ネイキッド・ボーイ
「毛、生えてませんね」
あまりにも間の抜けた言葉だが、実際一番適当だった。
文字通りのすっぽんぽんの、少年。
身長130センチ。見た目通りだとすれば、8歳児ぐらい。
何もかもが、その年齢通りの存在。
「一応体内も調べてみますが」
「頼む」
それ以上の事を、私は言えなかった。
CTスキャンを行い何らかの証拠、これだけの装備に対応できるような人体改造が為されていたとして何になるのか。
敵国の非道の宣伝?バカバカしい。その技術の模倣?時間がない。
あまりにも可愛らしい、まだ本来の機能も発揮できないままの陰茎と睾丸。
もし肉体と精神が生きていたら適当な悲鳴でも上げながら細い腕でここだけはとばかりに両手を動かし秘匿していたであろう部分。そのあまりにも未熟な男性のシンボルをせめてもの情けとばかりに一山いくらのブリーフを引き上げて隠してやったのち、小さすぎる英雄の肉体はCTスキャンにかけられる事になった。もちろんパーツの分析も同時に行われている。
「しかしその分析結果を我々がいの一番に独占する事になるとは」
「真っ先に触れたものの特権だろう。それに我々と共に首相にだけは伝えるように申し渡している。首相が賢明であればこの意味が分かるであろうからな」
「もしそうでなければ」
「恥も外聞も捨てて投降する。そなたらの助命嘆願のためにな。ダメならば逃げるなり戦うなり好きにせよ」
私にはこれ以上言う言葉もなければ、権限もなかった。
いつまで将で居られるか分からない人間の、最後の抵抗。
最後から何番目か分からない命令。
単純に、いつ敵が攻撃を仕掛けて来るのかわからない中での命令。
この時の私は、自分で言うのも何だが悟りの境地にあったかもしれない。
そして二十四時間後、まだ生きていた私が聞かされた研究結果。
それはあまりにもあっけなく、そしてあまりにも残酷だった。
装甲技術を我々が模倣するのは我が国の最先端技術をもってしても解析に半年、実戦投入するにはもっとかかる。
その間に最低二体のあの兵器が我が国に攻撃を加える事になり、こちらの軍勢は全滅する。ここで今回回収したパーツを使って無理矢理投入したとして戦果を挙げられる保証はなく、下手すると自分たちを襲いに来るかもしれないらしい。もちろん、あの国が他の兵器を投入してくる事も考えられる—————。
「その旨、首相と総司令部に伝えてくれ」
私はこれだけ言うのが精いっぱいだった。
敵の科学力はあまりにもこちらを上回っていた。使わなかったのは使いたくなかっただけなのかあの日まで使えなかったのか、後者だと思いたいが前者にしか思えて来ない。後に前者である事を知った時には、失望するより先に感心した。軍事国家と言う名の蛮族であった自分たちが恥ずかしくなり、一刻も早く戦を辞めたくなった。
勝利も敗北も、もうどうでも良かった。
※※※※※※
そしてご存知の通り、首相は和平交渉と言う名の降伏宣言を打ち出した。
当然反発も起こったが敵の「超兵器」のもたらした損害とその先の戦の行く末、さらに反発した住民たちが突き付けられた「義勇軍」が少年兵器一体により全滅させられたと言う現実が、その決断を英断にした。
「赤いレーザーは…確かに我が国を救ったな」
「全部の少年兵を破壊していれば」
「馬鹿を言え。あれは我々がどれほどまで愚かでないかを示すための神の一撃だったのだ。もしあれがなければ我が国はそれこそ全滅し、向こうも圧倒的な戦果とこれまでの怒りにより我々を全滅させていた。それこそ神のなせる業だと思わないか」
「はぁ…」
敵軍、いや相手の軍の進撃が止まったのはあの赤いレーザーの出どころ探しと出力の追求に時間を取られていたかららしい。確かにあんなレーザーが何発も発車されあの少年兵を全滅させていたらそれこそ戦争は再逆転であり、徹底的に調査を行ったのも無理はない。
結果的にどこから誰が撃ったのか全く理解できないままこちらからの和平交渉と相成った次第だが、その点では相手の慈悲と言うか知恵に感謝しなくてはならない。
「あの赤いレーザーは両国に取りもっともよい結果をもたらしたのだ。もちろん、最悪の中の最善だがな」
「最悪の中の最善ですか…」
「で、本当に行くのか」
「責任の取り方と言うのがございましょう」
これが私と首相の最後の会話となった。
幸い我が国は独立を認められたが軍備は大幅に縮小(と言うか損害を埋める事が出来ない)、その戦費を補うために相手国の経済的支配下に入ってしまい、私自身は戦犯として相手国首都に軟禁状態になった。
石や罵詈雑言を投げ付けられる生活を別に覚悟していなかった訳ではないが、それ以上に覚悟していた現実は重たかった。
「……無謀とは私の事でしたか」
「作る方も作る方であり、使わせてしまった大人たちも使わせてしまった大人たちです」
実際、首都には十体以上「彼」がいた。
これが全部動いていればそれこそ我が国は焦土となり、国民は一人もいなくなっていた。
その点でも私は、いや私たちは赤いレーザーに感謝せねばならないのかもしれない。




