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ハッピー・テロリスト  作者: ウィザード・T
アナザーターゲット サレンダー・リーズン
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サレンダー・リーズン

今回はアナザーターゲットと称していつもの現代世界とは違う形で行きます。

 世界最強の軍事国家————————————————————。




 そんな恥ずかしいことこの上ない肩書を振りかざしていた我が国は、今や隣国の支配下にある。

 首相の賢明な判断により保護国と言う扱いにはなっているが、それでも降伏を決めた時には内乱も起き、不必要な国力の低下をも招いたのは残念な事だ。




 なぜこうなったか。


 それは、隣国がより強かったからだ。


 この上なく身も蓋もない結論だが、それが一番正しかった。




 何よりかにより、その降伏宣言に無駄に反発して独自闘争を気取った軍人連中がわずか二十四時間で全滅させられた事からしても明らかであり、降伏に反発していた民衆さえもその悲報に心を折ってしまった。

 現在では我が国の軍事力は往時の三分の一であり、これは私が率いていた軍・全体の三分の一に当たるそれと独自闘争を起こした連中が持っていた軍勢・三分の一が共に全滅したからと言うやはり身も蓋もないお話の結果だ。


 では、これから私—————今は退役軍人として細々と余生を送るだけの元将軍であった男の話をしよう。




※※※※※※




 その日も私は、侵攻をかけていた。

 目標は、敵前線基地。

「陸空両方からかつ三方攻撃により、敵基地抵抗力は低下しています」

「このままで行けば一時間ほどで抵抗力は失います」


 戦況は順調だった。

 この日対峙していた基地は敵国—————いや今では宗主国—————の首都からかなり近くにあり、ここを落とせばもはや崖っぷちだった。


 戦車に飛行機、歩兵。そのような戦力の質は我が国の方が上である事は明らかであり、何よりこの地を落とすために兵力の三分の一を注ぎ込んでいる。総力戦とまでは行かないにせよ相当な大軍であり、勝つべくして勝つ事を義務付けられている戦いだった。

 そう、そのはずだった。




「大変です!爆撃機が墜落しました!」




 そのなぜだかあわてふためいた、報告が届くまでは。


「南西方面軍の爆撃機が墜落?敵戦闘機の攻撃でも受けたのか」

「それが下から!」

「敵高射砲の射程に入り込んだのか」

「いえ、その…ああ!子どもが!少年がぁ!」


 そんな戦争ではちっとも珍しくない報告をして来たパイロットがあわてて映した映像に、司令部の人間は目を剥いた。



 —————少年。



 少年兵と呼ぶにしてもあまりにも小柄過ぎる、140センチあるかないかの男児。

 青い装甲を全身にまとっていたその少年は拳で戦闘機のガラスを叩き割り、戦闘機が落下するのと同じ速度で地上へと降りて行く。

 そして落下しながら、右手から弾を打ち出す。

 その弾は我々の戦闘機を次々と叩き落とし、墜落しなくても翼を傷つけられコントロールを失い逃げる事すらできずに敵戦闘機に撃ち落される。

 空軍戦力をあっと言う間に壊滅させたその存在は、間違いなく「少年」だった。その百回以上戦闘機に乗っていたパイロットが最後の判断能力を振り絞ってこちらに見せつけたその顔は、紛れもなくただの少年。装備さえなければただの子どもに過ぎないはずの、どこにでもいそうな顔の少年。

 

 そして彼と対峙した南西方面部隊だけでなく、南東方面軍も崩れている。一瞬にして空中での有利が崩壊し、戦況が一挙に傾く。

「歩兵部隊!かの敵を討て!」

「捕えないのですか」

「そんな暇があるか!」

 南西方面軍指揮官の正しい指示。敵少年の落下速度に合わせ歩兵も戦車も砲を構える。

 だが敵は見通しだと言わんばかりに足からジェットを吹き出し、落下速度をごまかすとその高さから弾をばらまく。射出された弾は次々と我が軍の兵器を破壊し兵士たちを亡骸に変え、地上に近づくたびに犠牲者が増えて行く。そこに結果的に誤射となってしまった自軍の砲弾が天に向かって吐いた唾のようにこちらを襲い、さらに戦闘機たちをそうしたように着陸した少年は戦車たちを拳で殴り倒す。将棋倒しにされたのはまだましで、中には装甲をぶち破られ乗員そのものが殴り飛ばされたケースもある。

「この野郎!」

 マシンガンを放つ歩兵もいたが、あまりにも早すぎる上に小さな的に当てられない。そして拳で兵の命ではなくマシンガンを壊され、あわてて殴り返そうにも拳の一撃で骸にされる。


 そんな事が二度三度どころか七度八度、いや十度二十度と続いた。しかもほんの数分単位で。それに本来の敵であるはずの軍勢が向かって来る物だから、戦況はもはや絶望的だ。


 しかもこれは何時間単位ではなく、ほんの数分でなされた事だった。こちらは無傷の兵まで動揺し、向こうは損傷した兵器まで元気に動き出す。悪夢と言うにはあまりにも現実的であり、しかも一方的。


「そんな兵器が隠されているなど何故気が付かなかったのだ!」


 八つ当たりか正論か分からないフレーズを吐いてみるが、意味もない。

 他に何の言いようがあるのか。


 南西方面軍だけでない、正面軍も、南東方面軍も。

 陸軍も、空軍も、たった一人の少年により—————いや。

「青い少年をさらに確認!」


 少なくとも、二人。

 

 どうあがいても、絶望。


「全軍撤退!」

「ですが!」

「うるさい!責任は私が取る!」


 他に何の言いようもなかった。もはや勝利とか言う話ではない。とにかく犠牲を少しでも減らすことが最優先だ。全軍の総司令官として万が一の可能性に賭けるよりその方が健全な判断だと思った私は副官たちの反対を押し切り、全軍撤退を命令した。

 そして、隗より始めよと言う訳でもないが逃げた。総大将様の命に逆らう奴はもう知らんとばかりに逃げた。


 だがその行動さえも遅かったと言わんばかりに、少年は迫って来る。

 総大将様である私を狙ったと言うより、もう目標がなかったのだろう。

 撤退命令に対応しきれなかった兵たちが次々と敗れ、こちらに向かって来る。


 ジェットを吹かしているようであり、戦闘機よりも速い。必死の抵抗も全て薙ぎ払われ、と言うか当たっているのに効いていない。


 もうダメだとわかっていながら、最後の護衛である戦車が弾を放つ。だが少年は高く飛び上がり、戦車を踏み付けんとする。


 この一撃で最後の護衛は消え、私たちはむき出しにされる。そしてその後は…




 死を確信していた。


 だが。



「総大将様!」



 いきなり飛んで来た、赤い光線。


 その赤い光線は少年の頭部を貫き、墜落させた。


「助かった……のか?」

「はい!」

「喜ぶな、どっちみち向こうに余力あり、こちらに余力なし…」


 とは言え、全く気分は良くならない。我々が倒した訳ではないと言うのもさることながら単純に現在の戦況、そして何よりこんな幼気な子を戦争に巻き込んだ現実。その全てが私の背中を重たくした。

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