ピンク髪ヒロインの自由
昨日まで降っていた雨が止み、空は気持ちの良い綺麗な青が広がっていた。
私の名前はルナ。王都から離れた場所にあるエルザ男爵領を治める男爵家の長女。家族との関係はあまり良くない。これは私に原因があるので責めるつもりはないし、寧ろ彼らに同情している。
この世界は神様が、地球を管理している神様から教えて貰って作った色んなゲームや小説、漫画のありがちな部分を抜き出して作った世界。神様にとってここは神様専用の箱庭となっている。
今の興味はリセット機能無しの乙女ゲームみたいな恋愛を見てみたいそうで、色んな国に「ヒロイン」を配置している。
この世界で生まれた女の子をヒロインとする国もあれば、私のように地球のある世界から死んだ魂を神様から貰い受けて記憶がある状態で生まれるようにする事もある。
ライバルがいない自分の力で伸し上がる系、ライバルがいる状態で競い合う系、そして悪役令嬢が居て断罪するかされるかの殺伐とした系なんかと神様の思いつきで配置されていた。
私の場合は、途中で記憶を取り戻した転生ヒロインが逆ハーレムを狙って悪役令嬢に断罪されると言う小説をベースにした国にいた。幸いにして、その小説通りにことが進むのはつまらなくて、何か面白い展開にしてよ、と言うのが神様から与えられた私への課題なので、私は自分の思うように生きている。
この世界が神様のお遊びの為の箱庭だとわかっている人間は少ない。私と敵対する悪役令嬢は、私と同じ世界からの転生者ではない。実際は神様に「転生した」という知識を植え付けられただけの、生粋のこの世界の住人。
だからあまりにも可哀想すぎて下手に関わらないようにしている。
私の中身がこの世界にとって異物だし、突如性格なんかも変わってからは両親と上手くいっていない。彼らは私の後に生まれた弟妹を大事にしている。私も両親とは記憶を取り戻すまでの気持ちを継続出来る気がしなくて、逃げ出した。
ピンクの髪の毛は背中中ほどまでの長さのストレート。緑の目はパッチリとしていてまつ毛はくるんくるん。肌はシミ一つない健康的な色をしている。綺麗よりは可愛いの系統に入っていて、スタイルがいい。
推定158センチくらいの身長にウエストはきゅっとしまっているのに胸とお尻は年齢の割にけしからん感じ。そこそこの大きさで張りがあり形が良い。脚も健康的な太さでスラッとしている美脚。
中身が私でなくてもっと、こう、体を使ってでも男を落としてやろうって思うタイプなら有効活用しそうな中々の体だけど、まだ15歳の私からしたら流石にそれはない。
攻略対象として配置されている男達とは既に接触済みだけど、私からしたら「ない」としか思えなかった。王侯貴族としての常識は無くて、複数で一人の女を囲おうとするのは「ない」。
身分差について考えていないし、婚約者への態度も酷い。それに彼らの中には男爵家と言う末端も末端な存在など好きに出来るという傲慢さが見えていた。
神様、どうせ配置するならもっとまともなのにして下さいよ。
王子の婚約者の公爵令嬢は「転生したという知識を植え付けられている」ので、私を警戒していたけど、そんなの意味ないから安心して欲しいのに。
神様は舞台は作ったけど好きにしていいと言ったので、私は好きにした。
***
「は~~!海って最高~!」
「本当に良かったの?貴族の身分を捨てて、俺みたいな年上の男と結婚しちゃって」
「良いからウィルと結婚したんだよ?」
神様から貰った情報の中におまけ程度に書いてあった脇役的な中にいたこの人。他国から来た商人で、誠実で堅実な人。自国では大商会の跡取りでこの国に来たのはお嫁さん探しも兼ねて。自国の女性は怖いらしい。
愛した人には一途で裕福な暮らしも保証されている。顔もかっこよくて、なんで結婚してなかったのかが不思議だったけど、一途だから愛が重すぎるんだってすぐに分かった。
ウィルと結婚したら平民になるけれど、私に貴族社会は無理。学園は結婚を理由に退学した。もちろん両親には報告した上で家から除籍してもらった。もう帰ってくるつもりがないから。
ウィルから頼まれたのは、自国に連れて帰ったらもうこの国には連れて来ないと言うもので、私としてもそれは大歓迎だった。
神様が私を「この国でのヒロイン」と定義していたから、何が起きるのか分からないし。
神様が作ったこの世界の箱庭には一応ルールがある。
①国ごとに設定が与えられている。
②「地球」からの転生者は好きなように動いていい。
③その国から出たら設定から解放されるけれど戻ってきたら再度設定に組み込まれる。
④リセットなんてものは出来ない。
⑤「地球」からの転生者は他国での設定には一切影響されないし組み込まれない。
⑥色んな作品を参考にごちゃ混ぜにしているので、乙女ゲーやギャルゲー、BL、GL、戦記物、その他諸々どの国のどの時代にどんな設定があるかは神の気分次第。
⑦転生者には「地球」から魂を移動したものと、この世界の住人に神が植え付けたものの2パターンがある。
基本的にここで生きている者は神様が操っている訳ではなくて、ちゃんと自我がある。ただ、役割を与えられた者はその設定から逸脱しない行為を無自覚に行ってしまう。
攻略対象者が私に関わろうとしてきたり、悪役令嬢が苦悶したり。彼らの自我でそれを行っているけれど、魂部分でそれなりに調整されているので、それはどうなの?と思うけど。
まあでもほら。幼少期の頃からきつく制限されて親に洗脳されて育った子とあまり変わらないな、と思ったので。第三者によって筋道を決められるのは無いことはないし。
そういう意味で、私はかなり幸運だった。私は「地球」からの転生だから自由がある。私も記憶を神様に植え付けられたんじゃないかな、と思ったけれど、神様に会う者は魂を移動させた者だそうで。
ウィルは私よりも7歳年上で今は23歳。学園からどう逃げるかを考えている時に、寮にこもっていると攻略対象がやって来るから街に逃げ出していた時に見付けた。
背が高くてかっこよくて、私の好みを全部詰め込んだような見た目。所作は貴族っぽくなくて、仕立ての良い服を着て誰かと握手をしていたから商人なのかな、と当たりをつけた。
顔が熱くなりながらも少しでもお近づきになりたくてきっかけを探していたら、落し物をしたので拾って声をかけてみた。
御礼にとカフェに誘われて、お話をして、ウィルが他国の商人でしばらくはこちらにいる事とか、お嫁さん探しをしてるなんて事も聞き出して。
肉食系女子が怖いらしいから、頑張って抑え込みながら三ヶ月くらい時間をかけた。ウィルからしたら私はまだ子ども。だけど、私からしたらウィル以上の人がいるとは思えなかった。
粘りに粘って頑張って、海の向こうの国の勉強もして、半年後にウィルから告白をされていっぱい泣いた。嬉しくて仕方なかった。
ウィルは激重感情タイプのヤンデレなのは分かっていたけれど、私は平気だった。私だけを愛して欲しい。私も一人しか愛したくないから。
成人と認められる16歳になってすぐに親に許可をとって平民になり、学園を退学した。結婚はウィルの母国でする事になっているけれど、お互いに逃げられないよう既成事実を作った。
体を使って攻略対象を籠絡するのは有り得ないけれど、結婚前提の婚約者とならありだよね、なんて思いながらウィルの重すぎる愛を受け止めて私は幸せ。
学園に退学の為の書類を出して受理された日。悪役令嬢を割り振られた女の子が私のところに来た。私の退学は内密にしていたから何なんだろう、と思ったら、どうして殿下達に近付かないの。あなた、転生者なの。とか色々言われたけれど、私は何も分からないって顔をして「結婚するので今日付で退学しました。ごきげんよう」と令嬢としては最後のカーテシーなんてものをしてみた。
この国にいる限り、私は「ヒロイン」の役割から逃げられない。上手く立ち回れなかったら、複数の男に共有されるなんて未来も有り得た。でも、私は時間と関係性を積み上げて愛し合える人に出会えた。
悪役令嬢に選ばれた彼女はもう自由になっていい。攻略対象には困らされたけれど、悪役令嬢には何もされていなかったからね。神様が全部悪いんだけど、まあ、基本的に神様の悪行は「地球」からの転生者しか知らないので死ぬまで秘密。
「海って広いね。ウィルの国が楽しみ。ウィルの家族は歓迎してくれるかな」
「ルナのような可愛くて頑張り屋は皆歓迎するよ」
「楽しみ」
全身、ウィルが選んだ服や装飾品を付けているけれど、私に似合うものしかない。目が肥えているウィルが外すわけない。
ウィルの国は魔法があって、技術も発達しているそう。お風呂なんかも毎日入れるようになってるらしい。
「あ」
「どうかした?」
「なんでもないよ」
多分今、国の境を越えた。私の中から何かがふっと抜けていくのを感じた。たぶんこれが「ヒロインという役割」なんだと思う。
心と体が軽くなったようで、嬉しさのあまり私はウィルに抱きついてキスをした。
神様が大体悪い




