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ハッピー・テロリスト  作者: ウィザード・T
ターゲット3 グッドクラフトマン・バッドティーチャー
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ビトウィーン・ザ・サーティセブン

「何をしたって言うんだよ!」


 古元一の死を知った福田悠一は柄にもなく激高していた。


 古元一が四代目となっていた和菓子屋は茶席に卸すようなそれを作ると同時に100円玉で買えるような饅頭や羊羹なども作っており、実に幅の広い店であり和菓子が好きな悠一は常連客であり、一とも顔見知りであった。


 と言うか第三者である悠一からすれば一は職人気質ではあるが気のいいおじさんであり、何か害をもたらすような人間には毛頭思えなかった。







 悠一が憤懣やるかたないと言わんばかりに大股で和菓子屋へと向かったのは事件から二時間後、放課後すぐであり現場検証のただ中だ。

「ただここに何回か通ってただけですけど」

「わかったからちょっと離れて」

 現役の警官からそう言われて素直に下がる分別を持った悠一だったが、頭の中では休み時間の同級生の軽口が渦巻いていた。



 —————悪い事をしなきゃ大丈夫なんだろ?



 まるで、古元一とか言う男にそれだけの責めがあったかのように聞こえる。

 いったいこんな人間が何をしたのか。

「何が悪いんですか!この古元さんの!」

 思わず口から飛び出した声に覆いかぶさる、一本の手。


 振り返れば、着物を身にまとった一と同じぐらいの年の男性の右手が179センチの悠一の頭に乗っかっていた。


「店の人らもみんな同じ事おっしゃってました…」

「あなたは確か…」

「茶会でえらくこちらの菓子にお世話になっている者です…まさかこんな形で才能が失われてしまうとは…本当に残念極まりませんわ…」

「はい…いったいなぜこんな事に…あ、このお店はどうなるんです、まさかおしまいとか…」

「いやそれはないと思いますけど、ただまだ五代目を四代目は決めてなかったみたいで」


 四代目である古元一はお偉いさんが集うような茶席で出せる和菓子を作れるほどの腕前の持ち主であり、一の代に店の売り上げは倍になった。そんなだから店内では絶対的な権威を持っており、誰がその座を継ぐかで話題にもなっていた。

 後継者ともなれば莫大な富と名声と、責任を負う立場にもなる。それこそなりたくもありなりたくもなしな立ち位置だった。


「四代目さんは三代目の」

「長男でした。それこそ生まれた時からずっとこの道一筋ってお人で、ずっと修行してようやく三代目に認められたと思ったら本当に大変な目に遭いましてな…」

「大変な目?」

「そうです。三代目は四代目さんに引き継いだ直後に車に当たってしまい、それで四代目さんの奥さんももう十七年前に癌に持ってかれて……悠一君と言いましたか、キミは知らないでしょうけどどっちもどうしてこんないい人間がって言いたくなるような」

「佳人薄命ですか…」


 三代目こと一の父は一より三歳下であるから五十八歳、一の妻は一より四歳下だからちょうど四十歳、そして一は六十一歳。

 三十年前、十七年前、そして今年となれば連続してとかは言えないが、人生八十年時代に六十前後で二人が、一人が四十ちょうどで死ぬと言うのは正直何らかの祟りでもあるのかと言わざるを得ない。


「……とは言え……」

「あのハッピー・テロリストとか言うのが何をもって四代目を殺めるような真似をしたのか、そんな事はわかりません。わかるのは、四代目がもう生きていないって事だけです」

「はい……」


 悠一もなんとか口では落ち着いてはみたものの、それでも気持ちは浮かび上がらない。


 本当に、あの古元一はそんな事をされる理由があったと言うのか。

 誰かを苦しめていたと言うのか。

 まさか同業者を駆逐し、その相手を路頭に迷わせた結果だと言うのか。


 今福田悠一はクラスで1、2を争う成績だがそれはすなわち悠一より下の人間がいると言う意味であり、彼らからしてみれば悠一は自分を押し込める存在だ。


 いや、だとしたら誰がそれを望んだのか。

 誰が、ハッピー・テロリストに古元一の殺害を望んだと言うのか。


 悠一が知る古元一は、卑怯な手を使う人間には思えない。

 ただ和菓子が心底から好きなだけの、気のいいおっちゃん。ただの常連に過ぎない自分に心底親し気に声をかけ、和菓子とは違う大人の話もしてくれた。亡くなった妻や父、和菓子一辺倒かと思いきや野球とか競馬とかそれこそ大人の趣味の話もしていた。まさかギャンブルで散財したとか言う話もないし、考えれば考えるだけわからなくなって来る。

 

 大人の世界の不条理とか言うには、あまりにも悲惨な話。


「ちょっと!」

「え…?」


 耐えきれないように目を光らせてしまった悠一に紳士は慌てふためき、気付かないまま顔を上げた悠一の顔にハンカチを押し当てた。

「わかったわかった、キミは本当に優しい子ですね」

「俺、泣いてたんですか…」

「ああ。でも実際、五代目はもめるかもしれません」

「誰なんです?」

「やはり紅太郎(こうたろう)君ですかな、四代目の息子さんの。今は二十…四になったかな」



 そして四代目こと古元一の息子・紅太郎は二十四歳だと言う。


 一が六十一歳なのにだ。

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