第2話【全てが終わる日始まる日Ⅱ】
SIDE[P]
王国地下牢獄
じめじめした階段を、一歩ずつ降りていく。
王国に何年も騎士として仕えているが、この地下牢獄の空気はいつまで経っても慣れることがない。
俺の後ろにいる2人の騎士も、同じ気持ちだろう。
階段をゆっくり降りた先にあの男の入っている牢屋がある。
2人の騎士の1人が、恐る恐る牢屋の鍵を開ける。
牢屋のなかには、ボサボサに伸び散らかした白髪の男がいる。
全身を鎖で巻き、目隠しをして、口には縄をくわえさせている。
こんな厳重な拘束、連続殺人犯でもすることはない。
だがこの男がこの牢獄で起こした「事件」を思えば、これくらいしなければならない。
まぁ今はこちらの不始末を挙げているときではない。
俺はもう1人の騎士に白髪の男の目隠しと縄を取らせた。
俺は眩しそうに目を開けたその男に話しかける。
「どうだベスビウス、気分のほうは?」
白髪の男、ベスビウスは口を2、3回動かしたあと、
「まあまあだな。」
とだけ言った。
俺はその場にしゃがみこんで、ベスビウスと目を合わせる。
後ろの騎士たちが、近づくと危ないとか言ってきたが気にしない。
「今日がお前の死刑執行の日だ。
正直、かつての友の死刑を行わなければならないなんて、しのびないがな。」
「ハッ、かつての友だぁ?ガキの頃に数回遊んだ程度だろ?」
ベスビウスは俺の言葉を鼻で笑う。
昔と違って、コイツは表情豊かになったと思う。
まぁ、悪い意味でだが。
「そう言うな。クレアはお前と一緒に遊べて嬉しいと言っていたんだぞ。」
「今この時に何言ったって俺は今日で死ぬんだ。
さっさと死刑場へ連れて行けよ。」
ベスビウスはそう言うが俺にもやりたくもない仕事が残ってる。
俺はその言葉を口にする。
「最後に言い残しておくことはないか?」
死刑の直前死刑囚には最後の言葉を言う権利がある。
たいていは死ぬのが怖いやらの命乞いだ。やりたくもない仕事と言ったが、本当にこの仕事は嫌いだ。
だが目の前の男は違った。
「そうだな、
強いて言うなら、看守はもっと強い奴を雇ったほうがいいと思うぞ。
また誰かに殺されちまうからな。」
ベスビウスはククッと笑いながら言った。
この男、例の事件を掘り起こしてくるとは・・。
強気な態度なのか、本気でそう思っているのか相変わらずわからない奴だ。
「・・・わかった、検討しておこう。」
俺はそう言って、後ろの2人にベスビウスに再び目隠しと縄をさせる。
死刑が執行されるまで、これらが外されることはもうない。
つまり、事実上さっきのが本当に最後の奴との会話である。
先頭に2人の騎士、後ろは俺、間にベスビウスを挟み俺たちは死刑場へと向かった。
死刑場
王国の城のバルコニーに作られた死刑場に着いたのはあれから10分後だった。
城下は大勢の人で賑わっている。
民衆にとっては、この死刑執行も1つの娯楽となる。
ましてやベスビウスは「悪魔」と呼ばれた男だ、見物客の数は半端ない。
ベスビウスが所定の位置につき、司祭が罪状を読み上げている。
その途中、俺の頬に冷たい感触がした。空を見上げると、さっきまで良かった天気がうってかわって、どす黒い雲があたりを覆っている。
早めに終わらさないと後々面倒なことになりそうだ。
そう思って再び死刑場を見たとき、
目の前にある3人がいた。
それはこれから死ぬベスビウスではない、
罪状を読み上げている司祭ではない、
研いだ剣を持っている執行人ではない、
ここにいるはずもない輩だった。
3人の印象は、とにかく黒だった。
右は黒いタキシードを着て片手に薔薇を持った男。
左は全身黒の甲冑をつけた者。(性別はわからない)
そして中央、頭まで覆った黒のコートを羽織る男。いつ現れた?
どうやってこの場所に?
なんのために?
数々の疑問が浮かんだが、とにかく俺が一番最初にやったことは・・、
「何者だ、貴様ら!」
剣を抜き、相手に向け、怒声をはなつ。
こんなマニュアル通りのことしか出来なかった。
3人のうちの中央の男が振り向く。
「ほう、得体の知れない連中にこうも早く威嚇をするとは、見込みありだな。
・・・・・しかし、」
男は腕を上げ、俺に手のひらを見せる。
「相手の強さを見極めてから、するべきだったな。」
男の手が黒く光ったと思った瞬間、
ドンッ!!
という音が響いた
「・・・・・っぁ!!」
俺は悲鳴にもならない叫び声をあげ、その痛みと同時に・・、
自分の腹に手のひら大の穴が開いていることに気づいた。
激痛に耐えられず、その場に倒れ込み、意識が遠のいていく。
薄れゆく意識のなか、俺は1つだけ確信した
この日、この世界は終わったのだと・・・。