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ハッピー・テロリスト  作者: ウィザード・T
ターゲット3 グッドクラフトマン・バッドティーチャー
13/36

ジャパニーズ・スイーツ・クラフトマン

 ハッピー・テロリストは、今日も世間を騒がせていた。


(ハッピー・テロリストってどうやって依頼するんだよ……できるもんならいっそ、おっとめったな事を考えるもんじゃないな……)

 

 ハッピー・テロリストがいったいなぜ人殺しをするのか、その事をこの国の人間はまだ誰も知らない。ましてやどういう基準でその存在を選んでいるのかなど全く知らない。と言うか、それほどの超技術をどう実現しているのかさえも分からない。

 そんな存在に睨まれたら、それこそおしまいではないか。 


 暗殺は古今東西「負の」と言う枕詞が付くにせよ伝統であり、多くの人間が命を落として来たし逆にそれで食っている人間もいた。だがどうしても仕事をする人間と同時に仕事を頼む人間も必要であり、ハッピー・テロリストとて誰かが仕事を依頼しているからこうしているはずだ。

 いったい誰が何の目的でやっているのか。

 その目的が分からない。




※※※※※※




「んな事言ったってよ、結局後ろ暗い事をしなきゃいいんじゃね?」

「お前はよくそんな事が言えるな」

「だってそうだろ、これまでの事件の事俺調べて来たんだぜ」

「ああそうかい…」


 三件の事件から遠く離れた高校でも、ハッピー・テロリストは話題の中心になっていた。

 一年三組の教室の中でいつも話題の中心にいるようなスクールカーストの頂点気取りの陽キャ男に話しかけられた、これまたスクールカースト上位にいそうなイケメン・福田悠一は頬杖を付きながら深くため息を吐いていた。


 実際この福田は顔よし学業よし運動よしの三拍子そろったクラスの頂点のような存在でその上に性格も強きをくじき弱きを助くを地で行く人間であったため人気は非常に高かったが、ただ一つ欠点があるとすれば愛想がない事だった。

 それも美点として捉えればクールだとか不言実行だとかなるが、欠点としてとなると無愛想とか陰キャとかなる。丸い卵も切りようで四角であり、この陽キャ男から言わせればその欠点を解消してやりたかっただけだった。

「オイオイオイオイ、啓二の奴とはえらい違いだな、お前ら本当に一卵性なのか?二卵性じゃねえのか?」

「一卵性だよ、戸籍でも見せてやろうか」

「かーっ全くもう冗談が通じねえんだから、啓二を見習えよ啓二を」

「あれは才能だよ、一卵性双生児でも才能は違うっての」

 

 その度にこのいくら笛を吹いても踊らない悠一に辟易して隣の一年四組の双子の弟の啓二のとこに行くのが恒例行事であり、悠一も飽き飽きしていた。


 福田悠一の弟の福田啓二は紛れもなく悠一の二卵性双生児の弟であり顔も運動神経も正義感の強い性格も同じだが、その代わり友人の数は悠一の三倍以上いた。もっとも、男性だけだとそれほどまでに差はないのだが。

 悠一のそれが悠一と言う存在を慕ってついて来ると言うタイプが多く、そのためか男に人気がある。一方で啓二は男女問わずフレンドリーであり悠一のように堅苦しくない事から女子にモテており、中学時代にはバレンタインチョコを両手足の指の合計と同じだけもらった話もある。一方で悠一も両手の指の合計ぐらいは貰っていたが、実際に口にしたのはゼロ個だった。


「だいたいお前まだ高一のくせに年寄りくせえんだよ、将来の夢が公務員だって?まだまだ夢見てもいいだろ、高一だぜ俺ら」

「お巡りさんになるんだよ」

「そうかいそうかい、あーあお前のせいで犯罪が減りそうだねえ、まあ喜ばしい事だけどよ。で、交番勤務になったらなったで暇な時にはようかんでも食ってるんだろ」

「それもいいけどな」

「そこぐらいしか愛嬌がねえんだからな、ったくもう確かにコンビニでもようかんなんぞ売ってるけどさ、って言うかお前まさかハッピー・テロリストを」

「話をそっちに持って行きたいのかよどうしても、っつーか事件の前から言ってるだろ俺はお巡りさんになりたいって、次の授業まであと二分だぞ」

「ヘイヘイ……」




 そんな彼が好きな物は和菓子であり、スーパーやコンビニでは無論時には近所の八十年続く和菓子屋に行って財布を軽くする事もある。和菓子職人になってもうまく行くんじゃないかとか言われもしているが悠一は悠一らしく「道を踏み外す」気もなく、ただ趣味嗜好としてだけ和菓子を取っていた。


 もし彼が、一般家庭ではなく和菓子職人の家に生まれていたら。

 今時珍しいほどの真面目さと集中力をもって、とんでもなく味も見た目も優れた茶席を輝かせる和菓子を作るかもしれない。それどころかクールジャパンの代表として世界中を飛び回る事になったかもしれない。

 そんな彼の夢が既に警察官で固定されているのは、残念ではあるがしょうがない話でもあった。







 そして、それとは関係なく、ハッピー・テロリストはまた凶弾を放った。




「本当、最近の若い奴はせっかちでその上度胸がない。どっしりと構える事が出来ねえですぐ慌てふためく。だいたい…」


 白い服と帽子を身にまとう、顔にも手にも年輪を重ねた男、古元一。


 八十年続く和菓子屋の四代目であるその男が、小学一年生になり始めて和菓子に触れてから五十四年。

 中卒後すぐ四代目としての修業を積んで三代目の死により四代目となるまで二十四年。

 そして四代目になってから三十一年。




 そんな近頃の若い奴はと言う言葉を吐くにふさわしいキャリアを持ちそれ相応の姿をした古元一と言う男の人生は、突然終わった。



 いきなり空から現れた赤い光が、彼の頭を撃ち抜く。



 自らの店の外の長椅子からうつ伏せに倒れた古元一は、それきり呼吸をしなかった。




「本日午後2時10分、我々は古元一を殺害しました。

 全ては古元一の幸福のためであり、ひいてはこの国、否この世界に住まう全ての人類のためにです。我々はこれよりもまた、皆様の幸福と正義のために動き続けます。

 ハッピー・テロリスト」


 そして、またもやメールは日本中を舞った。

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