第9章 第2波
9月の朝。国会議事堂前に停まった黒いワゴン車から、スーツ姿の検察官が降り立つと、報道陣のフラッシュが一斉に焚かれた。
対象は未来創生党の若手ホープとされた議員と、その公設第一秘書だった。容疑は前回と同じ――公示前の戸別訪問を事前運動と認定し、その期間に支払われた給与を「運動員買収」とみなす、合せ技。
議員本人は車に押し込まれる直前、震える声でつぶやいた。
「……給与を払って逮捕、だと? 冗談じゃない……」
その表情には、怒りよりも混乱と呆然が滲んでいた。
---
未来創生党本部に速報が入る。
「またか……」
執行部の誰もが声を失った。つい昨日まで「狙い撃ちの可能性」と口にしていた弁護士の言葉が、現実になったからだ。
テレビは朝から「二度目の逮捕」と大きく報じた。コメンテーターは言う。
「繰り返し逮捕が出ている以上、これは単発の不祥事ではない。党全体の体質に問題があるのでは」
だが、未来創生党の議員たちには、その「体質」という言葉の意味が分からなかった。彼らにとって、戸別訪問も給与支払いも、ただの政治活動の延長でしかない。なぜそれが「犯罪」になるのか――答えを持つ者は、誰一人いなかった。
会議室に集められた議員たちは、互いに目を合わせることすらできずにいた。
「……次は、俺たちの番かもしれない」
その恐怖だけが、全員の胸を支配していた。