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ハッピー・テロリスト  作者: ウィザード・T
アナザーターゲット サレンダー・リーズン
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メタリック・ボーイ

「無事退却できたのはどれだけだ」

「戦闘機二機、爆撃機二機、戦車六両、歩兵三十三名…」

「で、まともに戦えるのは」

「戦車二両、歩兵十四名です」


 全滅。他に何の言いようもない。

 三分の一の戦力を注ぎ込んでおきながらこのザマ。

 敵の損害は一体の少年兵を除けばゼロ一つ違うレベルのそれしかないだろう。歴史的大惨敗であり、私の名前は永遠に残るだろう。


「で、生命反応は」

「もうありません。しかしあの赤いレーザーが何なのかもわかっておりません」

「赤いレーザーはもういい。とにかくとりあえずはその少年を分析する。研究員たちはいるのだろうな」

「ええ…とりあえず搔き集めてはありますが」

「後方に伝えてくれ。この少年兵器とやらを解析するまではまだ生かしてくれとな」

 

 そんな私に遺された仕事は、この戦にて我々が負けた理由を調べる事。ただそれだけ。もはや、勝敗とかそういう段階ではないのだ。




「生命活動は」

「停止しております。体温も低下し、文字通りの死体です」

「そうか、それは……とにかくデータを頼む」


 我々は思わず安堵のため息を吐いた。もし彼が蘇ればその瞬間我々の人生は終わる。私は終わっても構わないが、ここにいる若者たちは終わらせないでほしいと思いながら、研究員と副官に分析データを見せるように要求した。


「かの存在、以下少年兵と呼びますがはかの基地にて秘蔵兵器として保管されていたようであり、我々が総攻撃をかけようとするタイミングを見計らうように出動したと思われます」

「こちらの策が読まれていたと言うのか…」

「それはその…」

「いや気にするな、こちらが勝ったと思い油断したのが悪いのだ、続けてくれ」

「はい。そして同様の少年兵が南東方面の軍を全滅させ、また残存兵を徹底的に打ち砕いております」

「と言う事は二体…いや、戦況が傾いたためか出番はなかったようですがもう一体確認出来たようです」

「少なくとも、三体……」


 最低でも、三体。


 一体で三分の一を討てるのだから、三体なら全軍と言う事か。しかもあの基地にいたのが全部と言う保証はない。


「で、でも、早急に分析を行えば!」

「とにかくやってみせてくれ」


 科学者たちのやる気だけはあったが、私には見通しなどない。仮に解析に成功して同じレベルのそれが作れたとしても、数は向こうの方が多いだろうしその気になれば今すぐ攻撃できる。しないのは慈悲でしかないのだ。


「とりあえずヘルメットを外してみます」

「うむ……」


 全く痛がりもせずに死体となった少年兵の頭部を守っていたヘルメット。赤い光の穴は開いているがそれ以外は全くの無傷であるヘルメットを脱がすのにはさぞ苦労するかと思ったが、私の半分ほどの太さの腕の研究員一人で簡単に脱がせられた。

 ヘルメットの下にあるのは、それなりの長さの髪の毛と、ごく普通の形の耳。

 髪の毛は黒く輝き、大して湿っていない。


「ヘルメットとスーツの材質は」

「パッと見では同じですが断定はできません」

「とにかく分析を頼む」


 輝き方からしても色味からしても同じであるが、中身が同じとは限らない。

 それにしても安らかな顔で死んでいると言うか寝ている。これが我が軍の三分の一を壊滅させた存在には絶対に見えない。

「このガキ!」

 そんな文句が出て来るのは全くごもっともだ。私が黙っているとその兵士は罵詈雑言を吐きながら少年兵が乗せられている台を蹴りまくったが、それで死者が蘇る訳でもない。

 だが少し触れてみた所、金属と言うには軟質過ぎる。指で押してへこむとまでは行かないにせよ、金属的に跳ね返すような所はない。戦車や戦闘機に使われているそれとは違うのは間違いなく、そしてより高品質である事は間違いない。しかもこんな小型に成型できるなど、もはや超技術ではないか。


「いっその事最初からこんな装甲で向かって来たら犠牲者は最少で済んだのにな」

「我が国の敗北と言う事になってでもですか」

「戦争とは外交手段の一種に過ぎない、兵器なんか使わずにうまく行けばそれでいいのだ」

 軍人生活三十五年の存在意義を全否定する発言だったが、その時の私はそこまで落ち込んでいた。こんな超兵器を前にして戦術も何もあるかと自暴自棄にもなっていたし、それが現実である事をあらかじめ教官から教えられても来たからだ。


 そんな繰り言を述べながら集まっていてもしょうがないと言う事で退避して来た基地の本部へと戻り、情報を搔き集める。

 既に私の惨敗とそれに対する批判、我が軍の思わしくない戦況は次々と入っており、母国に帰ればそれこそ非難の嵐にさらされるだろう。敵国にとってもこれまで数多の敵兵を殺させて来た男であり、戦犯として処刑させられても文句は言えない。いっそここでと思いもしたが、そんなのは文字通りの敵前逃亡だ。


「なんだこれ、アルミニウムじゃないか!」


 そこに飛び込む、研究員たちの素っ頓狂な発言。


 アルミニウムと言う、極めてありふれた金属。

 そんな金属でできた弾丸と拳が、我々の軍の兵器を圧倒したと言うのか。

 さらに言えば、あれだけの高速移動にも耐えたと言うのか。

 もちろんアルミニウムだけではなく合金ではあるようだが、アルミニウムが中心となればコストはお察しと言う物だった。

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