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1948バミューダ諸島沖哨戒線5

 米海軍の新鋭戦艦であるモンタナ級戦艦は、先行して建造されていたアイオワ級戦艦の設計を原型としていた。実質的にレキシントン級巡洋戦艦の後継としてアイオワ級戦艦を計画していた海軍側に対して、議会は同級の設計を流用して短時間で標準型戦艦として再設計する事を推奨していたからだ。



 実は、アイオワ級戦艦の時点で既に全幅は米海軍が定めていた限度に近づいていた。実際にパナマ運河を通過する船舶の制限となっている閘門の寸法に達していたのだ。むしろ単に諸元表だけ見れば閘門の通過は制限を受けていたのではないか。

 アイオワ級戦艦がパナマ運河を通過することが可能であったのは、閘門の形状まで考慮して船体断面寸法を計画していたからだった。


 だからパナマ運河を通過可能であることを前提とする限り、モンタナ級戦艦は断面形状をアイオワ級戦艦から大きく変更することは出来なかった。全幅以外も閘門に収容可能な喫水の制限もあったからアイオワ級戦艦を原型とするのは費用削減以外にも理由があることだった。

 モンタナ級戦艦が原型となったアイオワ級戦艦から大きく変更されたのは、全長までもが閘門形状に合わせて延長されていたことだった。延長された船体が有する6万トン超の排水量の余裕をもって、モンタナ級戦艦はアイオワ級戦艦に搭載されたものと同型の主砲塔を4基に増やしていた。

 その一方で費用削減などの観点から機関部に関しても特に出力増強などはなくアイオワ級戦艦と同型式となっていた。排水量の増加を受けて最大速力は低下していたが、速度発揮に有利な船体延長の効果もあってサウスダコタ級戦艦よりも速力は高く、艦隊行動に支障は全く生じない、はずだった。



 実は、モンタナ級戦艦が就役する前から米海軍の一部ではその実際の性能に不安がささやかれる様になっていた。それは火力面に密接に関わる問題があったからだった。


 ノースカロライナ級戦艦からサウスダコタ級戦艦までの米新鋭戦艦が搭載した主砲は45口径16インチ砲だった。同砲はレキシントン級に搭載された主砲を改良したものだったが、モンタナ級戦艦は原型となったアイオワ級戦艦から採用された長砲身の50口径16インチ砲を搭載していた。

 この砲の基本的な構造は45口径砲から流用されていたものの、初速が高く近距離における垂直装甲への貫通距離が増大した世界最強の戦艦主砲であると米海軍では考えられていた。



 アイオワ級戦艦と同時期には、おそらく条約無効化後に新たに設計されたのであろう大型戦艦が日本海軍でも就役していた。第二次欧州大戦末期に早くも実戦投入されていたその大和型戦艦も主砲を従来艦から一新していた。

 磐城型、常陸型と続いたそれまでの日本海軍の戦艦は、実質的に第一次欧州大戦時に設計されていた長門型戦艦と同型の連装砲塔を搭載しているようだった。

 新鋭のノースカロライナ級戦艦建造にあたって、レキシントン級巡洋戦艦に搭載のものを原型としつつ改良を加えた3連装砲塔とした米海軍とは日本海軍は新造艦の設計思想が異なっていたらしい。


 単に貧乏な日本海軍では新たな戦艦主砲を設計開発する費用が捻出できずに、軍縮条約によって解体された戦艦から取り外された装備を転用しただけだったのかもしれない。

 最終的に空母に改造された天城型などは本来の巡洋戦艦としての姿で建造がだいぶ進んでいたから、先行して主砲塔の製造が行われていたとしてもおかしくはなかった。

 何れにせよ就役期間が長いものだから長門型戦艦の主砲に関しては、性能に関してもかなりの部分が判明していた。細かな違いはあるかもしれないが、磐城型の主砲も45口径16インチ砲である事は間違いない。



 日本海軍で長期間運用されていた旧態依然な長門型の連装砲塔と比べると、不細工に湾曲された前部煙突や中途半端な口径の副砲など米海軍から見ると奇妙な設計は無視できないが、新鋭艦だけに大和型戦艦の主砲塔は洗練されていた。

 詳細は不明だが、米海軍に遅れてようやく3連装になった砲塔に収められるようになった主砲は、砲身長も長門型の45口径16インチ砲より長いらしい。

 公開情報からすると、大和型戦艦の主砲もアイオワ級戦艦と同じく50口径辺りに長砲身化された16インチ砲で間違いなさそうだった。砲口付近の写真からするとだいぶ肉厚の砲身らしいが、製鉄技術に劣る為にアイオワ級戦艦の様に軽量化出来なかったのではないか。


 米日両海軍で砲弾や装薬に多少の違いはあるだろうが、同等の寸法であれば主砲弾の貫通距離が大きく変わるとは思えなかった。

 つまりアイオワ級戦艦でも大和型戦艦に対して火力では同等、モンタナ級戦艦であれば3連装砲塔一基分となる25パーセントもの火力差が存在する事になる。

 しかも、欧州戦線に手を出した日本海軍は貧弱な護衛空母や中途半端な駆逐艦の建造も行っていたから、艦隊主力たる戦艦の建造数であれば米海軍が圧倒しており、旧式戦艦を含めても英日海軍に対して戦力比では有利になりつつあるとみなされていた。

 最新鋭のアイオワ級、モンタナ級だけでも合わせて就役予定の全艦の装備数を合わせれば百門を越える最新鋭の50口径16インチ砲は、強大なアメリカ海軍戦艦群の象徴であると考えられていたのだ。



 だが、絶大な打撃力を誇る戦艦主砲は、発砲時に船体に伝わる反動もまた強烈だった。特に長砲身化した50口径砲の反動は強烈なものだった。

 実はアイオワ級戦艦の公試中には早くも散布界が過大となる事例が何度か報告されていた。特に悪天候時に主砲を全門で斉射すると動揺が事前の想定を越える事が判明していたのだ。


 艦橋最上部に設けられた射撃指揮所での照準が困難になる程に荒天時に高速航行した際の動揺は激しかったが、問題は主砲の反動だけにあるわけでは無かった。パナマ運河の通過と高速性能を狙った細長い船体は、推進効率と引き換えに横方向の安定性を欠いていたのだ。

 ただし、冷静になって考えてみれば、アイオワ級戦艦においては横安定性は許容範囲内であったのではないか。同級は公式には戦艦とは言いつつも、米海軍としては実質的に巡洋戦艦として運用するために設計開発されていたからだ。

 あるいは有事であれば、この程度の不安定性よりも高速性能を重視して特に問題にもならなかったかもしれない。悪天候で海が荒れていなければ、横方向の安定性も許容範囲内に収まるからだ。



 米海軍の内外で耐候性に関する問題が本格化するとすれば、その時点で建造が進んでいた次世代の標準型戦艦となる筈のモンタナ級戦艦の方だった。アイオワ級戦艦の25パーセント増しの砲力を持つにも関わらず、モンタナ級戦艦の全幅はほぼアイオワ級と同様の数値であったからだ。

 実際に就役したモンタナ級戦艦は、アイオワ級よりも悪化した全長全幅比もあって耐候性は予想以上に低く、さらに細長い船体故に速力は予定通り出ていたものの操舵性が悪く、旋回半径が過大となって他艦に合わせた艦隊行動が難しかった。


 実はアイオワ級戦艦と同時期に就役していたアラスカ級大型巡洋艦も同様の問題を抱えていた。しかも同級の場合は、米海軍が仮想敵と考えていた日本海軍の大型巡洋艦が出現しなかったという予想外の事態も発生していた。

 日本海軍が護衛艦艇などの建造に手を取られて優先度の低い大型巡洋艦の建造を途上で諦めていたのか、あるいは最初から日本海軍の大型巡洋艦建造計画そのものが幻の存在であったのかは分からなかったが、海軍部内の一部を除いて国防上の弱点となりかねないこうした問題が表に出ることは無かった。



 モンタナ級戦艦の就役は国内外に大々的に報じられていた。巨砲を満載した世界最強の戦艦として盛んに喧伝される一方で、標準型戦艦として建造されるはずだったモンタナ級戦艦のうち後期の建造艦に関しては、早々と安定性の向上を目指した大規模な設計変更が行われていた。

 ルイジアナ級とも俗称されるモンタナ級戦艦の後期建造艦2隻は、建造ドックの拡張工事まで事前に行われており、就役時から巨大なバルジを追加して安定性と水中防御を充実させていた。その一方でこの2隻はパナマ運河の通過は不可能となって議会の不興を買っていた。


 尤も議会も一枚岩ではなかった。密かに安定性問題を報告されていた一部議員はやむをえぬ事とルイジアナ級の存在に納得していた。英国海軍を始めとした大西洋に展開する国際連盟軍艦隊の脅威に対抗するためだった。



 第二次欧州大戦後、一部の部隊を除いて日本軍は急速に極東の本土に帰還していたが、陸上戦力の不足を補うためか常に新鋭戦艦2隻を主力とする艦隊を英国に駐留させていた。

 最近になって大和型戦艦が去ってからもこれに代わって最新鋭の信濃型戦艦2隻が英国本国艦隊と共にスカパフローに駐留していた。


 信濃型戦艦は概ね大和型から小改良された準同型艦と考えられていたが、備砲は同一でも機関部の構成は大きく異なっているらしい。

 機関出力などの詳細は軍事機密の奥深くに隠されていたが、レーダーを満載したアンテナと一体化した煙突構造などは隠しようもなく、従来の蒸気タービンではなく大出力のディーゼルエンジンを主機として採用していることは既に公表されていた。

 敗戦国から技術を取得したことで、日本海軍は今頃大型艦にディーゼルエンジンを多用していたドイツ海軍の後追いをしているのではないかという意見もあったが、砲術関係者には別の意見もあった。



 高圧蒸気を発生させるボイラーと蒸気で回転させる羽根車の組み合わせからなる蒸気タービン方式に対して、筒内で連続的に燃料を高圧で爆発を生じさせることでクランク軸を通じて回転力を得るディーゼルエンジンは、本体に高い強度が求められるていた。

 自然とディーゼルエンジンは出力に対して構造の重量が大きく、特に大出力エンジンは鉄塊そのものだった。


 蒸気タービンの場合も効率を重視して過加熱、高圧化すればする程配管継手などに強度が必要となるのだが、それと比べても大出力ディーゼルエンジンの重量は大きかった。

 理論上も、ディーゼルエンジンの燃焼効率は極めて高いから燃料タンクの容量は削減できるのだが、機関部全体の重量が大きくなる事実は覆せないのではないか。


 だが、砲術関係者はディーゼルエンジンの搭載はある種のバラストを兼ねている可能性があると深読みしていた。

 重量物のディーゼルエンジンが船体中央部の機関室底部に頑丈に据えられている上に、長期間の航行を行った後も燃費の良さから消費した燃料の分船体が浮き上がってくることも少ない筈だった。

 つまり幅広いフライパンのような船体形状からしても、大西洋で米海軍を牽制する信濃型戦艦は重心が低くどのような悪天候でも支障なく戦力を発揮するのではないかと考えてたのだ。



 ここまで来ると被害妄想の類にも思えてくるのだが、米海軍の新鋭戦艦が見掛け倒しのバランスの悪い艦艇でしかないという問題は海軍の砲術関係者の中で根強く語られてしまっていた。

 モンタナ級戦艦やアラスカ級大型巡洋艦の失敗を受けて、ルイジアナ級の建造と同時に米海軍では2系統の戦艦建造計画が持ち上がっていた。1つは設計段階パナマ運河の通過を諦めた大型戦艦であり、こちらはルイジアナ級戦艦が大西洋に配備されたために太平洋側に配備する計画だった。


 そしてもう一つが全く逆に小型化の道を歩んだコネチカット級戦艦だった。同級の三番艦として就役したばかりであったのが軽巡洋艦タラハシーの側面を航行する戦艦カンザスだった。

 ルメット大佐は複雑な思いで勢いよく船首波を波立たせながら前進するカンザスの姿を見つめていた。確かにビール中尉の言った通り、素人目には些かコネチカット級戦艦の艦影は頼りないものだったのだ。

モンタナ級戦艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/bbmontana.html

レキシントン級巡洋戦艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/ccrexington.html

ノースカロライナ級戦艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/bbnorthcarolina.html

コネチカット級戦艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/bbconnecticut.html

磐城型戦艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/bbiwaki.html

常陸型戦艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/bbhitati.html

大和型戦艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/bbyamato.html

天城型空母の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cvamagi.html

信濃型戦艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/bbsinano.html

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― 新着の感想 ―
[一言] ちっちゃい戦艦作ってんなー。全然違うけどドイツのポケット戦艦を思い出しました。
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