第三章: 瞳の奥に光る原石
暴走エンジェルズの活動も一ヶ月が過ぎ、少しずつ客足が増えていた。
「亜紀、ツイッターでハッシュタグ立ったぞ!」
プロデューサーの志村さんが興奮気味に見せてくる画面。「#ヤンキーアイドル」というタグが小さなトレンドになっていた。
「これ、チャンスだ!次のライブで新曲『拳で語れ!乙女心』を披露するぞ!」
志村さんの目が輝いている。この一ヶ月で、彼は私の荒削りな個性を否定するのではなく、武器にすることを選んだのだ。
練習は厳しかった。他のメンバーとの息も合うようになり、特に美咲とは「山猿コンビ」と呼ばれるほど息が合っていた。元コスプレイヤーの葵がデザインした「暴走カラー」の特攻服風衣装も完成。
「これ、着るのか?」
手にした特攻服の背中には「天下無敵」の刺繍。懐かしくて、少し切なくなった。
SNSでの人気も徐々に上昇。「ヤンキーなのに歌って踊る姿がギャップ萌え」「素顔はめっちゃ怖いのに、笑顔が可愛い」などのコメントが並ぶ。
「これ、褒められてんのか?」
香織が言葉の意味を教えてくれた。ネット用語は難しい。
ある日のライブ後、一人の少女が物販に来た。眼鏡をかけた華奢な少女。
「あの…長島さん、私…勇気をもらいました」
彼女は震える手で差し出した手紙を私に渡した。
「学校でいじめられてて…でも、長島さんみたいに強くなりたいです」
その瞳に光る決意に、胸が熱くなった。
「強さってのはな、拳の強さじゃない。心の強さだ。お前は既に強い」
思わず伝えた言葉。少女の目に涙が溢れた。
楽屋に戻り、手紙を読んだ。いじめの辛さ、逃げ出したい気持ち、そして私のステージを見て「自分もやれる」と思ったこと…。
「なんか、意味あるじゃん、これ」
香織が肩に手を置いた。
「もちろんあるよ。私たちは誰かの希望になれる」
その夜、大きなライブハウスからオファーが来た。チャンスの予感に胸が高鳴る。
しかし翌日、SNSで見覚えのある顔を見つけた。紅蓮華組の元メンバー、鈴木ミカ。彼女が「偽物」と私を罵る投稿をしていた。
「本物のヤンキーって名乗るなら、昔の借りは返してもらうわ」
画面の向こうに見える憎悪の眼差し。かつての因縁が、私を追いかけてきた。
次のライブの日。会場に入ると、不穏な空気が漂っていた…