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第25話:事後始末



◆◆◆



 魔法省本庁舎を襲った十名のテロリスト。


 捕縛へ向かった時点で既に事切れていた二名を除いた八名は、陸軍中将・赤崎 千華の命令通り、完全武装状態のSMAT(Special Magic Assault Team)の護送によって特別留置所へその身柄が届けられた。


 彼らが収容されたのは、《《今回のような》》テロが起こるようになってから新設された、工作員スパイや不法滞在者といった、身元不明の魔法技能を有する者――その中でも重大犯罪者専用の保護隔離施設である。



 敷地全体が光学迷彩に覆われ、その所在は衛星からも捉えることはできない。仮に、その場所を突き止めたとしても、軍事施設と同じ材質で作られた頑強な二重の防壁に囲まれ、内部へ通じる全てのゲートには、戦闘に対応できる警備員が六時間交代で常時詰める。


 さらにそこを潜り抜け、侵入できたとしても、施設内に張り巡らされたマイクロカメラと各種センサーが、虫一匹の侵入さえ許さない。


――そのはずだった。


 留置所の内部は、真っ白な独房が分厚い壁により等間隔に仕切られた構造となっており、部屋それぞれに張り巡らされたセンサーから送られてくる情報をAIがモニタリングすることで、常に死角のない監視下に置いている。


 その部屋のひとつ。堂々たる体躯を誇る、敵テロリストメンバーのリーダーと思われる男が、独房の扉が開けられたことを察知した刹那、突如、左胸から鮮血を吹き出し、倒れ伏す。


 他の独房に収容されていた者たちも、抗う暇すら与えられず、同じ手際で次々と斃れていき、最後の一人が血の海に沈むまで、わずか五分。すべての監視を正面からかいくぐった上での暗殺という大胆かつ巧妙な手口により、テロ実行犯たちは闇に葬り去られた。


――まるで、証拠を隠滅するように。



 だが、モニタリングを行うAIへ、その惨劇の様子が映し出されることは一秒たりともなかった。魔力から熱源まで、すべての監視システムは、何事も起きていないかのような、それまで通りの平穏な映像情報を見せられ続けていたのだ。


 二十分後、映像が現実のものに切り替わるとようやく、囚人たちが倒れ伏しているという物理的な異変を検知。警官が駆けつけたときには既に、全員が手の施しようのない状態であった。



◇ ◇ ◇



 深夜、鑑識および陸軍合同で入念な調査が行われた。


 その結果、今回の犯行に用いられたのは、九九パーセントの確信をもって、『情報欺瞞偽装データディセプション』。皮肉にも、魔法を電子的に制御するようになったことで実現可能となった、準一級魔法であると特定された。 



 情報欺瞞偽装データディセプションは、「そこには何も存在しない」という欺瞞データを送り込む、あるいは空間そのものに投影することで、直視を用いない目を完璧にスルーすることができる、「抽象系統魔法」の一種。


 敵は、この施設の監視網が自動制御《AI》頼りであることを把握し、この魔法によって全ての監視を素通りしていたのだ。



 抽象魔法は、文字通り魔力を媒体に、現象の結果として生じる抽象情報のみを具現化する高等魔法。結界魔法や飛行魔法などと同じく、状態の維持には常時魔力を消費し続ける必要があるが、発動時に得られる効果メリットは大きい。


 具体例を挙げるなら、炎の抽象化をする場合、燃え盛る火炎そのものではなく、「熱」の効果のみを抜き出し、刀剣や槍の刀身に付与することで対象を溶断する――ヒートブレード化などが代表的といえる。




 この犯行には、『情報欺瞞偽装』の魔法をこの空間全体に投影できるほどの実力を持つ、第一線級の魔法師が関与していると結論づけられた。


 また、魔力残滓を検査した結果、そのすべてが同一の魔力構造を示した。遺体の傷口もすべて寸分違わぬ刺剣によるものであったことから、一連の暗殺がたった一人の「単独犯」によるものであるという断定にも至った。


 テロ事件の背後を突き止めるための情報源を殺されてしまったことは確かに問題だ。しかし、最大の懸念は、なぜこの極秘の留置所の所在が知られていたのか、そして、モニタリングシステムが電子制御《AI》ベースであることをなぜ見抜かれていたのか、という点に集約された。



――政府及び軍上層部は、確証が得られるまでは公にしない方針を採択したものの、紛れもなくこれは、《《ロシア》》帝国による侵略行為である、と確定。


 かの国からの渡航者の入国審査の厳格化および、直接対処に当たる可能性が極めて高い国防陸軍に対し、「赤崎 大琥」および「赤崎 千華」の両名への無条件投入権限を付与。――日本政府としても、ただ座して見守るという「日和見」の選択肢は、端から候補にない。





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