第二章: 初陣、波乱の予感
初ライブから一週間。練習漬けの日々が続いていた。
「亜紀ちゃん、そこはもっと可愛く手を振るの!」
プロデューサーの志村さんの指示に、眉間にシワを寄せる。可愛く?何それ?山では通じない言葉だった。
「こうか?」
拳を振り上げると、スタジオ中に笑いが起きた。
「もういいわ。あなたはそのままで…個性的でいいから」
志村さんは諦めたように首を振る。
翌日のライブは、秋葉原の小さなライブハウス。客席には30人ほどのオタク風の男性たち。熱気ムンムンというより、カメラのレンズがキラキラ光る不思議な空間。
「いよいよだな」
楽屋で、メンバーの美咲が鏡の前で念入りにメイクをしていた。元ギャルだけあって、手つきが器用だ。
「化粧、手伝ってやろうか?」
「えっ…いいの?」
「山で迷彩メイクはやってたから」
山での生存術と美容メイクは違うが、不思議と上手くいった。美咲の顔が明るく輝く。初めて感じた、仲間との一体感だった。
ステージ上。照明が眩しい。
「暴走エンジェルズ、参上!」
私たちの登場に、客席からは「おぉ〜」という歓声と、「新人?」「ヤンキーみたいな子がいる」というざわめき。
最初の曲「ハートを撃ち抜け!」で、私は間違えて他のメンバーとぶつかった。でも、咄嗟に受け身を取り、回転して立ち上がる。まるで振り付けの一部のように。
「ナイスリカバリー!」
客席から声が飛ぶ。思わず私は親指を立てて応える。それが逆にウケた。
曲の途中、前列で小競り合いが始まった。推しメンを巡る争いか?
「おい、静かにしろ!」
私の一喝に会場が凍りついた。そして…
「カッコいい!」
意外な歓声。この瞬間、私は感じた。ここなら、私のままでいいのかもしれない。
ライブ後の物販。初めて「推し」と言う人と握手。その人の手には、私のレディース時代の写真が…!?
「どこで…」
「SNSで見つけました!長島総長、カッコよかったっす!」
戸惑う私に、他のメンバーがクスクス笑う。だが、その笑顔には悪意がなかった。
帰り道、美咲が言った。
「亜紀ちゃん、あなたのおかげで今日は盛り上がったよ」
心の中に、小さな温かさが広がった。明日からまた頑張ろう。でも、あの写真はどこから?不安も残る。
そして私はまだ知らない、明日のライブに現れる"あの人"のことを…。