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ハッピー・テロリスト  作者: ウィザード・T
ターゲット2 ラナウェイ・ブライド
12/36

セルフ・デストラクション

 —————逃げ得。



 確かにその通りだ。



 媚山千賀子が本来弁護士から請求されるべきだった千二百万円もの大金はその八割以上を生命保険で補ったとは言え残る分はまるで罪のないはずの親に押し付け、千二百万もの大金を稼ぐ苦労をしないままあの世へと逃げてしまった。さらに愛人の唐山が四百万の示談金を支払いキャリアを失ったのに、千賀子は命以外何も失っていない。

 命と言う一番大事なもんを失ったとか言うには、あまりにも幸運過ぎた。


「冗談抜きでピンピンコロリですからね。あの先生、えっと…」

「武野教太郎先生ですよ、確かあの先生も即死だったそうですからね」

「確かにハッピーかもしれませんね、撃たれた本人に取ってだけ!」



 千賀子はその日、唐山と共にラブホテルに入り情事を行う予定だったらしい事も探偵の調べで分かっていた。だからこそその日の写真を決定打として多額の賠償金を得る予定だったのに、ハッピー・テロリストのせいで証拠をつかみ切れないまま逃げ切られた。

 こうなるのがわかっているのならば少しばかり乏しい証拠でも強引に進めるべきだったとなるが、その場合慰謝料が少なくなるどころか最悪負けかねなかった。それほどまでに彼女のやり方は精巧であり、愛も深かったのだ。







 ——————————夫がいるのに五年間も愛を積み重ねて来た女が、愛する男の側で死ぬ。

 

 最初の六文字を取っ払えば実に美しいお話であり、ある意味もっとも幸せな死に方だ。


 だがその死は、自分以外誰も幸福にしない。


 そう、自分が愛した男さえも。




※※※※※※




「唐山が亡くなったと」

「ええはい、歓楽街で……」


 媚山純太郎と接触し四百万の慰謝料を払った次の日に家族に付き添われ警察に重要参考人としてやって来て取り調べを受けた唐山が亡くなったのは、その一週間後の事だった。

 予想外に早く元気になった唐山は再就職と言ってクラブのボーイになった時は家族も安堵していたが、それから一週間後のこの惨事に彼の絶望の深さを思い知りため息を吐く事しかできなかった。


「酔客に必要以上に絡み、いや理由はお店のホステスに手を出そうとしたのを激しく叱責したと言う真っ当なそれなんですが」

「やはり最初から…」

「はい。相手がガラの悪い客だと知って絡んでいたようです。そして裏に連れ込まれ仲間と共に殴る蹴るの暴行を受け最後の最後まで言う事を変えようとせず」

「最後はうるせえ永遠に黙ってろと首を絞められてか……」


 その事件により酔客を含む五人が逮捕され、現在事情聴取の最中である。彼らの中には反省の素振りを見せない者もいたが、唐山が最初から死ぬ気であったと聞くと泣きわめく者もいた。


「リンチ殺人である以上…」

「保険金は出ますからね。それで家族や浮気相手の旦那様への示しは吐くと思ったのかもしれません」

「ただボーイを含め真っ当に稼いでいれば手に入っただろう額の数分の一だがな!

 ったくハッピー・テロリストめ!何人の人生を巻き込んで……」

「やっぱり、テロリストはテロリストですね」



 そこまで部下に向かって吠えた所で、柏崎竜也の頭が一気に冷えた。



(まさか…!)



 もしかして、自分の願いを——————————。


 柏崎竜也の顔から、赤みが減っている。


 テロリストはテロリストに過ぎないと言うこちらの意思をくみ取り、誰一人幸福にしないような犯罪を仕掛けたと言うのか。


「ふざけるな!」

「ひい!」

「いや済まない、ハッピーとか冠名があった所でテロリストはテロリストに過ぎないと言うこちらの思いを読まれている気がしてな」

「はい…単純に腹立たしい事この上ありませんね」

「とにかく、だ。ハッピー・テロリストめ絶対に許さん…とだけ言っておく、そうさせてくれ」

「はい…」




 ハッピー・テロリストにより一つ、いや二つの命が失われた。


 ————————————————————その必要がないはずの命が。


 その事だけが柏崎竜也を含む警察にとっての「もっとも都合のいい」事実である事は、誰が何を言おうが覆せない現実だった。

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