第4章 特捜部
秋雨が国会議員会館の窓を叩く。未来創生党のフロアには、いつもと変わらぬ日常が流れていた。秘書たちは地域要望の整理や国会質問の準備に追われ、議員は次の委員会に向けた資料をめくっている。
しかし、ここ数日、党内には落ち着かない空気が漂っていた。「検察がこちらを狙っているらしい」――そんな噂が、廊下の隅で囁かれていたのだ。
だが誰もが首を傾げた。一体、何を理由に?党幹部の誰も、具体的な容疑を思い浮かべることができなかった。
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午前10時。会館のエレベーターホールに黒い背広の一団が現れる。東京地検特捜部である。
若手議員・小山田拓と第一秘書・杉浦の名が呼ばれた。
「逮捕状が出ています。同行をお願いします」
場の空気が凍りつく。小山田は、何かの冗談かと一瞬思った。だが検事の声は冷徹だった。
「容疑は――公示前の事前運動に秘書を従事させ、その期間に給与を支払った運動員買収」
耳にした瞬間、小山田も杉浦も言葉を失った。
「……事前運動? 給与が買収?」
頭の中で繰り返しても、意味がつながらない。なぜそれが“犯罪”になるのか。腑に落ちぬまま、2人は無言で手錠を掛けられ、廊下の奥へと連れ去られた。