技量なら取り戻せた筈だ。おそらくは鼻先で起爆した砲弾の破片が操縦席を襲ったか、操縦系統に致命的な損害を与えていたのだろう。



 咄嗟に地面に視線を向けたヘイル大尉は、駐機場の端で次々と撃ち続ける高射砲を見つけて思わず罵り声を上げていた。事前の偵察ではあんな所に高射砲の存在は確認されていなかったからだ。

 高射砲の発射速度は高かったが、精度はおそろしく正確だった。編隊長機を撃墜したと判断したのか、次の標的に向けて射撃を開始していたのだが、初弾から目標となった機体の至近距離で砲弾が起爆していたのだ。

 ただし、口径は小さいのか砲弾の危害半径はさほど大きくはなさそうだった。傍から見ると破片の拡散域は狭く、至近距離でなければ砲弾爆散域をすり抜ける事は不可能では無さそうだった。


「情報部の糞共め、あんな所に高射砲がいるなんて聞いてないぞ。日本人の高射砲は大したことないなんて言ってたのは誰だ」

 ヘイル大尉の罵り声に、副操縦席のスレーター少尉は唖然とした様子でいった。

「違います機長、あいつ足を伸ばしているが履帯がついてます。あれは自走高射砲ですよ」


 答える気も起きずにヘイル大尉は罵り声を上げただけだったが、スレーター少尉は更に続けた。

「機長、編隊長機が落ちます。これで機長が最先任です」

 罵り声をようやく途絶えさせたヘイル大尉は、通信士に向かって怒鳴るように言った。

「爆撃群全機はアロー号に続け。このクソッタレな島からとっとと離れるぞ」



 だが、ヘイル大尉が通信士に言い終わる前に、大尉を呼ぶ声が聞こえていた。

「今度は何だ、誰だ、左舷がどうしたって……」

 要領を得ない報告に苛立ちながら、ヘイル大尉は視線をこれまで硫黄島自体に遮られて確認出来なかった海域に向けていたのだが、視界に入ってきた光景に絶句していた。

「畜生、偵察機の奴らこれを見逃していたのか……いや、俺達がちょうどこのタイミングでイオに辿り着いていたのか……各機に通信、低空を最高速度で逃げるぞ。今度は生温い高度で飛んだらやられるぞ」


 慌てて機関士が残燃料に対して懸念を言った。ジェットエンジンの燃費は悪く、海面高度で速度を出せばあっという間に燃料が尽きてしまうからだ。だが、ヘイル大尉はそれに付き合わずに勢いよく操縦桿を押し倒していた。

「各機に再通達、残燃料は常にチェックしろ。ただし、俺がいいと言うまで速度は緩めるな。それと無線が通じるようになったらサイパンの海兵隊に連絡しろ。確か、サイパンには日本人が作った飛行場があった筈だ……」


「そこまでするんですか。日本人共が作ったちんけな飛行場にB-49で降りられるとは思えないんですが……」

 スレーター少尉が上げた疑問の声に、不機嫌そうにヘイル大尉は言った。

「俺が知るか。不時着出来るならどこでも構わん。しかし、イオの近くには間違いなく日本軍の空母艦隊がいたぞ。日本海軍は本物のジェット戦闘機を積んでるんだ。それに落とされたくなければ、本気を出して逃げるしかないだろう」

 ヘイル大尉はぶつくさと文句を言いながら、再びB-49の高度を落としていた。


 B-49編隊が硫黄島の日本軍前哨基地を叩く間に出撃するはずだった第20爆撃群が出撃を取りやめたことをヘイル大尉が知ったのは、不時着同然にグアム島に着陸してからのことだった。

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