第三十九話 お礼、パチ屋へ
「にしてもよぉ、星名。お前いいのか?」
「ん、なにがだよ?」
その後、司の言葉に千聖は首を傾げた。
「湊斗とのテスト勝負だよ」
いくらアイツが万年赤点で勉強できないバカだからって、点数自体はお前と大差ないだろ? 学年一位の根上が勉強教えたら負ける可能性がデカいだろ」
「あー、それなら問題ねぇよ」
千聖はニヤリと笑った。
◇
放課後、俺は普段来ることのない図書室で琴葉から勉強を教えてもらっている。
……いるんだが、
「で、ここがこーなるから。ビビッとしてこーなる」
「……」
「そこはぬるっとしてるから、そこをスーッとやってぱー」
「……」
「ea/mgess'@gdpmpwpwgm663jああなまは」
「……」
ーー……。
「ふっふっふ、これで分かったでしょ?」
「分かるかぁ!?」
『図書館では静かに』の張り紙を無視するように、俺は大声を出して机を叩いた。
「さっきから説明がフワってし過ぎだろお前!? そんなんでよく得意げな顔できるなぁおい!?」
「う、ウソ……? ま、まさかそんな……」
「よーやく理解ったか」
「湊斗がそこまでバカだったなんて」
「ちっがーっう!? お前の感覚的すぎる説明じゃ誰だろうが分からねぇんだよぉ!?」
くっ、まさか琴葉がここまで説明ヘタだったとは。
まぁ普段からちょっと言葉がフワフワしてるトコがあったけど……。
「どーすんだよコレ!! このままじゃ千智に負けちまう……!?」
俺は頭を抱えた。
そして数秒の沈黙の後、
「湊斗」
「なんだよ」
「琴葉、役に立たない?」
どこかしおらしくなった琴葉が、そんなことを言ってきた。
「残念ながら立ってねぇな」
なので俺は正直に答える。
「……」
「なに落ち込んでんだよ」
「琴葉、湊斗の役に立ちたかった」
「はぁ? どーしたんだよお前。なんか変なモン食ったか?」
「食べてない。これホントの気持ち。湊斗、千聖を助けてくれた。だから、そのお礼がしたい」
「……」
そーいえば、この前一緒に遊んだ時、助けてくれたお礼とか言って、一緒に風呂入ったな。
琴葉のヤツ、意外と義理堅いトコがあんのか。
「はぁーあ、ったく……別に気にしなくていいってンなこと。俺が俺のためにやっただけだしよ」
「ダメ」
「はぁ? じゃあいつでもいいよ礼は。気長に待ってるから」
ずいっと顔を近づけてくる琴葉に対し、俺は言った。
「それもダメ」
「あぁ? ンでだよ」
「時間がないから」
「意味わからん」
「……」
琴葉は無言。けど、真剣だってことは目で分かった。
「はぁ。わーったよ。ならゴールデンウィークの初日、俺に付き合え」
「ん、分かった。琴葉は湊斗にお礼できればなんでもいい」
「うし。じゃあ場所はLANEで連絡すっから」
「うん」
こうしてゴールデンウィーク初日、琴葉は俺に付き合うことになった。
え、勉強? ンなモン知るか!!
◇
ゴールデンウィーク一日目。
俺と琴葉は朝早くから待ち合わせた。
「お待たせ湊斗。待った?」
「おう待ったぜ。もっと早く来いよな」
「よく分からないけど、こーいう時って『全然待ってない』とか言うんじゃないの?」
「それは気を遣うヤツらの戯言だ。お前も自分より相手が遅く来たら言った方がいいぞ」
「そーなんだ。で、今日はなにするの?」
「まず、あの列に並ぶ」
そう言って、俺はある店を指差した。
「あそこって……パチンコ屋さん?」
「あぁ。あの店の台に今日激アツの高設定台が紛れてると情報が入ってな。その台を俺とお前で占領する。朝から並ばねぇと台が獲られるから、こーして朝早くから並んでるってワケ」
「パチンコって、大人じゃなくてもやっていいんだっけ?」
「その言い方だとパチは初めてだな。安心しろ。やり方は俺がちゃんとレクチャーすっから」
「パチンコって、大人じゃなくてもやっていいんだっけ?」
「……」
俺はポン、と琴葉の肩を叩く。
「あのな琴葉。パチやスロットを打つのに年齢なんて関係ねぇ。大事なのは、ここさ」
俺は自分の胸をトンと叩く。
「そうなんだ。分かった」
「話が早くて助かるぜ。安心しろ。勝ち分はちゃんとお前にも配分すっから」
「別にいらないけど、分かった。湊斗にお礼するために、今日は頑張る」
「おう、頼むぜ」
そうして、俺と琴葉はパチ屋の列に並んだ。待ち時間中、琴葉には打ち方や用語の説明をした。
——そしていよいよ開店、無事に目的の台に座れたのだが、
「(声にならないうめき声)」
打ち始めて約1時間。俺は絶望していた。
パチンコやスロットの高設定台。これらは必ずしも当たるというワケではない。
当たりやすいというだけであって、外れる時は外れるのだ。
だが、コレはそれ以前の問題だ。
ざけんなよぉ!! まずへソに入らねぇじゃねぇか!!
ヘソとは、簡単に言えばパチンコの玉を入れる穴だ。
パチンコはこの穴に玉を入れてから抽選が始まり、当たり外れが出る。
つまり、穴に入れないことには勝負のスタートラインにすら立たないのだ。
玉をヘソに入れるには二つの関門がある。
一つ目は釘だ。パチンコ台の盤面には大量の釘が刺さっていて、それが玉の軌道を操作する。
二つ目はヘソの直前に設置されている『役物』だ。いくらか種類があるが今回のは直接的に玉の軌道に悪影響を与えるタイプ。このヤクモノは開閉を繰り返し、玉がヘソに入ろうとすると玉を弾くような仕組みとなっている。
この二つが突破できない。この一時間何度もトライしているが、今のところ一度も入っていない。
俺は歯軋りをして、台のハンドルを握りしめた。
「んー、入らない」
隣では待ち時間で俺が英才教育を施した琴葉が表情を一切変えずに呟く。
そりゃそうだ。いくら俺が英才教育を施して知識は一丁前になったとしても、技術的には圧倒的素人。
当然玉をヘソに入れるなんて、できるワケがねぇ。
万事休すか……そう思った時、
「湊斗。協力しよう」
「え?」
突然そんなことを言い出す琴葉に、俺は首を傾げた。
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