第四話 生贄を遊びに誘おう
はは……!!
椎名司は笑う。
その視線は、今教室内で大声を出した親友へと向けられた。
ホントにお前を見てると飽きねぇよ、湊斗。
◇
佐鳥の視線がこちらへと向く。
「え、なに?」
「どうした束橋の奴」
「とうとうおかしくなったのか?」
加え、クラス中の奴らの視線もまた、俺へと注がれる。
だが今そんなことを気にしている場合ではない。
俺は一日中星名たちのパシリとして拘束されてる。
なら、コイツらのいる場で佐鳥と接触して話を進めるしかねぇ!!
決意を固くし、真っすぐに俺は佐鳥を見る。
「仲良く? 急になに言ってるんだ?」
そう言って、佐鳥は俺の方へと体を向ける。
少なくともこちらの話を聞いてくれる素振りだ。
「言葉のとおりだ! 実は俺よぉ、前からお前とは友達になりたかったんだ!!」
口から出まかせとはまさにこのこと。
俺は心にも思っていないことをペラペラと喋り出した。
「今まではあんまり絡む機会が無かったけど、こうして同じクラスになったことだし、友達になる機会としてはうってつけだろ?」
あまりにも完璧な理論武装。
反射的に発した言葉としては素晴らしい動機付けだろう。
「いや、なんというか……束橋」
が、なぜか佐鳥は微妙そうな表情で俺に目をやる。
「俺たちと友達になりたいのは分かったけど、その状態で言うことか?」
「おっと正論は止めてくれ」
なんて鋭い指摘だ。思わず声に出してしまったぜ。
「それに、上の人が穏やかじゃないぞ」
「え?」
その直後、佐鳥の言葉によって、俺は背中の上に乗っている奴の圧を実感する。
「ミーナト」
ガシ。
「……えーと、星名さん? どうして俺の頭を掴んでいるんでしょうか?」
「それはなー、こーするため!」
ミシシシシシシシ!!
「たたたたたたたぁ!!??」
星名に頭を強く握られた俺は堪らず声を上げた。
「今はウチらの椅子に集中だろーがぁ!」
な、なんて力だこの女ぁ!! 握力60はあるぞ!! 下半身のムッチリズッシリ感はこの伏線だったのか!!
「って、なんかしつれーなこと考えたなぁ!?」
「おぉぉぉぉぉぉぉう!!??」
ミシミシミシミシミシミシ……!!
なにぃぃぃぃぃぃ!? 握力60の先がまだあるだと!?
更に強まる星名の握力。
痛みに耐えかねた俺はバランスを崩し、人間椅子の態勢を解除した。
「きゃぁ!?」
「おわー」
「ぐへ……」
教室の床へうつ伏せになった俺は、そのまま星名と根上の下敷きになる。
「ちょっとなんで崩れんだよミナト!」
「ビックリした」
無自覚な作戦クラッシャーである星名と根上は完全に下敷きになった俺にそんな言葉を投げかけた。
「お、おい大丈夫か束橋? けっこう鈍い音したぞ?」
すると佐鳥のそんな声が、耳に入る。
「大丈夫だ……!! それよりも、話を戻そうぜぇ……!!」
「す、すごい執念だな。何がお前をそこまで動かすんだ……?」
必死の形相を向ける俺に、佐鳥は若干引き気味な反応をする。
「とりあえず親睦を深めるために、俺たちと放課後遊びに行こう!」
「ん、『俺たち』? お前以外にもいるのか?」
「あぁ! このお二人もだ!!」
『……』
俺の言葉に、佐鳥は無言。
なんならクラス中の奴らが押し黙ったかのように静寂に包まれた。
ーーそして、
「なに言ってんだお前はぁ?」
「意味不明」
「ててててててて!!??」
星名が俺の首をプロレス技で締め、根上が便乗するように服越しに俺の背中をつねった。
「なんでウチらがアイツと仲良くしなきゃいけないんだよ!」
「マジでそれなー」
くっ、当然の反応だ。
星名と根上にとって、佐鳥と仲良くすることなどメリットも無ければ理由も意味も無い。
だがここはなんとしても押し通す!!
そのためには……!!
「そ、そんなこと言わないでくださいよ。きっと楽しいですよー。俺に無条件罰ゲームしてもいいですからー」
多少の犠牲には目を瞑る(泣)!!
「「……」」
大変不本意ながらも絞り出した俺の提案に、星名と根上は無言ながらもどこか考える素振りを見せる。
そう、この一週間で十分に分かったが、コイツらは俺をコキ使い、イジって楽しんでいる。
ならば逆にそれを利用すれば俺の提案に乗ってくれるのではないか、俺はそう思いついたのだ。
「へー? じゃあ、乗った」
「琴葉もオッケー」
っし!!
星名と根上から了承を得た俺は、心の中でガッツポーズをすると、佐鳥に再度目を向ける。
「聞いてのとおりだ! これでいいな!?」
「……」
俺の問い掛けに、佐鳥は無言。
だが数秒後、やつは口を開いた。
「分かったよ。星名たちは今後学校のイベントで関わるだろうし、親睦を深めるのは賛成だ。それに、そんな必死に頼まれちゃ、俺も断れない」
「ほ、本当か!?」
っしゃあ!! これであとは俺が仲を取り持って、てめぇを星名たちの彼氏にさせりゃあ俺は自由だ!!
解放へ向け、たしかな一歩を踏み出した俺は歓喜に胸を躍らせる。
だがそれも束の間……。
「えー! なになに、面白そうじゃん! 私も行くー!」
一人の女子がそう言って手を挙げた。
彼女の名は才川茜、佐鳥たちと話していた女子の一人だ。
茶髪のポニーテールを揺らし、星名たちに負けず劣らずの整った顔面、そして天真爛漫な性格。
彼女もまた、圧倒的陽キャであった。
「え、えーと……」
い、いきなりなに言ってんだコイツゥゥゥゥゥゥゥゥ!?
平静を装いながらも、俺の内心は激しく動揺していた。
マズいぞ、俺の目的は星名と根上と佐鳥の仲を深めて、どっちかを付き合わせること……!!
他の女子なんていたら、それが難しくなる!!
才川、てめぇはお呼びじゃねぇ、引っ込んでてくれぇ……!!
だが、いくら必死に願おうと、ソレが届くワケも無い。
そんな俺の思いを他所に、才川は無自覚な追撃を仕掛ける。
「ね、雫も行くっしょ?」
「うん。なんか楽しそうだし」
咲宮雫、佐鳥たちと話していたもう一人の女子。
才川と同じく美少女であり、誰に対しても分け隔てなく接する温厚な性格の持ち主のため、男子人気はトップクラスに高い。
才川の性格を考えれば、流れ的に咲宮を誘うのは実に自然なことだった。
「じゃあ茜と雫も参加だな。別にいいだろ、束橋?」
才川と咲宮の参加表明。
当然、佐鳥にそれを拒む理由などあるはずもない。
あとは俺が才川たちを拒むかどうかだが、彼女たちの参加を体よく断る理由など思いつけるワケもなく……。
「もちろん、いいよぉ……!!」
唇を噛み締め、血涙を流しながら、俺はその参加を受け入れるしかなかった。
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