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1950本土防空戦14

 制式化されたのは海陸軍航空隊が日本空軍に統合されてからのことだったが、桑原少佐が操縦している四五式夜間戦闘機電光は元々は日本海軍が開発していた夜間戦闘機の系列に連なるものだった。

 だが、四五式夜戦に至るまでの日本海軍の夜間戦闘機開発は迷走していた。元々陸海軍共に初期に実用化した夜間戦闘機は改造機ばかりだったのだが、海軍の夜間戦闘機は運用方式すら定まっていなかったのだ。



 先の第二次欧州大戦が勃発する前に、各国で競うように双発戦闘機の開発が進められていた。この流行は単なる軍備拡張では無かった。むしろ多目的に使用できる多座戦闘機に何役もさせる事で、航空隊の運用機種を絞り込んで軍事費を削減することが目的だったのだ。

 例えば長距離飛行能力があれば爆撃機に随伴する護衛戦闘機として運用できるし、双発機故の搭載量を活かして軽爆撃機や襲撃機の様に対地攻撃機にも転用できる筈だった。

 実際に全てを一機種で賄うことは出来なくとも、原型となる汎用型を開発しておけば、そこから目的に特化した派生機に流用するのも難しくないとも考えられていたのだろう。


 開戦前には仏空軍のポテ630、ドイツ空軍のBf110、英国空軍のブリストルボーファイターなどが続々と就役していたが、いずれも制式化された双発戦闘機の性能は期待されたほどではなかった。

 双発による大出力も重量級となってしまった機体に満足な速度を与えるほどではなかったし、鈍重で大柄な機体は火力は高くとも軽快な単座戦闘機に正面から交戦するには格段に不利だった。

 要するに各国の他座戦闘機は往々にして器用貧乏の典型的な例となってしまったのだが、その最後尾として開発が進められていたのが日本陸軍の二式複座戦闘機と日本海軍の13試双発陸上戦闘機だった。



 当時の日本陸軍は、主力戦闘機である重単座戦闘機と対戦闘機戦闘に特化した軽単座戦闘機に加えて、多座戦闘機を分類していた。

 最後に盛り込まれた多座戦闘機だけは肝心の用途を絞りきれていなかったのだが、そしてそれ以上に開発方針が曖昧で、総花的に要求性能ばかりが膨れ上がってしまっていったのが海軍の陸上戦闘機構想だった。

 陸軍の二式複座戦闘機がかろうじて戦闘機という開発方針の大枠だけは守っていたのに対して、海軍の13試陸戦は派生型の都合をも原型機の設計に組み込んでいた結果、漫然と肥大化してしまっていたのだ。


 そもそも13試陸戦が開発された切欠は、従来機よりも格段に航続距離が増した陸攻が誕生したためだった。

 当時の日本海軍は、仮想敵である米艦隊が来襲した場合、西太平洋で水雷戦隊による夜襲や航空攻撃によって漸減しつつ、戦力が低下した敵艦隊を最終的に主力艦隊で叩くという作戦計画を立案していた。

 主力艦の保有比率で米艦隊に劣るために、主力艦以外の戦力で主力艦を減衰しなければならなかったからだが、この漸減要撃作戦の中で航空攻撃は大きな期待がかけられていた。広い範囲の索敵と、陸上攻撃機による長距離航空攻撃を実施するためだった。


 当初は高速爆撃機による戦闘機無用論が盛んだったものの、スペイン内戦などの戦訓から攻撃隊に随伴する戦闘機隊が要求されるようになっていた。米海軍には戦艦部隊に随伴するコロラド級空母が存在していたからだ。

 未成戦艦を改造したコロラド級空母の搭載機は大半が防空用の戦闘機だったから、同艦を含む艦隊を攻撃する陸上攻撃機にも、これに随伴して戦闘機隊の迎撃からこれを援護する護衛戦闘機が必要であり、この長距離援護機計画が13試陸戦の原型だったのだ。


 原型機では固定銃に加えて胴体上後部に遠隔操作式の銃塔が装備されていたから、元々純然たる戦闘機というよりも、爆撃機の自衛機銃を強化した翼端援護機に類似した性格の機体だったのかもしれない。

 だが、13試陸戦の実用化を阻んだ原因の一つは、画期的なこの遠隔操作式銃塔に生じた不具合だった。当初計画以上に重量が増した遠隔操作式銃塔は、ただでさえ戦闘機としては大柄な機体構造を持つ原型機の機動性を低下させる一因だったからだ。



 結局、夜間戦闘機月光を含む13試陸戦の派生型は何れも遠隔操作式銃塔を排除していた。しかも月光を除く派生型は短命のものばかりだった。本来の目的に特化することでより高性能となった代替機が存在していたから、能力の劣る13試陸戦の派生型を態々生産する意義が無かったのだ。

 銃塔を廃して純然たる戦闘機仕様にした一式双発戦闘機は、皮肉な事に単発単座の零式艦上戦闘機に取って代わられていた。本来は長時間艦隊上空で滞空するために要求されていた零式艦戦の航続距離は、陸上から運用する遠距離戦闘機としても使用可能だったからだ。

 偵察機型の一式陸上偵察機も、多くの部隊では陸軍の一〇〇式司令部偵察機が代わって配備されていった。性能を向上させながら大戦を通して活躍した一〇〇式司令部偵察機と比べると一式陸上偵察機の運用期間はあまりに短いものだった。


 最後に残った夜間戦闘機型の月光も運用部隊からはさほど高い評価は受けなかったようだ。遠隔操作式銃塔は排除されていたものの、月光には爆撃機の様に機銃手が乗り込んだ有人の銃塔が装備されていたからかもしれない。

 射撃用レーダーが組み込まれた銃塔自体の使い勝手は意外と悪くなかったというが、銃塔装備による飛行性能の低下は無視出来なかったのではないか。少なくとも同時期に日本陸軍で夜間戦闘機として運用されていた二式複座戦闘機と交戦するような事があれば機動性の低い月光は格段に不利だった。



 そもそも、この時期の日本軍には積極的に夜間戦闘機を運用する機会は無かった。ドイツは既に守勢に回っていたから、日本軍が主に展開していた地中海戦線で高価な大型爆撃機を連ねて攻撃隊を編成しているのは友軍ばかりであり、大規模な夜襲を受ける可能性は低かった。

 だが、月光の活動が不調な中でもこの時期には既に後に電光となる新鋭夜間戦闘機の開発が進められていた。早くも海陸軍の共同開発機として計画されていたこの機体では、13試陸上戦闘機では不評だった遠隔操作式銃塔も大胆に電子化して改良が進められていた。


 画期的な夜間戦闘機として電光の開発は進められていたが、要素単位の開発計画には進捗に差異があった。遠隔のレーダー照準に改められていた遠隔操作式銃塔の開発が難航していたのだ。

 そこで一部の開発が進んでいた機材のみを搭載した改造夜間戦闘機が投入されることになった。これが13試双発陸上戦闘機と同様に不採用の烙印を押されていた15試陸上爆撃機を改造した四三式夜間戦闘機極光だった。



 本来電光用に開発されていた各種電子兵装を搭載した四三式夜間戦闘機は、応急の改造機とはいえ急造品だった月光と比べると格段に完成度が高かった。

 その原型となったのは15試陸上爆撃機の初期案通りに製造された機体ではなく、15試陸爆が不採用となった後に中島飛行機でライセンス生産が進められていたセントーラスエンジンの実験機として使用されていた機体だった。

 この大出力エンジンと戦闘機としては大柄な陸爆を原型としたことが四三式夜戦に意外なほどの汎用性の高さを生み出す原因となっていた。しかも月光に搭載されていたような無粋な銃塔を廃したことで原型機通りの素直な飛行特性を保持させていたのだ。


 桑原少佐が夜間戦闘機隊に配属となったのは四三式夜戦の乗員に抜擢された頃だった。おそらくは、従来の受け身の迎撃機ではなく、地中海戦線の戦局に対応した同機の使い道を考えていた夜間戦闘機隊が、それ以前に陸攻に乗り込んでた乗員を転属させていたからだろう。

 一式陸攻の後継機として開発されていた機体を更に夜間戦闘機として改造したという紆余曲折を経て制式化された四三式夜戦は、従来の戦闘機乗りからすると火力は高いが鈍重で操縦の難しい機体と感じられたようだ。


 だが、元々九六式陸攻を操縦していた桑原少佐には四三式夜戦の操縦特性に違和感はなかった。むしろ九六式陸攻が装備していた千馬力級エンジンからすると格段に大出力なセントーラスエンジンが生み出す推力に振り回されそうになった程だ。

 原型機にあった機首の爆撃手席は、四三式夜戦では電子兵装に埋め尽くされた為に廃止されており精密な爆撃照準は不可能だったが、実戦においては支障はなかった。陸上爆撃機だった原型機とは機体の運用法自体が異なるからだ。



 一式陸攻の後継機と考えると15試陸爆の三人乗りというのは極限まで乗員を絞った結果だったが、四三式夜戦は爆撃手を廃している上に後席の仕事も通信員に留まらなかった。

 戦闘機とみると複座の時点で多いのだが、夜間戦闘機の場合は単なる通信や見張りだけではなく後席乗員の仕事は多かった。爆撃手の代わりに積み込まれた電子兵装の操作まで担当しなければならなかったからだ。


 その一方で月光からさらに充実した電子兵装の威力は大きかった。計器飛行でも昼間と変わらずに飛行できたし、模擬戦で後席の誘導で危なげなく視界の効かない夜中でも銃撃位置についたときは桑原少佐は呆気にとられていたほどだった。

 これまでは電子兵装は専門家が扱う特殊な機材で、直接的な戦力とはならないと桑原少佐はある種の反発と共に考えていたのだが、実際には少なくとも夜間戦闘においては電子兵装の優劣が戦闘の局面を支配するまでになっていたのだ。


 この充実した電子兵装を満載した四三式夜戦は、地中海戦線では主に夜間攻撃機として運用されていた。ドイツ軍の防衛線に昼夜無く攻勢を加えることで圧迫を強めようとしていたのだろう。

 爆撃手がいないから高精度な爆撃は不可能だったが、その代わりに地中海戦線の四三式夜戦はこの時期に実用化されていた高速噴進弾を使用することが多かった。直進性の良い噴進弾と大口径機銃による地上銃撃を組み合わせていたのだ。

 また、場合によっては電子兵装を駆使して単座機の支援を行うことも出来た。電波妨害機や英夜間爆撃機並に充実した電波航法装置を用いて単座機の先導機としても使用されてもいたのだ。



 ある意味では要求された性能外だともいえるが、四三式夜戦が最も苦手としていたのは対戦闘機戦闘だった。月光に比べれば四三式夜戦の速度性能は高かったが、原型が高速爆撃機だったから純粋な戦闘機相手には不利だった。

 勿論単発単座の主力戦闘機と戦うことなど想定外だったが、大戦中盤以降は本土防空戦を強いられていたドイツ空軍は探照灯などの支援のもとで単座戦闘機を投入することもあったようだ。


 桑原少佐は専ら地中海戦線に従事していたから噂でしか知らなかったが、英国本土に展開していた夜間戦闘機部隊の中には、欧州大陸で敵夜間戦闘機との戦闘に巻き込まれて大きな損害を出していたものもあったようだ。

 本来は、ドイツ本土を空襲する英国空軍夜間爆撃隊の護衛につくのは、夜戦型モスキートなどの英国空軍機であったのだが、ドイツ空軍の夜襲を迎撃する機会が大戦中盤以降は少なくなっていたことから、一部の部隊は英空軍の要請で二式複座戦闘機など陸軍機と共に英空軍の爆撃隊直掩につくこともあったようだ。


 大出力エンジンを生かした四三式夜戦は、二式複座戦闘機と同等の速度でより火力が高かったが、一回り以上大柄であったために敵戦闘機が相手の場合はより旧式の二式複座戦闘機よりも不利である場合も多かったらしい。

 それにこの時期には大戦勃発によって急遽改造された複座戦闘機や双発爆撃機などを原型とする改造夜間戦闘機ばかりではなく、当初から専用機として設計された純然たる夜間戦闘機が投入されることも増えていた。夜間戦闘機同士の戦闘でも四三式夜戦は不利な戦闘を強いられていたらしい。



 だが、ドイツ空軍重爆撃機による夜間爆撃という事態がそうそう考えられなかったとしても、本来であれば四三式夜戦は戦闘機ではなく夜間の対地攻撃に専念すべきだったのではないか。実際にその様なやり方で戦果を上げていた桑原少佐はそう考えていた。

 残念なことに第二次欧州大戦には間に合わなかったが、月光と二式複座戦闘機の海陸軍夜間戦闘機の共通後継機として開発された四五式夜間戦闘機電光が純粋な夜間戦闘機として開発されていたのは、そうした理由もあったのかもしれない。


 だが、研ぎ澄まされた四五式夜戦の戦闘機としての能力には、桑原少佐にはある種の危うさも感じてしまっていた。

四五式夜間戦闘機電光の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/45nf.html

夜間戦闘機月光の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/j1n1.html

二式複座戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/2tf.html

二式複座戦闘機丙型(夜間戦闘機仕様)の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/2tf3c.html

コロラド級空母の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cvcolorado.html

零式艦上戦闘機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/a6.html

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/a6m4.html

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/a6m5.html

一〇〇式司令部偵察機の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/100sr2.html

四三式夜間戦闘機極光の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/p1y1.html

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