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ハッピー・テロリスト  作者: ウィザード・T
ターゲット2 ラナウェイ・ブライド
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ハッピー・テロリスト・シンタックス

とりあえず好評だった様なので第二回。

「本日〇時〇分、我々は○○○○を殺害しました。

 全ては○○○○の幸福のためであり、ひいてはこの国、否この世界に住まう全ての人類のためにです。我々はこれよりもまた、皆様の幸福と正義のために動き続けます。

 ハッピー・テロリスト」


 ハッピー・テロリスト構文。


 そんなスラングが、あっという間にネット上で流行した。




 武野教太郎、日野琴美。




 駄目教師と毒親の烙印を押された二人を殺したハッピー・テロリストと言う存在は、恐れられると共にカリスマ性を持ってしまった。


「人間って変われると思う?」

「個体差ってのがあるんじゃないか?っつーか二人してアラフォーだろ。そこまで行ったらもう変わるのは難しいんじゃねえかな」

「ああ、このままじゃもっとたくさんの人間を不幸にしてたと思う。あんだけニュースでやってたのに最後の最後までんなもんに騙される俺らはバカだって言ってたってよあのオバサン」

「何それマジうぬぼれ屋じゃん」

「っつーか聞いたよ、あの武野教太郎ってスリーアウトで退場されなかった体罰野郎だって」

「なにそれ甘ったる……」


 ネット上の無遠慮な言説は二人を容赦なくいたぶり、決して手を抜こうとしない。

 中には教太郎と琴美がデキていたとか言う虚言もあったが、いずれにしても彼らの言説は一致していた。




 —————二人とも、ここで死んでよかったんじゃねえの?




 無責任極まる話だが、そこまで二人の名前は落ちていた。

 悪い意味で昭和を守る教師と、古ぼけた詰め込み教育に思いを馳せその旧弊にしがみつく存在を尊敬していた母親。


 日野譲と言う存在にとってマイナスにしかなりそうにない二人。

 

 そういう存在を殺すために、ハッピー・テロリストは存在しているのではないか。

 

 そんな風に言い出す人間まで出る始末だった。




※※※※※※




「彼はどうだい」

「父親の田舎に引っ越してそこで仲良くやってるそうです」

「そうかいそうかい…」


 柏崎竜也は十個ほど下の部下に複雑な表情を見せていた。

 日野譲と言うこの事件に関して最大の被害者であるはずの存在が元気なのは喜ばしくはあるが、それでもすっきりと笑える気分にはならない。


 殺人事件の被害者の身内と言う存在をどう扱うかなど、永遠に答えの出ない問題である。

 一刻も早く立ち直って欲しいと思うと共に、その上で決して忘れないで欲しいとも思う。ましてや殺人事件と言う不条理極まる形で命を奪われたとなればそのショックは大きく、担任教諭や母親ともなれば良くも悪くも引きずるのが常のはずだ。


「そう言えば警部の好物って確か」

「麻婆豆腐だけど」

「甘ったるいんでしょう」

「どこかだ」

「今の警部を見ていたら甘ったるいって言うんじゃないかって評判ですけどね、あの二人は」

「お前な!」


 柏崎竜也と言ういわゆるキャリア組の男の好物の麻婆豆腐はスーパーで我が物顔に陣取っている「辛口」とか言う存在が裸足で逃げ出すような代物であり、顔は甘いのに舌は辛いとか言われている。

 そのギャップもあって部下たちからの受けはそれほど悪くない柏崎だったが、それでも部下の無遠慮名発言には声を荒げる。

「これは被害者、ああ日野琴美さんの周りにいた人が聞いてたんですけど、彼女最後の最後までハッピー・テロリストの存在を信じられず、死に際にマンガバンザイとか叫んだって。

 あとみんなバカばっか、こんなのに惑わされてって」

「知ってるよ…単純に被害者を侮辱するなって言ってるだけだ」

「現実ってのは本当生々しいですよ」



 確かにそれは柏崎も知っている。

 彼女が死に際に吐いたダイイングメッセージがそんな醜悪と言うか妄執に満ちたそれである事を聞かされた時には暗澹たる気持ちになると共に、そんな親を持った譲と言う存在に同情もしてしまった。

(どんな人間も同じ命だろうが!)

 だがその同情の先にあるのがハッピー・テロリストの私刑の肯定になってしまうのかと思うとどうにもやりきれない。確かに毒親も無能教師も犯罪者ではない以上法で裁くのは難しく、ましてや警察官と言う立場からして冤罪を避けるためにも捜査は慎重でなければならない。それが虐待を見逃してしまうとか言われるが、あんな乱暴極まるやり方で本当に世界が救えるのならば今頃すべての問題が解決しているはずだ。

 それに明るいと言うか浮かれた事を言えばいつか武野教太郎や日野琴美が目を覚まさないとは限らないはずだったのに、そんな可能性まで奪ってしまっている。


 やっぱり、ハッピー・テロリストはテロリストでしかない。


 とにかく犯行声明を出した端末を探るべく、柏崎竜也は部下のパソコンに向かった。




 だがそんな警察の苦労も空しく、三発目の光線は夜の町に放たれた。

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