第02話:プロローグ
――――――西暦二二八四年・一二月一〇日
カムチャッカ半島南西部に構えられた大規模軍事基地。光学迷彩によってその全貌を隠された巨大軍港には、今、連合軍艦隊が集結していた。
化石燃料を失った現代において、戦闘機とともに空母もその姿を消している。その穴を埋めるのは、圧倒的な打撃力を誇る『戦艦』だ。それらすべては、動力源を魔法へ、燃料を魔力へと転換した、数千から数万トンに及ぶ鋼鉄の巨躯である。
集結したその数は、実に“五カ国の連合軍艦隊、六,〇〇〇隻――”。
湾口を一度に通過できるのは数十隻が限界。だが、魔法を総動員した物流操作により、この規模の艦隊としては異例の二週間という期間で、軍港は最後の一隻を海へと送り出したのである。
それら無数の巨影は、軍港の光学迷彩を抜けると同時に、姿、熱源、魔力、さらには航跡に至るまでを完全に隠蔽する『フルステルス状態』へと移行し、風景に溶け込むように実在を消した。
全艦が極寒のオホーツク海に設定された所定ポイントへ舵を向け、わずか一〇ノット(約18キロ)の微速を纏って進んでいく。
――西暦二二八四年・一二月二七日。
連合軍が集結させた総数六,〇〇〇隻の極大艦隊が、密かにオホーツク海を埋め尽くした。――大海原の虚像を偽装映像としてリアルタイムに投影し、ステルス状態を維持したまま、艦隊はいよいよ進撃を開始した。
完璧に統率された陣形は、択捉島の旧EEZの境界線へ到達し、いま静かにその一線を越えた。
◆ ◆ ◆
択捉島を飲み込まんとばかりに艦列を大きく横へ引き伸ばした連合軍の艦隊は、ついにステルスを解除した。
鋼鉄の巨影六,〇〇〇が一挙に白日の下に姿を現す。偽りの景色が剥ぎ取られた海面を、威圧的な鉄の群れが塗り潰したのだ。
しかし――連合軍の視界を埋める島は、不気味なほどに沈黙を崩さない。標的にすべき敵の姿はどこにもなく、各艦のレーダーやソナー網が捉えていたのは、自分たちの艦首が静かに波を切る、虚しい水音のデータのみであった。
そのまま直進を続け、無尽蔵にも思える連合艦隊の列が、北海道領海へと侵犯した――その時。
――彼らに終わりを告げる魔法が、静かにその幕を開けた。
突如として空中に生成された巨大な水塊。それは海水とともに艦隊を飲み込み、質量を猛烈な勢いで増大させながら、艦隊の頭上を昏い影で覆っていく。
――現象系統 広域殲滅魔法『アクアボム』――
指定座標内における水流を強制操作し、その中心へ向けて周囲の海水を猛烈な勢いで収束させ、中空に巨大な球体状の水塊を生成。
球体の体積を維持したまま、無尽蔵の海水をひたすらに内部に押し込み続け、その質量のみを爆発的に増大させていく。
やがてその内部の超高水圧が限界を超え、すべての物体を圧壊させる『爆縮』現象が引き起こされる。
――『兇器という名の巨大な水塊、水塊、水塊…………』。
艦隊が在る“全域”にそれらが同時多発的に顕現し、無慈悲なまでの物理的な消去を行っていく…………。




