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1947独立戦争謀略戦8

 旧植民地との関係が急速に悪化していくフランスと比べると、これまでの圧政が嘘であったかの様に英国は旧植民地に対して穏当にあたっていた。

 植民地を運営する費用の増大に得られる収益が割に合わなくなっていたのだろう。英連邦に留まるのであれば高度な自治権を与えて現地人自身に統治させたほうが安上がりになると判断していたのだ。



 2度に渡る大戦への多大な功績への報奨という建前の元でインドはようやく独立を果たしていた。独立運動の旗頭となっていたガンジー氏を中核にしたインド新政府は、領域内の藩王国やムスリム達に配慮する為か多民族、多宗教に対する寛容を憲法に掲げた連邦国家を目指しているらしい。

 同じくビルマ連邦も独立を果たしていたが、こちらは未だに英国官僚団が政府機関中枢に留まっていた。早くから現地人官僚の育成が行われていたインドと比べると実務を担う官僚層が乏しく現地人のみでは政権運営能力が低かったからだ。

 この2カ国と比べると東南アジアの英国植民地は独立が遅れていた。ビルマ連邦と同じく現地政府の用意が整っていないのだ。強引に独立を行っても統治に支障が出るのではないか。


 ただし、いずれも近い将来における完全独立を目指して自治権の段階的な交付や現地勢力による地方政権の創設といった措置が取られていた。

 例えば、マラヤ連邦では周辺の小規模な植民地を併合したうえでマレー人による国造りが始まっていた。将来に於ける高級官僚や政治家の候補として英国に子女を留学させる現地人の名家も少なくなかった。

 当初は要衝シンガポールに関しては英国が今後も租借し続けることに不満の声を上げるマレー人も多かったが、英連邦内におけるマレー人国家としてのマラヤ連邦独立を見越してシンガポールに拠点を移す華僑が続出するのを見て必要悪と納得していた。

 マレー人民族主義者が中核となる新政府の思惑としては、資本力に勝る華僑を国内に取り入れることで積極的に政権内部に参加されることを避けたかったのだろう。



 英国が新独立国政府に供与しているのは自治権だけではなかった。新国軍向けに大戦終結によって余剰となった兵器類の供与や安価での売却に応じていたのだ。

 表向きは新国家への支援策の一つではあったのだが、実際には別の思惑があった。軍拡が進む新独立国が将来における英国製兵器の輸出先となることを期待しているのだろう。


 戦時中も主力艦の増強につとめていた米海軍に対応するために、著しい乗員の定数割れや予備艦への編入を伴いつつも日本海軍は金剛型以後の旧式戦艦を維持し続けていたのだが、英海軍は旧式戦艦群を大胆に削減していた。

 クイーン・エリザベス級、リヴェンジ級の合計10隻は既に英海軍の戦列を離れていた。この内2隻は大戦中に戦没していたのだが、残る8隻は何れも売却、譲渡されたか練習艦に転用されていた。



 日本海軍も旧式化した金剛型のうち残存する比叡を戦間期と同じく大型練習艦として運用し始めているのだが、比叡が基本的には大戦中と同じ姿を保っているのに対して、リヴェンジ級で練習艦に転用されたリヴェンジ、レゾリューションの2隻は主砲等などの重要な機材を取り外された無残な姿で係留されていた。

 つまり練習艦といっても外洋を航行するのではなく、兵員の初期訓練などに使用する宿泊艦でしかなかったのだが、実質的に予備艦となった2隻から取り外された部品は同型艦の修理に使用されていた。


 両級が第二の人生を送っている先は様々だった。例えばクイーン・エリザベスはデ・ロイテルと改名されてオランダに売却されていたし、ラミリーズ、ロイヤル・サブリンはそれぞれオーストラリア、ニュージーランドに売却されて国家の名前を冠した旗艦とされていた。

 その辺りはまだよいが、名前の通りマラヤ連邦に譲渡されたマレーヤや、インド連邦海軍旗艦ヴィクラントとなったヴァリアントなどはまともに運用できるとは思えなかった。

 旧式戦艦を後生大事に抱えているのは日米なども同様だったが、独立したばかりの海軍では戦艦を維持するのは難しいから、おそらくどの艦も残り少ない艦齢を単なる象徴として軍港内に係留されて過ごすのが関の山ではないか。



 旧式戦艦の売却に積極的だったのは英海軍だけではなかった。イタリア海軍もコンテ・ディ・カブール級戦艦の残存2隻をアルゼンチン、チリに売却していたからだ。

 両国に相対する南米の強国ブラジルも米国に新造三万トン級戦艦を発注していたから、大戦が終結した後もアジアだけではなく、南米でも軍拡が始まっていた。

 そのうえ英海軍から外国に渡ったのは旧式戦艦だけではなかった。大戦終盤から終結直後に相次いで進水していた新鋭空母までもが続々と売却されていたのだ。


 コロッサス級及びその発展型のマジェスティック級と呼ばれる英海軍新鋭空母の大半は、英海軍籍に入ること無く就役前に売却が決まっていた。ある意味では旧式戦艦などよりもこちらの方が英国にしてみれば目玉商品だったのかもしれない。

 ただし、既にイラストリアス級を越えて日本海軍の瑞鳳型に匹敵する程の大型空母となるはずのヒューバード級が就役間近ともなれば、中途半端なコロッサス級は英海軍には不要の存在だった。

 初期計画時にはジブラルタル級と呼ばれていたヒューバード級空母は、大型で建造期間が長いために戦時中は計画が中止されていたのだが、戦時中の日本海軍大型空母の集中運用による打撃力を目の当たりにしていた英海軍は、終戦と同時に建造計画を艦名と共に仕切り直して再始動していたのだ。



 開戦前後に就役したイラストリアス級が装甲化と引き換えに搭載量を著しく減少させてしまっていたのに対して、開戦以後に計画されたコロッサス級は装甲どころか水中防御ですら省いて搭載機数を確保した中型空母だった。

 だが、マジェスティック級の建造計画は、開戦直後の相次ぐ空母の喪失を受けて拙速に進められた感は拭いきれなかった。

 日本海軍でも開戦以後に数を揃えることを優先した蒼龍型に準拠する中型空母が計画されていたが、そんな空母では中途半端な飛行甲板長にしかならないから大型化する新鋭機に対応するのも難しいと判断されて計画途上で中止されていた。


 それに先の大戦では、日本から遥々英国に向う船団に随伴する海防空母が建造されていたが、中型空母を建造する位なら同じ消耗品でも商船構造の海防空母の方が安価に運用出来た。

 結局はコロッサス級の様な中型空母は列強海軍では存在そのものが中途半端なものになっていたのかもしれない。艦隊型の正規空母に能力が劣るのはやむを得ないにしても、航空艤装を充実させた海防空母に対しての性能優位差が薄いのであれば建造する意義がなかったのだ。



 だが、新鋭中型空母や旧式戦艦が日英などで価値が下がっていたとしても、他の後進国では過ぎた代物になってしまうのも事実だった。

 一見すると日本帝国は兵器輸出で英国に出遅れているようにみえたが、それは派手な大型艦に限った話だった。旧式戦艦や空母を手放せない日本帝国も余剰艦船の売却には熱心だったのだ。


 日本海軍から新独立国に渡った艦船は、戦時中に船団護衛を行っていた松型駆逐艦や鵜来型海防艦が殆どだった。

 大戦中に運航されていた護送船団の航行距離が長大であったことから、英国のコルベットに相当する鵜来型海防艦は航続距離が要求される船団護衛部隊よりも欧州近海などにおける局所的な対潜哨戒任務を与えられた艦が多かったのだが、新独立国で運用するにはむしろ手頃な艦型であったようだ。


 ベトナムやタイに売却された鵜来型海防艦は、不要な対潜兵装を廃して汎用的な哨戒艦として領海警備、救難などにあたることが多く、さらに松型駆逐艦が配備された場合には哨戒艦隊の旗艦に充当するというのが概ね新独立国海軍の実働部隊となる艦隊編成となっていた。

 松型駆逐艦も鵜来型海防艦も建造数が多く、運用費用も低かったから、巨大すぎて持て余す戦艦や空母などよりも稼働率は高く、実質的な主力として運用されているようだった。



 また、戦闘艦だけではなく一般商船の売却でも日本帝国は英国よりも盛んだった。英国の場合は、大戦に勝利したとはいえ、しばらくは本土で配給制が続くほどであったから商船を売却するような余裕はなかったのだ。

 一方で日本本土では、大戦中に欧州戦線を支える為に貨物船が大量建造されており、船腹量で日本が一位となるほどだったのだが、平時の海運業には明らかに日本の船腹量は過大になってしまっていた。

 それで日本政府主導で、開戦前の保有量割合並みに減らすために、保管船を除いてもなお余剰となる分の商船の売却が行われていたのだ。


 この時期の欧州には大きな輸送需要があった。大戦で疲弊した欧州の復旧を果たすには海外から大量の物資を持ち込む必要があったし、ドイツ国内で仕事にあぶれている難民を海外に移民させる需要もまだ高かった。

 大戦中に船舶を次々と喪失していたことで海運業が破綻した欧州の船会社に対して、日本帝国は惜しげもなく安価で1万トン級貨物船の売却に応じていた。場合によっては復興支援の一環として欧州諸国に無償譲渡までしていた程だった。

 供与されていたのは戦時中に日本の船会社で運用されていた戦時標準規格船だった。船会社から返納された船舶がそのまま欧州に提供されていたのだ。


 ただし、供与されたのは典型的な3島型構造の貨物船である戦時標準規格船二型ばかりで、その発展型ともいえる三型が売却された例はほとんど無かった。

 大戦中盤のドイツ潜水艦隊による損害が続出していた時期には量産が何よりも優先された戦時標準規格船二型だったが、大戦終盤には日本本土の優良造船所の建造は荷役効率を向上させた三型に推移していたのだ。

 構造から技術力に優れた大手の造船所に集中して発注されていた戦時標準規格船三型は、仕上げも丁寧にされていることが多く、鈴木商店系など日本国籍の船会社に優先して残されていた。


 いってしまえば中古品を渡された形の欧州諸国船会社だったが、ある意味で欧州諸国に与える影響はそれ以上のものがあった。安価な貨物船を与えられた船会社が自国の造船所向けに発注する可能性は低かったからだ。

 戦火により設備や資材を喪失した上に当座の発注も無くなった欧州の造船所は、国中に溢れるスクラップ解体の仕事が無くなれば財務状況が破綻する悲惨な状態になるのではないか。



 日本帝国が市場を独占しようと野心を抱いているのは造船業だけではなかった。アジア圏においては航空機や陸上兵器も輸出量の拡大を目指して新独立国に向けて政治的な工作が行われていたのだ。


 尤も航空機に関しては、割合はともかく現在までの輸出総額は大したものではなかった。予算に乏しい各国の空軍は高価な大型機を導入する余裕はなかったし、組織としても独自の空軍を保有しない国も多かった。

 日本帝国でも独立した軍種である空軍が創設されたのはごく最近のことだったが、それ以前の陸海軍航空隊の時点で艦隊や陸上部隊から切り離されて航空撃滅戦や長距離対艦攻撃といった独自の作戦を遂行する能力を保有していた。


 だが、日本陸海軍が独立性の高い航空隊を保有していたのは有力なソ連航空戦力や米艦隊という確固たる仮想敵を想定していたからだった。独立間もないアジア諸国では人数の多い陸上部隊の発言力が強く、航空隊はそれに隷属する存在でしか無かった。

 保有機も精々が最大で双発の輸送機だったし、それも生産数が多くそれだけに中古機を入手しやすい一〇〇式輸送機があればこそだった。また、表向きはアジア諸国間で大規模な紛争が起こる気配も無かったから、純然たる戦闘機も象徴的なものしか無かった。


 それ以前にアジア諸国は陸上戦力を優先して整備すべき理由があった。

瑞鳳型空母(改大鳳型)の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cvzuiho.html

蒼龍型空母の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/cvsouryuu.html

松型駆逐艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/ddmatu.html

鵜来型海防艦の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/esukuru.html

戦時標準規格船二型の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/senji2.html

戦時標準規格船三型の設定は下記アドレスで公開中です。

http://rockwood.web.fc2.com/kasou/settei/senji3.html

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― 新着の感想 ―
[一言] 実際に建造されたコンクリート船は海軍や国の実証実験船ですから相応高品質に造られていたでしょうが、もし実際大量建造されていたら諸々ローコストな海砂を使わなかったとは思えません。 リバティー船で…
[一言] >コンクリート船 海砂で建造して後年大量座屈、からの外交問題化ルートも……
[一言] アジア圏の新独立国各国になら、戦時標準機帆船が爆売れしそうな気がしますが、この世界だと余る程大量建造されなかったかもしれませんね。
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