第1話【全てが終わる日始まる日Ⅲ】
SIDE[B]
強いやつと戦いたい、
俺の願いはそれだけだ。
俺の父は、若き頃は有名な騎士だったらしい。
父の父も、その上の父も。
我が家は代々優秀な騎士を輩出する名家のようだ。
だから俺も、幼い頃から姉と共に騎士としての厳しい鍛錬を行ってきた。
だが、俺は剣の才が全くと言っていいほどなかった。
姉がスイスイと父に言われたことを成し遂げていくのを、ただ見ているしかなかった。
母に蔑まれ、父に殴られ、民衆には「悪魔」と疎まれる。
当時まだガキで力のなかった自分に出来たのは、耐えることだけだった。
少なくとも、父が強いことは知っていた。
今はまだそのときではない
俺は、そう自分に言い聞かせて生きてきた。
そして16歳になった日、
俺はついに決行した。
手頃な武器がなかったので家にあった斧を使うことにした。
そして、その斧を持って両親の部屋に入っていく。
結果は、予想以上に呆気なかった。
これが騎士の名家の強さなのかと疑うくらい2人とも脆かった。
騒ぎを聞きつけた王国の騎士が剣を抜いて斬りかかってくる。
遅すぎるその攻撃を軽くよけて、斧で首をはねる。
やはり弱い。
弱い奴には興味がない。俺が脱力感にひたっているうちに、他の騎士たちが俺を押さえ込んだ。
牢獄に入れられたあと、看守の強さをはかろうと思った。
こっちは両手足を縛られている身だ、いいハンデになるだろう。
そう思ったが、またこれも呆気なかった。
首を少し噛んだだけで、相手は血を噴き出し、その場で絶命した。
俺はその後目隠しと口に縄を入れられ、更に地下の牢屋に入れられた。
もう強い奴はいないのか。
俺はこの世界に興味を失っていた。
ついさっきまでは・・、
死刑場へ連れて行かれ、目隠し状態で司祭の長い話を聞いていると、
突然前に人が降り立った音が聞こえ、
その次に銃声のような音、
次に悲鳴が聞こえた。
何が何だかわからずじっとしていると、
頭を何かに噛まれた痛みがはしる。
それにより目隠しが外れ、俺は辺りを見渡す。
一言で言えば、
地獄絵図だった。
空は真っ暗で城下には、禍々しい生き物が人々を襲っていた。
顔が腐った犬、動く屍、空を飛び回る首が3つの鳥、
そして本の中でしか見たことがないドラゴンの群れ。
地上では犬や屍、高いところへ逃げれば三首の鳥、そして逃げ切ってもドラゴンの口から出される業火で焼き尽くされる。
辺りは火の海だった。
再び頭に激痛がはしる。
首を少し動かすと犬が俺の頭を噛んでいた。両手足が縛られているためもがくくらいしか手がない。
だが、なかなか犬は離れない。
そうこうしているうちに、他の得体の知れない何かが束になって俺に襲いかかってきた。
頭だけじゃなく、身体中の至る所に噛みついてくる。
だがそれにより、手足を縛っていた鎖が壊された。
俺はすぐさま立ち上がり、まず頭を噛みついていた犬を引っ剥がし、地面に叩きつける。
ブチッ、という鈍い音が鳴り、犬は動かなくなった。
身体に噛みついている連中も同様に引っ剥がす。
その場にいた連中を全て動かない物にするのに5分もかからなかった。
コイツらも弱い。城下町はすでにむちゃくちゃだったが、ここも酷いものだ。
そこらじゅうに飛び散る肉片、血だまり。
連中が食い散らかしたあとが見事に残っている。
その近くに俺をかつての友と言った男、ファントムが倒れていた。
腹に穴を開け、生きているかは解らなかった。
俺はコイツの生死より、コイツを倒した者に興味が湧いた。
ファントムは王国の騎士のトップに立つ男であり、俺もコイツには勝つことは難しいと思っていた。
それをこんなに安々倒す存在・・・。
俺は、城下町へと駆け出した。
正直、俺はまだ何が起こったか理解できない。だが見渡す限り、次々と現れる化け物達と戦いながら1つだけ確信した。
俺の世界は始まったのだと・・・。