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第16話:国防高官定例会議Ⅱ



最後に国防海軍の一行を迎え入れ、定刻が訪れると会議場の二枚扉がじっくりと、静かに閉じられた。直後、十重二十重とえはたえの結界魔法が刻まれ、完全な密室へと転じた。


 

 これから開かれるのは、定例国防高官会議。国家全体に関わる重要議題を論じ、最終的な方針を確定させるための、極めて重大な場である。


 卓を囲むのは、

・議事長を務める独立防衛軍総帥:「白川 結子」

・陸軍大将「赤崎 大琥」代理、陸軍中将:「赤崎 千華」

・空軍航空総師長:「紫崎 翔士(しざき しょうじ)

・海軍総督:「青瀬 颯海(あおせ はやうみ)

・国防省統括本部総帥:「紺上 理奈(こがみ りな)


 政府側からは、

・内閣総理大臣:「井田 美空(いだ みく)

・魔法省大臣:「九条 久志(くじょう ひさし)

・警視庁長官:「金城 琴音(きんじょう ことね)


それぞれ二人の同行者を伴う国家の重鎮たち、計八名がこの場に集った。



◆ ◆ ◆



「それでは、国防軍定例将官会議をこれより開始いたします」


「本日議事長を務めます、独立防衛軍総帥の白川 結子です。以後、お見知りおきを」


 面々より一段高い位置の議長席から、静寂を塗り替えるように凛とした声を響かせた結子は、顔見せ代わりの挨拶をさらりと終えると、間髪入れずに本題を切り出す。


「ではまず、『国立魔法学園における、留学生の受け入れ』の採決。これから取り掛かりましょう」


――国立魔法学園。


それは、全国九箇所に存在する、世界最高峰の魔法教育機関である。一般教養に加え、魔法を純粋に『学び』『修める』ためのカリキュラムが組まれ、幼稚課程から大学院までを一貫して教育する巨大な学舎まなびや――いわば、国家の未来を担う若人わこうどたちが集う聖域に他ならない。



 結子がそう促すと、卓を囲む政府高官の一人、魔法省大臣「九条 久志」が重々しく口を開く。


「……当然相手は選ぶとして、少なくとも受け入れるべきでしょう。国家の中枢を担う場所とはいえ、これ以上閉鎖的な態度を続けていては、再び諸外国に不要な疑いを掛けられかねない」


「ほう? 再び、ですか。それはまるで、百余年前の大戦の原因が我々日本側にあったとでも言いたげな口ぶりですな? 」


 九条の言葉を遮るように、黒紫の軍服に身を包む偉丈夫、航空総師長の紫崎が構う様子もなく、見下し半分に鼻で笑う。


「そんな事は申しておりません。言葉の綾です」


 九条は紫崎の露骨な非難を受け流し、冷静に言葉を続けた。


「今回は、《《正式》》な手続きを経た上で、世界魔法協会および国際魔法連盟から留学生の受け入れ申請が来ているのです。しかも、日本側が提示する条件のすべてを呑むとまで言っています。これを理由もなく断れば、何か裏があるのではと勘ぐられるのは火を見るより明らかでしょう」


「では、理由があればよろしいのでは? たとえばそう、『ポピュリズム的思想によって煽り立てた民衆の声を大義に仕立て上げ、一方的な理由で大軍を差し向けられたにも関わらず、救援の打診すら寄越さなかった組織など信頼に足らない』――というのは、拒絶をお示しする上での十分な大義になると思いますが?」


 紫崎はこの場の面々に訴えかけるように、視線を配る。


「……それを言い出してしまえば、ほぼ全ての国々と関係を断つことになってしまいます」


「いっそ、それもありかも知れませんねぇ。 事実、現在の我が国はどの国に依存することもなく立派に独り立ちできています。わざわざ諸外国の人間という害獣ケダモノを迎え入れてやる必要など、ないのではありませんか? 」


危険な色を瞳に宿した紫崎が、悦に入るように言い放った。


 会議の論調を支配しかねない言勢。それを断ち切るように、千華が凛烈に声を上げた。


「もういい、紫崎殿。国防に身を置く者として、貴官の独立性を重んじる姿勢に共感できる部分はあるが、そんな夢想を語り出したらキリがない。建設的な話をしよう」


 これ以上論点を逸らされては堪らないと、紫崎家当主の言い分を立てつつ、話の主旨を強引に引き戻した。


 紫崎は、結子の隣で愛嬌を貼り付けている『少年』を一瞥すると、先ほどまでの陶酔が嘘だったかのように、その顔色を取り替えた。


「……ふむ。そうですね、申し訳ありません。私としたことが、すっかり熱くなってしまったようですな」


そう言い終えるや静かに立ち上がり、感情の視えない瞳で恭しく謝意を示した。



それを見届けた千華は、手元に投影されているARディスプレイに目を落とした。指先で虚空をスライドさせると、一同の中央に資料が大きく展開される。


「話を戻そう。重要なのは受け入れる基準と、その後の管理だ」


「何を条件に受け入れるのか、どういった待遇で扱うのか、どの範囲までの教育を与えるのか。最低限これらの内容を厳格に定義しておけば、付け入る隙は生まれないはずだ」


千華は一度言葉を切り、並べられた国名を確認する。


「友好国であるイギリスは優先的に受け入れるとして、アメリカ、台湾、韓国、オーストラリア。このあたりは良い。だが、問題はそれ以外だ」


目配せを受けた九条が言葉を継ぐ。


「赤崎殿の言う通り。問題は、魔法連盟と協会から申請されているのが、『中大陸連邦』『フランス皇国』『カナダ』『ドイツ』を含めた計九カ国。過去の大戦で連合軍に加わっていた面々も名を連ねている点です」


「フランスと中大陸は断固拒否すべきでしょう。一方で、ドイツとカナダからは正式に謝罪を受け、要求した賠償金も完済されています。国際的・国家的な観点で見れば、形式上、この両国とは「和解が成立」しているものと判断されます」


 九条がそう言い終えると、会議室には重苦しい静寂が訪れる。




――深い思案に耽る面々へと、各国の名を浮かべるホログラムの光が冷たく突き刺さる中、赤崎 千華がその静寂を破った。


「厳密な思想調査、身辺調査の徹底。待遇は一般枠ではなく、留学生用に新規で推薦枠を設ける。……といったところか」


彼女自身の考えをただ吐き出した言葉を無機質に繋ぎ合わせ、呟いた。


「加えて学習期間は、飛び級認定を受けた者を含め、高等課程から大学の二年課程まで。重大な契約違反行為が生じた場合、その責任は個人ではなく国家そのものに負わせる。そして、違反した国の留学生の受け入れは条件付きでの永久停止――といったところでしょうか」


紫崎が言葉を引き継ぎ、ひとまずの素案が出揃う。


「……落とし所とするなら、実に妥当かと思います」


魔法省の九条の言葉に続き、軍部、政府と会場の全員から納得と賛成の気配が色濃く漂い始めたのを確認すると、結子はゆったりと立ち上がり告げる。


「国立魔法学園における留学生の受け入れについて」


「・中大陸連邦、およびフランス皇国は除外。

・日本側が定める条件を通過した者のみを受け入れ、待遇は新たに設ける特別推薦待遇とする。

・飛び級認定を受けた者も留学生として認める。

・教育期間は最長でも高等課程から大学二年課程までの計六年間。

・契約違反の責任は個人ではなく国家へ追及する」



「こちらにご賛成の方は、挙手をお願いいたします」


『陸軍』『空軍』『海軍』『内閣総理大臣』『魔法省』『警視庁』『国防省統括本部』。各陣営の代表七名の手が、示し合わせたように、一斉に上がった。    



「賛成七、反対〇。可決となりました」


 立ち上がった結子は居並ぶ面々をじっくりと二度見渡し、採決を確定させた。


 ほどなくして、紙媒体に書き込む議事録係のペンが止まり、カチリと置かれる音が響いた。


間を置かず、その用紙が面々の手元へ順番に回され、国防の重責を背負う者たちによって、捺印が刻まれていく――。




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