第一章: 山猿、東京へ降臨
「アイドルってなんだろ?」
私、長島亜紀、22歳。群馬県の奥深くで生まれ育ち、幼少期から山猿のように駆け回ってきた。
山々に囲まれた土地で、日が落ちれば星空がキラキラと瞬く。そんな自然豊かな場所で、私は野生児として成長した。
母ちゃんは早くに死んじまって、親父は酒浸り。学校じゃ「山猿」って呼ばれてた。だから中学からは不良の道を歩み始めた。山育ちの身体能力と勘の鋭さで、いつの間にかレディース「紅蓮華組」の総長になってた。
バイクで山道を爆走し、夜な夜な喧嘩に明け暮れる。でも、高校卒業と同時に「この先どうすんだ?」って壁にぶち当たった。
「このままじゃダメだ」
深夜、廃墟となった校舎の屋上から見た星空が、妙に眩しくて。
そんな時、SNSで見かけた「暴走エンジェルズ」のオーディション。「地下アイドル?なにそれ、食えんの?」と思いつつも、「東京行くチャンスか」と応募した。
オーディション当日。原宿の小さなスタジオ。私の前に立ったのは、派手なメイクの女たち。
「あんた、アイドルやったことある?」
「ねーよ」
沈黙。
「歌とか踊りは?」
「キャンプファイヤーで熊撃退する時の太鼓は叩けるけど」
またも沈黙。そして、爆笑。
「ねぇ、この子面白くない?」
「過去の経歴は?」
「レディース総長」
「まじ?」
三人の顔がパッと輝いた。
「採用!」
なんでだ?と思いつつも、翌週には東京の狭いアパートに引っ越し、「暴走エンジェルズ」の新メンバーになっていた。部屋は6畳一間。東京の夜空には星が見えないことが、やけに寂しかった。
「アタシ、アイドルに向いてんのかな」
鏡に映る自分は、顔つきは険しいままで、髪は茶色く染め上げ、爪は長く伸ばし、ピアスは七つ。これがアイドル?そもそもアイドルってなんなんだ?
初日のレッスン。他のメンバーは、元ギャルの美咲、元引きこもりの香織、元コスプレイヤーの葵。みんな「元」がつく。私は「元ヤン」。ここは何かの更生施設か?
「よろしく」と言いながら、私の中で沸き起こる違和感。でも、あの街には戻れない。
レッスンで踊る私の姿は、まるで熊と格闘してるよう。メンバーは笑うけど、でも私は諦めない。山で学んだ忍耐力で、何度も何度も練習した。
そして初ライブ。客は十人もいない。でも、山の頂で叫んだ時のような解放感があった。
「オラァ!一緒に盛り上がってけろ!」
客席が凍りついた瞬間。
これが、私と「暴走エンジェルズ」の始まりだった。ケンカ上等、これからどうなるかわからないけど、私はここで自分の居場所を見つけようと思った。
そして、私にはまだ知らない。この選択が、どれだけ大きな波紋を広げていくのか—— 。