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ハッピー・テロリスト  作者: ウィザード・T
ターゲット4 リビング・ジェイル
22/36

レッド・リバー

 赤澤直子に大川康江。


 二人とも元から石田光江の事を好いていなかった。


 赤澤はユウトウセイサマな光江の事が好かなかったし、大川は早川と同じ本田勝弘ファンであった。

 それこそ渡りに船であるとばかりに、早川秋絵は二人を抱き込みにかかった。


 赤澤は成績面で問題があったから出来のいい家庭教師を安価で回してやり、大川康江は本田勝弘に近づけるように勝弘の情報を共有していた。


 そしてその条件として、石田光江のSNSを荒らした脇山安子や野球部内での立場を奪おうとした枯山綱子と同じように、大柄な赤澤直子には光江を物理的に襲わせ、大川康江には光江のカバンや靴を奪ったり隠したり汚したりさせた。


 もちろん教師たちの目に付かないような時間と場所を選び、指示を出す。自分自身に足が付かないように何台もスマホを使い、足が付かないようにする。


 早川秋絵の計画は、完璧だった。




 早川秋絵と言うのは、一日十時間勉強しながらそんな精巧な策も打てる人間であり、行動力も人一倍だった。もし早川秋絵が五人いたら石田光江はとっくに関原高校から追われていたか早川家の保護下に入っていただろうし、その前に学園そのものが早川家の指揮下に入っていた。

(私こそが、本田様を本気で守れるのです!)

 そして彼女は誰よりも強い本田勝弘への愛を持っていると自負しており、その愛の深さとそれを支えられる自信も誰よりも持ち合わせていた。石田光江のような弱々しい人間とは違うと自負していた。







(ワッキーや枯山さんがあんな事になるなんて)

(そう言えば彼女たちも…いや枯山さんはわからないでもないけどまさかワッキーも…)


 だが、赤澤直子も大川康江も早川秋絵ではなかった。

 四人には直接のつながりはなかったが同じ学校の同じ学年と言うレベルのつながりはあり、さらに石田光江と言う存在を攻撃対象としていると言う共通点は何となく感じていた。一番目立っていたのは枯山か赤澤だったが、脇山も落ち込みがちな石田をニヤついた顔で見ていたし、大川も本田勝弘に気に入れられている光江の困っている姿を見て内心笑っているほどにはこの行いを楽しんでいた。


 しかしもし石田光江が自ら命を絶つような事になれば、とか言う展開は四人とも考えていなかった。いじめと言うのは相手が苦しむ姿を見るから面白いのであり、相手が死んでしまえばそれで終わる。もちろん四人ともいじめとか言う自己満足のためではなく半ばビジネスのつもりではあるが、そのビジネスと言うより闇バイトの危険性を認識していなかった。

 

 そう、認識して、いなかった。



(まさかとは思うけど)

(そう、そのまさかじゃないのかって…)


 

 仲間と言うか先達と言うか、少なくとも同僚であるらしい存在二人の死。

 まだ高校二年生と言う前途洋々としたはずの存在があんな死に方をするなど、誰の目から見ても悲しい話だ。


 だがもし、ハッピー・テロリストが彼女たちの所業を知っていたら。

 

「石田光江集団いじめ事件」とでもなれば、自分たち四人は学校から処分を受けるのは確実。退学、停学及びそれに伴う留年ともなれば人生は狂う。と言うかこのネット時代、あっという間に札付きのワルとしてその名は広まってしまう。

 と言うか何をしたか分かっていないはずの脇山安子や枯山綱子さえも、「どうせハッピー・テロリストに狙われてたんだから」と言う理由でネット上にてさらし者になりつつあった。その事をまだ二人とも知らなかったが、既に関原高校に通っているからと言う時点で自分たちさえもフィルターにかかっている様に思えて来る。


 二人が同じ結論に達したのは、ある意味当然の帰結だった。

 実際二人は既にフィルターにかかっており、悪趣味な視線を受けていたのは間違っていない。

 今ならばまだ間に合うかもしれない。誠心誠意気持ちを伝え、どうか石田光江に許してもらわねばならない。そうすれば傷は負うかもしれないが致命傷にはならない。本田勝弘に嫌われるのはもう諦める。




「「お父さん、お母さん、石田さん、本当にごめんなさい」」




 脇山安子の死から五日後、期せずして二人は一言一句同じ置き手紙を残し、学校へと向かった。




 そして—————。







「本日7時44分、我々は赤澤直子を殺害しました。

 全ては赤澤直子の幸福のためであり、ひいてはこの国、否この世界に住まう全ての人類のためにです。我々はこれよりもまた、皆様の幸福と正義のために動き続けます。

 ハッピー・テロリスト」


「本日7時46分、我々は大川康江を殺害しました。

 全ては大川康江の幸福のためであり、ひいてはこの国、否この世界に住まう全ての人類のためにです。我々はこれよりもまた、皆様の幸福と正義のために動き続けます。

 ハッピー・テロリスト」




 赤澤直子に、大川康江。


 二人は額から赤い血を流しながら、石田光江の再会する事さえできないままこの世を去った。




 罪を告白しようとしたはずの二人さえも、殺されたのだ。

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