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ハッピー・テロリスト  作者: ウィザード・T
ターゲット4 リビング・ジェイル
19/36

トリプルパワームーン・ノックアウト

「何」


 


 その二文字を口に出来ただけでも、彼女は優秀な方であった。



 その短すぎる遺言を残し、一人の高校二年生がこの世を去った。


 ちょうど校舎の屋上にいた所を狙撃され、その反動により宙を舞うように落ちた彼女の体は校内の通路のアスファルトへ向かって一直線に落ち、その必要もないのに五本ほど骨を折った。



「なにこれ!」

「わ、ワッキー!」


 ワッキーと言う安直なあだ名で呼ばれる彼女—————脇山安子。




 その死は、またもあっと言う間に流布された。


「本日12時30分、我々は脇山安子を殺害しました。

 全ては脇山安子の幸福のためであり、ひいてはこの国、否この世界に住まう全ての人類のためにです。我々はこれよりもまた、皆様の幸福と正義のために動き続けます。

 ハッピー・テロリスト」




※※※※※※




「何て恐ろしい事でしょうか」


 それから二十分後、早川秋絵はリムジンの中でスマホを叩きながら震えていた。

 脇山安子が所属していた関原高校の生徒会長でもある彼女にとって登下校とはそういう物であり、こんなイレギュラーにも対応できていた。


「お父様にご依頼して別の学校に移った方がよろしいのではないですか」

「おやめなさい、あのハッピー・テロリストとか言う存在はどこに移っても狙って来ます。それに私や脇山さんにやましい事があると言うのですか」

「恐れ入りました」


 燕尾服を身にまとった白髪の運転手を言い負かした彼女は、浅く息を吐くとスマホの待ち受け画面に全視神経を集中した。


「…ああ、本田様、本田様……」


 待ち受け画像に映る、8の字を背負いヘルメットを着用した男性。ヘルメットの下が坊主頭ではない事を示すかのようにわずかに髪の毛が見え、汗も目鼻立ちも輝いている。


 もちろん手にはバットを持っている。







 胸にSEKIHARAの文字が書かれたユニフォームを身にまとう本田様こと本田勝弘を追う目線は、百や二百ではない。

 

 関原高校のある県にて、既に有名人となりつつある存在。


 昨年既に甲子園にて二試合で四安打を放ち、今年の春も甲子園に立っている事からいずれはプロでと言う目線も少なくない。今年も本田の活躍により甲子園進出は堅いとまで言われており、そうなれば全国区の有名人となるのは確実だった。


(とは言え、スーパースターのはずのおよそ七名の内、最後まで野球と共に生きられるのはせいぜい二人。万が一成就しなければその時は…そう、そのために私がいるのですから!)


 とは言え、プロ野球ドラフト会議で12球団に指名された育成指名込みで100人相当の中で引退後もコーチや解説者などで野球にしがみつけるのは良くて15人ぐらい。

 そしてプロ野球選手の平均選手生命が7.7年と言うから、十八歳で入団して二十六歳で自由契約と言う名のクビ宣告をされれば全く職歴などない二十六歳無職の出来上がりとなってしまう。


 そんな人間を何とかする事こそ、いわゆるノブレスオブリージュであり自分たちの使命だと秋絵は思っていた。


「とりあえずハッピー・テロリストとやらの対策についてのお話をお父様にしてみたいと思います。途中下校になってしまった経緯は既に話してくれていますね」

「はい。早くお嬢様の無事な顔をご覧になりたいと旦那様も仰せです」


 そのためにも、自分は立派なビジネスマンにならねばならない。

 スマホの電源を落とすと通学カバンの中に入っていた教科書とノートをめくり、中止になってしまった分の授業を補う。当然と言えば当然だがこの非常事態に全生徒が秋絵と同じように学校から帰らされ、授業を受けられなくなっている。そのイレギュラーを乗り越えてこそ立派な人間になれる、本田勝弘と言う人間を守れると思っている。


(脇山安子……残念でしたわ。あれはあれで使えると思っていたのに。正当なる抗議のメールを手を変え品を変えアカウントを作らせて送る程度には機敏で真面目な子でしたから。少なくとも彼女の親にはそれなりの弔意を示さねばなりませんね……)


 だからこそ、脇山安子の死を惜しんだ。




 本田勝弘の邪魔をする存在を排除するため、その存在のXのアカウントに荒らしとも言うべき投稿を続けまくった上に校内でもここ二カ月で五回もその存在の靴を隠したり焼いたりしていた。


 それでもなお立ち上がって来る存在に、そろそろとどめを刺してくれると思っていたのに。


 社員四ケタの大企業の社長令嬢として生まれて来た身でも、いやなればこそ金の力を知っていたつもりだ。

 その力のないくせに勝弘にまとわりつく存在を排除する事こそ自分の使命であると早川秋絵は信じていたのである。


 石田光江とか言う女を。

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