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第21話:魔法省襲撃Ⅴ



◆ ◆ ◆



 結子と秘書の田所、はじめの三人だけが残された会議場。



結子が、ビル全体を覆う複合三層の結界の構築を終えてしばらく。


 やはり同じ方向から、攻撃が再開された。

しかし、今度は何かに追い詰められたかのように狙いが荒い。弾道の一貫性のなさから、放つ側の焦りが透けて見えるようだ。


だが、奇襲が失敗に終わり魔力の隠蔽が不要となった今、魔法行使を縛る制約は消え失せている。よって、加速魔法によって限界まで促進されたロケットの速度は桁違いである。


 火を吹きながら突き進む四発の投射物が立て続けに、結子の展開した結界へと着弾。弾頭内の火薬が爆発を引き起こした――。

すると、しばらくの溜めがあった後。


 先程と同規模に再現されたフレアバーストのまばゆい閃光が、窓の外で、ほとんど時間差なく四度連続して爆ぜた。


完全な一点集中ではないものの、同時多発的に発生した猛威を真っ向から受け止めてもなお、表層一枚の貫通はおろか、まともな損傷すら許さなかった。



 ビルの防衛システムが外壁の幾何学模様に魔力を循環させ、一枚、また一枚と障壁を再展開し始めたことで、非常アラートは鳴り止む。


 会議場に静寂が戻ってから数分。不意に、結子の胸ポケットが鳴る。


取り出した端末が投射したARディスプレイには、たった今戦闘が起こっていたであろう現場――閉め切られた工場正面ゲートが鮮明に映し出された。


そこを覆い隠すように、立入禁止ホログラムが設置され始めている。その光景を背に、千華が口を開いた。


『白川殿、こちらの制圧は完了した。奴ら、捕縛間際に狂ったように残弾すべてを吐き出したが、……そちらは大丈夫だったか? 』


 駆けつけたSMAT小隊へ護送対象の引き渡しを済ませた千華は、ビルへの襲撃も先ほど苦し紛れに放たれたロケットで打ち止めであると断定していた。


そう時間をかけずこの事態は収束する。そう肌感覚で確信しているゆえに、いくらか気を緩め、初陣を迎えた結子をひとりの友人として案ずるような、柔らかい口調で問いかけていた。


「なんの問題もありませんでした」


 発動している結界の規模はたしかに大きい。だが、結子にはなんら苦労した感覚はなく、大したことを成し遂げた実感も、当然わかない。


 結子は未だ、初めての有事を白昼夢かのように、ふわふわと中空に浮かぶ夢うつつな感覚のまま過ごしていた。それゆえに、千華の口調に混じった僅かな安堵や、いち個人としての心配――決して小さくはないその声色の変化を、今の彼女は受け取ることができないでいた。


 争いを拒絶する彼女の精神は、もはや現実にいない。


したがって、表層意識に貼り付けられた軍人用の仮面が、今起きた強烈《《であろう》》暴威の光景に対して、ただ「異常なし」との《《感想》》を淡々と返していたのだ。


『そうか。……散開させた小隊員からも敵影なしとの報告が集まってきている。すまないが、完全収束まで維持を頼む』


「了解しました」


 千華は、陸軍基地で見せた「精一杯軍人を演じる」姿がないことに薄く眉をひそめたが、声色は柔らかなまま言葉を紡ぎ、通話を終えた。


 その会話を終える間際でようやく、千華の言葉の調子に変化を感じ取った結子は、事態収束の気配からくる安堵感に、ほう、と一息をついた。



◆ ◆ ◆


天へと昇る一機の《《ミサイル》》弾頭。


――空気を切り裂き、工場へ先行した紫崎たちが現場に到着する直前に放たれた、一発のミサイル。それは入念なステルス魔法によって、その姿も熱源も、さらには魔力反応すらも完全に隠蔽された状態で、音もなく空へと昇った。


上空一万メートル。ブースターユニットを切り離すと、雌伏の時を終え、濃密な幾何学模様が重なり合う――暗赤色が入り混じった青白い光に包まれる。

まばゆい発光が弾頭に吸い込まれると、尖鋭な先端が直下へと向けられた。推進剤を加重魔法による重力加速に切り替えたそれは、空気の壁を破る轟音を置き去りに、猛然と加速していく――。



◇ ◇ ◇



「結子ちゃん。来るよ」


張り詰めていた気が多少なりとも抜けた瞬間を見計らったかのように、天井を仰ぎ見る一が、重いトーンで口を開いた。 


「はい? 」


唐突すぎる一言。さすがに気持ちの切り替えが間に合わず、結子の口から完全に気の抜けた声が漏れる。


「上だよ。敵の狙いはおそらく政府関係者、もっというなら『非魔法師』だ」


その真意をいまだ掴みきれずにいる結子へ、一は言葉を噛み砕き静かに重ねた。




「――――ッ?!」


このビルの高さは、約六百メートルにも及ぶ。


 現在結子は、ビル内部への侵入者対策として、データベースに登録されていない魔力を検知するパッシブ式の探知魔法を精度重視の設定で直径六〇〇メートル、高さも六〇〇メートルの半球状に展開している。


これは、MCDの演算リソースが許容できる情報処理能力の限界値であり、防衛戦術としてはなんら問題はない。


しかし、横はともかく上方向はただビルを収めきる範囲に過ぎず、上空からの強襲に対しては後手に回ることになる。そこで、保険的に結界の範囲を上方向に百メートル拡げ、検知と防衛を兼ねたマージンを確保していた。



――その保険的猶予が、今、無に帰した。


敵勢力の二人が、魔法師として、あるいは《《人として持てる全て》》を捧げて生み出した弾頭の青白い炎によって、一層、二層、三層と、その全てを瞬く間に貫通したのだ。


一段と頑丈に構築していた最後の一層がわずかに速度を落とさせはしたが、微々たるもの。ほぼ意味はなく、着弾まで、一秒もない。



 一層目の結界が崩壊した時点で結子は、MCDへ演算リソースを戻すべく探知魔法を強制破棄。目を閉じ脳裏のイメージ上で座標指定を行いながら、即座にMCDのボタンを四回ブラインドで打ち込む。魔法の術式構築のみをフルリソースモードでやらせ、あとはマニュアル制御。


発動速度に最も自信がある、耐物理・耐魔力の複合障壁。ビル直上に形成された障壁の枠組みへと、一度に出力できる最大魔力量を注ぎ込む――!





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