第九話 衝撃の真実
「な、ななななななななナニヲイッテルンダイチミハァ!?」
佐鳥の言葉は、俺を激しく動揺させるのには十分だった。
お、おおおおお落ち着け!! とりあえず誤魔化すんや!!
ドクンと心臓が跳ねるのをなんとか抑えながら、俺は作り笑いをする。
「じょ、冗談がキツイぜ佐鳥。俺がパシリから解放されるためにお前を星名の彼氏にしいようなんてそんなこと……」
「あー、そういう理由か」
「……」
俺のバカァァァァァァァァァ!!!!
一瞬で墓穴を掘り、自ら答え合わせをしてしまった俺は頭を抱えた。
「もしかしてと思って軽くカマ掛けてみたつもりだったんだが、まさか本当だったとはな」
「最ッ悪だぁ……」
淡々とした様子の佐鳥に対し、俺はそう漏らすことしかできなかった。
「佐鳥……てめぇ、いつから勘づいてやがったんだよ……?」
聞いたところでもう状況は変わらない。
だが、聞かずにはいられなかった。
「今日のチーム決めで俺と千聖が何連続も同じチームになってからだな。チーム決めはお前のスマホのルーレットでやったから、お前がなにか操作してるんじゃないかって思った。で、仮に操作してるとしてそんなことをする理由はなんだって考えたらさっきの結論に到達した」
「おぉぉぉぉぉ……」
なんてこった。
まさか俺の策が仇になっちまうなんて……!!
額に手を当て、俺はもう少しチーム分けのバランスを考えるべきだったと後悔する。
が、後悔したところでもう遅い……というか意味が無い。
佐鳥に俺の目的が露見てしまった以上、俺の作戦はもう使えなくなった。
しゃーねぇ。なら……アレやるか!!
「なぁ佐鳥」
「翔真でいいよ。俺も名前で呼ぶから」
「……翔真」
俺は翔真の目を真っすぐに見る。
――そして、
「頼む!! 星名と、付き合ってくれぇぇぇぇぇぇ!!!!」
全てが翔真に筒抜けになってしまった今、俺が唯一できるのは文字通り『正面突破』。
土下座をした俺は、必死の思いで翔真に頼み込んだ。
「おいおい!? こんなところでやめてくれよ! 他の人が見てるから!!」
顔を伏してるため翔真の顔は見えないが、明らかに動揺しているのが声で分かる。
「頼む!! 頼む翔真!! お前だけが頼りなんだァァァァァ!!」
そこにつけ入るように、俺はさらに頭を地面に擦り付けた。
「おいおいなんだよアレ」
「なんで土下座してるんだ?」
「なんか頼むって聞こえたぜ」
そしてさらに、変化が起きる。
周期の人間が俺と翔真を見て、ざわざわと音を立て始めたのだ。
よし!! いいぞ、想定通りだ!!
――そう、これはタダの土下座ではない。
名を『劇場型土下座』。
俺はこの技を、小一の時に父さんから教わった。
曰く――『大衆を巻き込めるから土下座の成功率が格段に上がる』らしい。
小一の息子になんてモン教えてんだと今更ながらにツッコみたくなる気持ちもあるが……今はただ、感謝を。
サンキュー父さん。
おかげでこの場を支配できた。翔真を追い詰めて、精神的優位に立てた。
さぁ翔真、追い詰められたてめぇに許された返事は「はい」か「イエス」だぜ!!
俺は地面とほぼキスしている状態で周囲から顔が見えないのを良いことに、ニヤリと笑う。
ーーが、
「ごめん、湊斗。それはできない」
「……」
……。
「なん、だと……!?」
あまりにも予想外過ぎる翔真の返事に、俺は愕然として顔を上げた。
「な、なにがダメだった!? 教えてくれ! 気に入らないところは直すからぁ!!」
「なんか別れを切り出された男女みたいだな……けど悪い。どうしてもダメなんだ」
「どぉしてだよォォォォォォォ!?」
藤〇竜也の物まね芸人もびっくりの叫びを上げ、俺は問う。
「えーとな……」
対し、翔真はどこか気まずそうに頬を掻きながら、言った。
「俺、雫と付き合ってるんだ」
「……ウェ?」
その言葉を聞いた俺は、ピカソの絵のように表情が固まった。
◇
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
二日後の日曜日、俺は積もり積もった感情を発散するようにマウスをカチカチと鳴らし、キーボードをカタカタと叩いていた。
『まぁまぁそうカッカすんなって。お、これ相手兵隊処理しなきゃいけないからバハムートフリーだな』
「そうだな。一応相手がスティール狙いに来るかもしれねぇからそこだけ見張っとく……ってぇ、これがカッカせずにいられるか!! マジでなんだったんだよ俺の昨日の努力はよぉ!?」
『まさか彼女持ちとはなぁ。ま、アイツなら彼女の一人や二人いても不思議じゃねぇわな。よしバハ取ったぞ』
「こっちもスティール狙いのヤツ倒した。もう全員アイテムは揃ってるから戻らないでこのまま相手のコア破壊しに行くぞ。人数差もできてるしダメージ出すお前を俺ら全員でピールすりゃあ、あとはゴリ押しでいけんだろ。はぁ……彼女がいるって知ってりゃあ最初っから絡みに行かなかったのによぉ。翔真のヤツ、咲宮と付き合ってんの隠してたんだよ」
『アイツ狙いの女は多いからな。付き合ってるのを公表したら色々こじれてメンド―だと思ったんだろ』
「おかげでこっちは大損こいたぜ……」
司とそんな会話を重ねながら、最終的に俺の目の前にあるディスプレイには『勝利』という二文字が大きく表示された。
「っしゃあ!!」
これには思わずガッツポーズ。金曜からのストレスが少しだけ晴れるのを実感する。
「まーとりあえず作戦はまた振り出しに戻っちまったけど、それはまたあとで考えるとして、今はゲームに集中するぞ」
そう口に出し、俺は気合を入れ直す。
俺が今プレイしているのはPCでやるオンラインゲーム、『Arena of Legend』。通称『AoL』だ。
いわゆるMOBAと呼ばれる種類のゲームで、簡単に言えば二つのチームに分かれて、味方と協力しながら敵チームの本拠地的なモノを先に破壊した方が勝ちみたいな感じだ。
その中でもこの『AoL』は全世界(日本以外)でとてつもない人気があり、プレイヤーの総人口は約一億人を超えると言われている。
このゲームにハマった俺は、一年くらい前からガッツリとやり込み始めて実力を伸ばし、ソロかゲーム仲間とのデュオでゲーム内ランクを上げ続けた。
その甲斐あって、今俺の俺はゲーム内ランクで四番目に高い『ダイヤモンド』。
そして今、その一つ上のランクである『マスター』になるための昇格戦の真っ最中だ。
この昇格戦は五戦中三戦勝てば昇格というシンプルなモノ。
今勝ったことで、俺はあと四回の内、二回勝てば晴れてマスターランク昇格ってワケだ。
『えーと、シーズン終了まであと三時間か。この昇格戦失敗したら今シーズンはダイヤで終了だな』
司の言葉に、思わず俺はゴクリと唾を飲み込む。
ようやく、初めてこぎつけたマスターへの昇格戦という事実に加え、迫るタイムリミット。
気合を入れ直したものの、緊張は全身を駆け巡った。
『落ち着け湊斗。お前がこの一年間、ほかのゲームへのリソースをできるたけ削ってAoLに入れ込んでたのは分かってる。俺もいるし、そんな気張ることねぇよ』
「……」
あったけぇ親友の言葉に、俺は思わず涙を流しそうになる。
そうだ。俺はこの一年けっこーマジでAoLをやってきた。
自分を信じろ。俺はやれる。
それに司もいる。コイツもそこそこAoLをプレイして、俺とデュオできるランク帯にいてそれなりの実力がある。
俺の全部を出し切って、ちゃんと司と連携すりゃあ勝てる……マスターに手が届く!!
司の言葉で、俺は当たり前のことを再確認し、再認識する。
「サンキュー司。おかげで吹っ切れたぜ」
「そりゃあ良かった」
「それじゃあ、いくぜ。相棒」
「おう」
そうして対戦相手を探すためのマッチング開始ボタンをクリックしようとした瞬間、
~~♪
俺のスマホにLINE着信が入った。
「あぁ? 誰だよこんな時に」
スマホを手に取り、着信画面を見る。
「げ……」
そして画面に表示された相手の名前を見た俺は、思わずそんな声を出した。
『どうした湊』
「……星名が通話かけてきやがった。ちょっと出るわ。ったく、こんな大事な時に何だよ」
悪態を吐きながら、俺は応答ボタンを押す。
『もしもしミナト?』
「は、はい。どうしました星名さん。休みの日にわざわざ電話なんて」
休みの日に星名の声を聞くという初めての事態に妙な感覚を覚えつつも、俺は奴の機嫌を悪くさせないように立ち回ろうとする。
『アンタいま家?』
「え、まぁそうですけど……」
質問の意図が見えない。一体なにがしたいんだ星名?
そんなことを想った瞬間、その答えはすぐに返ってきた。
『そんじゃ今から一時間後に原宿駅集合。表参道口の方な』
――それも、サイアクな形で。
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