第7章 顧問弁護士
未来創生党本部の会議室。幹部議員と顧問弁護士が集まった。机上には分厚い資料の束。空気は緊張に張り詰めている。
「先生、正直言って理解できません」
若手議員が声を荒げた。
「秘書が国政報告をして給与を払う――どの事務所でも当たり前にやっていることです。それが“事前運動”や“運動員買収”になるなんて、無茶苦茶じゃないですか」
弁護士は静かに頷き、眼鏡を外して机に置いた。
「その通りです。ただ、政治活動と選挙運動の境界は極めて曖昧です。厳密に適用すれば、あらゆる政治活動が事前運動とされかねない。だからこそ、憲法上の“政治活動の自由”との調和から、これまでは抑制的に運用されてきたのです」
幹部たちはうなずく。しかし弁護士の表情は固いままだった。
「ところが――今回は、その歯止めを外しているように見える。公示直前の活動やSNS投稿を無理に結びつけて、事前運動に仕立て上げているのです」
重い沈黙が落ちる。結党メンバーの1人である中堅議員が低く問う。
「……つまり、狙い撃ちということか」
弁護士は一拍置き、はっきりと告げた。
「その可能性は高い。未来創生党を標的にしていると考えざるを得ません。そして――次の逮捕も覚悟すべきです」
一斉に顔を上げる議員たち。若手の一人が声を震わせた。
「……では、また私たちの仲間が?」
弁護士は淡々と続けた。
「検察は段階的に進めるはずです。まず一陣で衝撃を与え、次の逮捕で党全体を揺さぶる。すでにSNSアーカイブや行程表、給与台帳を押さえにかかっているでしょう」
議員たちは息を呑む。彼らには“事前運動”の意識などなく、給与支払いもただの事務処理だった。だからこそ、次の逮捕の警告は、理解を超えた恐怖として胸に沈んでいくのだった。