諦めなかったモノ
昼ドラ風な話を書いてやろう、と意気込んだ結果です。
ベタ展開。
よくある話。
読み返したらイタいな自分。
では、イタいお話が好きな方はどうぞ。後は知りません。
→
本当は何処ですか?
「××ちゃんは本当賢い子ね。自慢できちゃうわ。」
『あの子不気味なのよ。ずっとあの顔だし、何も話さないし。』
表では褒めてくれるあの人は、裏では××の陰口を叩く。
そんな事を言うのなら、××を自由にして下さい。
「お前は将来有望だ。絶対私の跡を継ぎ、名を刻め。」
『勉強が出来てもコミュニケーションがなっておらん。お前の教育が悪い。』
自分の事に一生懸命で××を道具にしか思っていないあの人。
毎晩××が眠る頃にあの人を叩いては暴言を吐く。
だったら、あなたが育てたらどうですか?
一から赤ちゃんを作って、××以上のロボットを完成させればいい。
「こっち見んじゃねぇ!!気色悪ぃんだよ!!」
弟は裏表がない。
金目当ての下っ端を引き連れて親分気取り。
同じ血が流れているのだと思うと、性格の違いに驚きだ。
××もこんな荒々しく自分に素直になれるのだろうか?
羨ましい存在である。
××のような重荷を背負わずにいられるのだから。
自分が無い××は、どうすれば良いのだろうか?
先が何もない世界に荷物だけが××の体に積み上がる。
息苦しさに何度もトイレで吐いたが、毎日の学校+あの人のスパルタ教育は続く。
痛みなど感じない。
人の視線の意味がわからない。
あの人が不倫をした。
すると、あの人は毎日××を殴るようになった。
女の嫉妬という感情は、汚い。
ああはなりたくないな。
まあ、痛まないから学校には通えてる。
痛覚が元々無い体なのだ。
痣は酷いらしいけど、あの人が湿布貼るから他人には見えない。
別に見られてもどうもしない。
代わりにあの人のスパルタ教育が無くなって有り難い。
虐待を受けるようになってから、最近弟が家に居るようになった。
部屋に閉じこもってばかりだが。
それから学校の奴らが気を遣うようになった。
変に馴れ馴れしくて気持ち悪い。
「今日からお前の家庭教師よ。挨拶しなさい。」
『初めまして。』
「どうも。今日から勉強を教える水鳥だ。よろしく。
16時から22時まできっちりやるから、学校が終わり次第早急に帰るように。」
寄り道というやつは生まれてこの方した事がない。
水鳥先生とあの人は何か話した後、あの人は出てった。
水鳥先生は勉強する××の後ろに回り、勉強具合を傍観する。
こんなに近くに他人がいるのは気色悪い。
もう少し離れてほしい。
……どうでもいいか。
そのうちどっか行くだろうし。
そもそも、××に家庭教師は必要ないからぼけっとしてくれて構わない。
「その傷はどうした?自分でつけたのか?」
『いいえ。』
「イジメか?」
『いいえ。』
「…母親か?」
『はい。』
「訴えれば有罪に出来るのに。何故しない?」
『理由がありません。』
「こんな事をされるのは嫌じゃないのか?」
『わかりません。』
「わからない?」
『はい。』
“嫌”という感情は一瞬で“諦め”に変わる。
妥協にもにた思考。
勉強以外は何もかも、切り捨て。
それで終わり。
続きは存在しない。
グイッ。
一昨日、あの人に包丁で手の甲を切られた右手を掴み上げられた。
ガーゼと包帯で隠れてるから痣同様傷口は見えない。
両利きだから左手で続きを書こう。
机の上に落ちたシャープペンシルを拾い、折れてしまった分のシャーシンをカチカチと出す。
水鳥先生はジッと見つめる。
何なんだこの人は。
何がしたい。
「私は医学部で講師をしているが、君のような体の人間に会うのは初めてだ。」
『そうですか。』
「本当に痛みを感じないのか?」
『はい。』
「面白い体だ…。」
好奇心を宿した瞳で××の体をジロジロ見回す。
勉強を教えに来たんじゃないのか。
体目当てなら早く帰ってほしい。
うんざりだ。
××は食事と風呂以外の時間は寝るまで勉強をしなくてはならない。
それが命令だから。
邪魔をしないでくれ。
『勉強の妨害です。』
「ちょっとたげ研究させてくれないか?」
『拒否します。』
「どうせ先生と奥さんは家にいない。私と君だけだ。」
『再度言います。勉強の妨害です。』
「それがどうした?私は君の特殊な体を診たくてわざわざ来たのだ。付き合いなさい。」
『拒否します。』
「綺麗な顔が更に傷つくぞ?」
頬を撫でられゾワリと毛が逆立つ初めての感触。
気持ち悪い。
気色悪い。
気味悪い。
命令が、実行不可能。
力では敵わない。
顔が近づく。
誰か、どうにかしてくれ。
……これが恐怖か。
バァン!!
「んなクソ気持ち悪ぃ手で姉貴に触んじゃねぇ!!」
ガッタアアアアン!!
「ぐぁあ!!?」
『……鬼才?』
水鳥先生が、突然現れた弟、鬼才に吹っ飛ばされた。
人が飛んだのを見たのは初めて。
おかげで本棚の本が雪崩をおこした。
水鳥先生はその雪崩を全身で受け止める。
××は鬼才が水鳥先生を蹴った衝撃で解放された。
手首が赤くなっている。
鬼才は水鳥先生につかみ掛かり、顔を殴っている。
××にはどうすれば良いのかわからない。
ただ、成り行きを見守る。
死にそうになったら、一応止めよう。
鬼才は一通り殴った後、部屋から水鳥先生を引きずってった。
下で玄関が開く音がして、誰かの小さなうめき声がする。
そして乱暴に扉が閉められた。
階段を誰かが上る。
鬼才が戻ってきた。
××の前に立つ。
座ったまま××より高い鬼才を見上げる。
見ない間に随分大きくなった。
顔も垢抜けた。
鬼才は、何故か怒っていた。
「…何で姉貴は抵抗しねぇんだよ。」
『…理由がないから。』
「理由ならごまんとあんだろ!!嫌とか、傷つきたくないとか!!」
『わからない。』
「…あいつに迫られた時、嫌じゃなかったのかよ。」
『…恐怖を感じた。』
「ほらよ。あんたにもそういう感情があるんだ。理由なんかそんなもんで充分だ。拒否れ。」
『けど、内心諦めてた。』
…そうだ。
恐かったけれど、何時ものように切り捨てていた。
もう、どうでもいいと。
鬼才が来なければ、××はなすがまま、水鳥先生の好きにさせていただろう。
抵抗が無意味だとわかってるから。
従う事が、正しいのだと。
この家に来てから、名字を変えてから、期待されてから、××はただのロボット。
そう信じてきた。
だから、自由な鬼才は憧れであり、羨ましかった。
何をしても居場所がある。
××と違って、血が繋がっているから。
××には、此処しかない。
ポタ。
「……泣くなよ、姉貴。」
『…本当の姉弟じゃないよ。』
「んなの、餓鬼の時から知ってる。それが今更どうした。」
『鬼才が羨ましい。』
「俺が?」
『家族がいる鬼才が、自由な鬼才が、痛覚がある鬼才が、とても羨ましい。』
はらはらと温かい涙が流れる。
眼帯をした目からも涙がこぼれ落ちる。
屈んだ鬼才が眉を下げて親指で涙を拭う。
何時も不機嫌そうな顔が、困った顔をしている。
暴言を吐く口が、今は大人しい。
久しぶりに触れる鬼才の手は、大きくなった。
涙を止める方法がわからなくて、ただ涙が止むまでそのままにしている。
今まで泣いた事などなかったから。
生まれた時くらいは泣いたかもしれないが、記憶にはない。
「姉貴。」
ギュッ!と鬼才が抱き着いてきた。
××は抵抗する方法がない。
そのままの状態で鬼才が離すのを待つ。
鬼才が耳元で喋る。
「姉貴が、百合が俺を怒るように、今まで冷たくしてた。トイレで吐いても、何事もなかったように振る舞うし、ババアに傷つけられても何もしねぇから、腹がたった。あのババア、自分でジジイに言えって話だ。百合は何もしてねぇのによ。」
『……百合?』
「姉貴の名前だろ。昔から変わらない唯一のモノ。」
『そうだっけ。』
忘れてた。
××、百合って名前だった。
久しぶりに誰かに名前を呼ばれた気がする。
懐かしい響き。
先程水鳥先生に触られて嫌だったのに、鬼才は全然そう思えない。
姉弟だからだろうか。
それなら合理的だ。
納得のいく答えだ。
鬼才が体を離した。
百合の肩を掴んで見つめる。
どうしたのだろうか?
「俺さ、百合より二つ年下だけど、ババアから守ってやるよ。これ以上、百合が傷つく姿は見てられねぇ!」
『受験勉強は?』
「俺、優秀だぜ。問題ナッシング。」
『そっか。』
ポス。
額を鬼才の肩に軽く乗せる。
肩幅の広い鬼才の体は、百合と比べて固い。
筋肉だろうか。
冷え性の百合と比べて、鬼才は温かい。
何故か安心した。
『子分はどうしたの?』
「弱いから捨てた。俺一人で百合を守る。」
『…守らなくていい。』
「ハァ!?何でだよ!!」
『昔みたいに、あの人達がいない所で甘えてくれるだけで、充分。「姉さん」って。』
「どんだけ餓鬼の時の話だよ…。じゃあ、誓いも覚えてんのか?」
『誓い?』
「…覚えてねぇんなら、そのままで。こっぱずかしいから。」
『?』
照れ臭そうにそっぽ向く鬼才。
耳まで赤くなってる。
…誓い?
何時の頃の話だろうか。
思い出せない。
―――――
「今日から鬼才君のお姉さんの百合ちゃんよ。優秀だから、色々教えてもらいなさい。」
『初めまして。』
「は、初めまして。」
「じゃあ、部屋に案内するな。」
「姉さん!今、大丈夫?」
『鬼才君。宿題終わらせないとお母様に怒られるよ?』
「もーやった!
ねえねえ、姉さんは変な体なんでしょ?父さんでも治せない体。」
『そうだよ。』
「じゃーさ、俺がその体を治してやるよ。そしたらさ、治療費の代わりに俺と結婚して!」
『…プロポーズ?』
「多分それ!……ダメ?」
『姉弟では結婚できないんだよ。』
「本当の姉弟じゃないから、結婚出来るよ!先生が言ってた!」
『…じゃあ、しても良いよ。』
「本当!?」
『鬼才君となら、喜んで。』
「誓いな!絶対だよ!?」
『うん。』
「姉さん大好き!!」
『鬼才君は甘えっ子だね。』
「姉さん、良い匂いするもん。」
『そう?』
「俺、この匂い好きー。」
『そっか。』
「ハァ?治せないの?」
「今の医学では不可能だ。一生あの体のまま百合は生きていくしかない。」
「ふざけるな……」
「鬼才。」
「ふざけんな!医学が進んでねぇからって諦めんのかよ!!
見損なったぜ!!」
「待ちなさい鬼才!」
バァン!!
「…ックソ、これじゃ誓いが守れねぇじゃん。どうすりゃいーんだよ……姉さん。」
「おいお前ら、見つかったか?」
「ありやせん。図書館全部探しやしたけど、全く。」
「すいやせん。」
「使えねぇ。お前達は切り捨てだ。」
「あ、兄貴!?」
「待って下さいよ!!」
「ついてくんな。別れだ。」
―――――
「なぁ、姉さん。」
『何?』
ベッドに寝転がる鬼才が声をかけてきた。
百合は勉強したまま返事をする。
あの日以来、鬼才は百合の部屋に入り浸るようになった。
水鳥先生は辞めたらしい。
鬼才がいるおかげか、あの人が虐待しなくなった。
あの人達の顔に殴られた痕があったのに気づいたのは夕食の時で、湿布が至る所に貼られていた。
あの人は不倫相手と別れたらしく、あの人と元の夫婦に戻ったらしい。
鬼才が教えてくれた。
その鬼才も金髪だった髪を元の茶髪に戻した。
理由は不明。
「姉さんはさ、自分の体、痛覚が戻るって信じてる?」
『ううん。』
「……餓鬼の時から?」
『治らないってわかってた。』
「………………マジかよ。」
『でもね、』
一旦区切った。
振り返って、枕を抱きしめる鬼才を見る。
鬼才は不思議そうな顔をしている。
そんな鬼才に、“プロポーズを受けた時と同じ笑顔”を向けた。
胸に手を当てる。
『百合の将来の旦那様が治してくれるって、鬼才と約束した日から信じてる。』
イタかったでしょう。最後無理矢理綺麗に纏めた感がバリバリ表れてるでしょう。アハハハ。
百合は孤児院から父親に連れて来られた子供。その時からあまり話さない子供だった。
鬼才は出会った時に一目惚れ。してたら面白い。
二人の今度は皆様の妄想にバトンタッチ☆←
ありがとうございました。