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第17話:国防高官定例会議Ⅲ



◇ ◇ ◇



「国内における魔法犯罪発生件数の異常上昇。その原因・要因分析結果の共有、および意見の擦り合わせに移ります」


 結子の言葉に合わせて、一同の中央に大きく浮かぶホログラムは、日本列島の地域ごとの犯罪件数を示す棒グラフを象る――。


 情報共有から始まり、各陣営の意見や推論が次々と提示され、確かな熱量があるものの、会議はあくまでも冷静に進行していく。


 乱立していたホログラム上のデータが次々と数を減らしていき、最後に残った数枚の極秘捜査資料。遂に、議論の本筋が、一点へと収束しつつあった――。




 国防を背負う四名と政府側の三名の高官たち。彼らが長い議論の果てに辿り着いた結論は、「結局のところ後手に回った対応しかできない」という、空虚な行き詰まりであった。


 まだ何かあるはずだという、期待の混じった沈黙が立ち込める中、議長席の結子が事務的に問う。


「――他にご意見はございませんか」


「……では、国内における魔法犯罪発生件数の異常上昇。本議案を以上で終了いたします」


結子は、宣言とともに指先で空中のARコンソールを叩くと、日本列島を象るホログラムが粒子となって霧散していく。


「続きまして、本日最後の議題である、『赤崎 大琥』の処遇について。審議を、開始します」


 その名が出た瞬間、会議場の空気がこれまで以上に、一段と張り詰める。いよいよもって「決定しなければならない」という、悲観的な空気が立ち込めたのだ。


中央のホログラムには、赤字で『一時保留』と判を押された資料群が、まるで一同に裁定を強いるかのように大きく映し出された。


 すると、赤崎 千華の右手がスッと挙がる。


「少し良いだろうか」


六名を見渡し、注目がしかと集まったのを確認すると彼女は立ち上がり、流暢に続けた。


「この件だが、すでに解決済みだ」


 その場にいる者たちが、理解不能とばかりに凍り付く。そんな中、彼女は手元のARディスプレイを指ですべらせ、ホログラムに誓約書を映す。


「ご覧の通り、出撃の際は必ず軍規に従うという誓約書だ。これに本人の署名、――血判も取り付けさせた。皆様方、当家の弟がこれまで本当にご迷惑をお掛けした」


 千華は、淀み無く言い終えると、深々と頭を下げて見せた。


 その内容を受けても、面々は時が止まったかのように、呆然とした表情でただ固まっていた――。



「なんとっ!?」「マジっすか?!」


 決して短くはない沈黙の後。その意味を正しく理解できる二人の男――紫崎と、日焼けした褐色の肌を群青の軍服に隙なく収める海軍総督・青瀬 颯海(あおせはやうみ)が、周囲を凌ぐ驚愕を露わに、ほぼ同時にテーブルを叩いて身を乗り出した。


 ざわめき渦巻く会議場が静まるのを待って、千華は微動だにもせず、ゆっくりと顔を上げる。


「もちろん事実だ。本日議事長を務めてくださった、白川家新当主であり独立防衛軍の新総帥。そちらの結子殿が、見事成し遂げてくださった」


 千華は、先ほど陸軍本部で交わした取り決めに従い、大きく宣言してみせた。


「……それはまた、とんでもない話ですねぇ」


「そ、そこまでなのでありますか。新総帥殿は……」


 大琥を説き伏せた事実に対しての「しかし、あの狂犬をどうやって?」という疑問を真正面から打ち砕くような宣言。


 紫崎と青瀬の二人は、深い驚愕を唖然とした様子で吐き出した。するとそれに呼応し、会場内の目、目、目――。様々な思惑を孕んだ瞳のすべてが、白川家当主たる結子へと注がれる。


「当然の事をしたにすぎません。問題が起きた場合、機能不全に陥る以前に国防組織をあるべき姿に、正常な運営状態に戻すのが我々独立防衛軍の責務ですので」


 感情の窺えない面持ちを貼り付けた結子が、鋭い響きで、無機質に断じた。


彼女の冷え切った言葉が、いまだ事態を呑み込めていない者たちを目覚めさせるように浴びせられた。すると、どこからか、喜色を帯びた感嘆の息が漏れた。



「――素晴らしいっ! 」


 その空気へ大きく切り出したのは、《《らしくもなく》》興奮を剥き出しにした、紫崎の快活な叫びであった。


 それを合図に、会場は一転して喜色の熱狂に塗りつぶされると、感謝と、満面の“歓迎”が込められた拍手が結子に降り注ぐ。


――しかし、その拍手の正体は、敬意や感謝といった綺麗な感情によるものでは決してない。失うにはあまりに惜しい『《《個体》》』を失わずに済んだという――功利主義的な、真っ黒な感性から生まれたものだ。


「……恐縮です」


 霧がかった視界越しに、ヘドロのように絡みつく醜き『好意』を一身に浴びた結子は、その醜悪な汚泥に頭から突っ伏したような心地に耐え、胃の底から込み上げるものをなんとか抑えこむ。


しかし、彼女の表層に貼り付けられた仮面に、綻びの様子は微塵もない。表情は終始彫刻のごとく静止したまま、ただのひとつも変化を見せなかった。




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