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第6話:国防陸軍関西本部



 今回の訪問は対外的には、独立防衛軍新代表による非公式の「表敬訪問と挨拶回り」という体裁をとっている。だが、本筋となる目的は秘密裏の依頼(赤崎大琥の説得)の実行。本来であれば、身分を偽り、人目を避けて密かに臨むのが定石だろう。



 ならば、なぜそうしないのか。その理由は、軍組織の高官が交代した際の顔見せを非公式で行うことが、国防を担う重鎮の輪に加わるための『恒例の通過儀礼』となっているからだ。


 陸軍幹部たちは、結子が行使できる一度きりの片道切符《表敬訪問》を隠れ蓑に、特権を用いて半ば強引に舞台を整え、白昼堂々と秘密裏の依頼を遂行する――“軍規を陸軍将官全員が正々堂々と踏み抜く”という、かなり危ない橋を選んでいるのである。



◆ ◆ ◆



――大阪府に居を構える国防陸軍関西本部。そこは、無骨を限界まで凝縮したコンクリートの要塞。


広大な土地を囲う塀には、最新技術の魔法的処理が施された――常時発動パッシブ式の物質強化魔法によって、物理・魔法双方に対する強度を極限まで“書き換えられた”――鈍色の強化コンクリートが用いられ、外敵の侵入を跳ね除けんと睨みを利かせている。


 それを超えた先の敷地内には、軍事訓練施設はもとより、肉体を極限まで追い込むトレーニング施設、飲食店、果ては娯楽施設までもが完備されている。生活のすべてをこの基地の中だけで完結させるその場所は、国防という大義のために構築された『軍人のための街』なのだ。



◇ ◇ ◇



 結子達を乗せた黒いエアカーは、高官用の特別通行レーンを悠々と駆け抜けて十五分。一台の車両ともすれ違うことは無く、目的地を眼下に捉えた。


 入場ゲート前上空に差し掛かると、エアカーは地上に設けられた離着陸場からの誘導信号に従い、静かに降下を開始する――搭乗者に揺れを感じさせることもなく、車体は大地へと到達した。


田所が情報端末から入場ゲートコンソールへアクセスし、各種認証と手続きを済ませると、間もなくゲートが開いた。施設内に進入したエアカーは、黒紅色の軍服たちから“まばらな敬礼”を浴びながら、灰色に統一された軍設備の間を通り抜けていく。


…………奥へ進むこと数分、聳え立つように圧倒的な存在感を放つ巨大なコンクリート造りの建造物前で、エアカーは停車した。




 歓迎の彩りは一欠片もない。ロータリーだけが存在する殺風景な正面玄関には『国防陸軍関西本部』と記された銘板が掲げられている。外観にも一切の飾り気などなく、塀と同色の外壁には窓一つ存在しない。実用性だけを突き詰めた荒削りな佇まいだ。


 エアカー後部座席から降りた二人に先んじて、田所が入口脇の管理端末にカードをかざす。承認を告げるARディスプレイが空中に浮かんだ後、分厚い石造りの扉が、重々しい響きを立てながら左右に開いていった。


 その先に広がるのは、外観の無骨さからは想像だにできないほど洗練された、白を基調とした広大なエントランスホール。等間隔に並ぶ採光窓からは、デジタルグラフィックではない正真正銘本物の日光が柔らかく降り注ぎ、軍事施設特有の澱んだ空気は微塵も感じさせない。


壁、床、天井。そして、二階まで伸びる、ゆるやかな曲線階段の小柱に至るまで。全てが大理石で構成された、厳格かつ無機質な空間であった。


「結子様、はじめ様、どうぞこちらへ」


 一足先に足を踏み入れた田所が丁寧な所作で促すと、二人はその広大な白い異空間へと吸い込まれるように入っていった。



◆ ◆ ◆



 女性職員に案内された来賓室には、来客をもてなす歓迎のムードが満ちていた。シャンデリアから溢れる温かい光が空間を満たし、ガラス張りの立派な長テーブルには一人掛けの革張りソファが並ぶ。それらを調和させるように、ワインレッドの絨毯が受け止めている――ゆとりある広さを、嫌味やらしさのない豪華さで仕立てた空間。


 ただ、そんな来賓を歓迎する雰囲気を引き裂くように、黒紅の軍服を身に纏った野獣のような巨体――「赤崎 大琥(あかさき だいご)」がテーブルの上座に鎮座していた。彼は立ち上がることもなく、入室した二人――「白川 結子(しらかわ ゆうこ)」と「はじめ」に対し、獰猛な視線を突き刺す。



◇ ◇ ◇



 立ち上がれば二メートルに達するだろう巨躯。椅子に腰掛けていてもなお、壁のように立ちふさがる重圧を放っている。


短く刈り込まれた深紅の頭髪に、野性味を濃縮したような彫りの深い顔立ち。その相貌は、獲物を前に牙を剥く肉食獣のような獰猛さを感じさせるほどだ。

 恵まれた大柄な体格からは筋骨隆々とした重厚さが溢れているが、決して鈍重な筋肉の塊ではない。その肉体は鍛え上げられた起伏を描き、無駄を削ぎ落としたシャープなシルエットを形作っている。



「国防陸軍大将・赤崎大琥殿。お初にお目にかかります。この度、独立防衛軍・総帥に着任しました、白川結子です」


 赤崎あかさき 大琥だいごは、丁寧な会釈を伴った挨拶をかけられてもなお、答礼一つ返さず、ふてぶてしい態度を貫く。結子はそんな姿を視界に入れつつも、一切を意に介さない様子で、その隣で礼節正しく立ち上がった紅い髪の女性へと手を差し伸べた。


「本日はお時間をいただきありがとうございます」


「こちらこそ。就任早々の多忙な時期に、お手を煩わせてしまい申し訳ない」


 握手を求めるその手に対し、無駄のない動作で礼節正しく応じた女性は「赤崎 千華(あかさき ちか)」。国防陸軍中将。実力のみで組織の序列二位へと登り詰めた英傑であり、彼女の隣で不遜に構える存在《大琥》の実の姉でもある。


身長は一八〇センチに達し、芯の太い揺るぎない体幹。紅いロングヘアを一つに束ね、涼やかな眼差しが印象的なきりりとした顔立ち。その佇まいには、熟練の粋に達した武人のように研ぎ澄まされた気品が漂っている。


「滅相もありません。それが我々の責務ですので。……さて、早速ですが本題に入らせていただいてもよろしいでしょうか? 」


「ええ、ぜひ。そのようにお願いしたく存じます」


 結子が真っ直ぐな視線を据えて切り出すと、千華は淀みのない友好的な声色で応えた。



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