第三十八話 意外な一面
「おいおい琴葉……。お前が俺に勉強を教えるだぁ? 寝言は寝て言えよ」
「ひどい。琴葉、こー見えて超頭いい」
「はっはっはっはっ! 今日一番笑える冗談だ! あのな琴葉? お前が勉強なんてできるワケないだろ? 俺にマウント取りたくて見栄を張るなんてみっともないぞ♪」
膝の上に座っている琴葉の肩に、俺はポンと手を当てる。
琴葉の頭が良いなんてあり得ない。普段のコイツを見ている俺にはその確信があった。
「むぅぅぅぅ!」
「ごっふ!?」
すると分かりやすく頬を膨らませた琴葉がそのまま勢いよく頭を後ろに倒し、その後頭部が俺の胸部に直撃した。
「ふんふんふん!」
「ごはごはごはぁ!? ちょ、止めろ琴葉!」
「湊斗が琴葉のこと頭良いって認めるまでやめない」
コイツ!? マジでざけんなよぉ!?
抵抗すべく、琴葉の頭を掴もうとすると、
「いや、湊斗。琴葉の言ってることは本当だ」
「はぁ?」
翔真の言葉に、俺は首を傾げた。
「知らないのは驚きだな……。琴葉はテストの学内順位毎回一位だぞ」
「……」
ーー……。
「…………」
ーーーー…………。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
あまりにも衝撃的すぎる内容に、俺は大声で叫ばざるを得なかった。
「う、ウソだろ!? コイツが!? テストで毎回一位だと!?」
「嘘じゃないさ。毎回順位が掲示板に張り出されてるだろ? 見たことないのか?」
「ふっ、毎回赤点の俺はンなモン見る必要なんざねぇのさ……」
「出来るヤツ風に言うなバカ」
司に小突かれた。
「にしても、マジかよ……琴葉が……」
「ふふん。見直した、湊斗?」
「いや、むしろなんでお前が勉強できんだってムカついてきたわ」
「湊斗はもっと心をキレイにした方がいい」
余計なお世話じゃい。
中々鋭い琴葉の言葉に、俺は内心そう呟いた。
そして次に、俺の頭に考えたくない疑念が浮上する。
「え、てことはなに? まさか千聖も勉強できるなんて言わないよな?」
「あー? ウチが勉強できるように見えんのか?」
「ううん全然! って痛ぇ!? なにすんだテメェ!?」
「笑顔で即答してきたからムカついた!」
くっ、この傲慢暴力女……!! マジで相変わらずだな!! この前の騒動、一応助けてやったのは俺だぞ……!!
そう思い睨みつけるが、
「べー」
千聖は舌を出して、反抗してきた。
「ま、まぁいくら殴ってこようがてめぇがバカってことは変わらない事実! 悔しかったら俺より良い点取ってみやがれ!」
「「……」」
俺の言葉に、なぜか司と陽那は哀れみの目を向けてくる。
「え、な、なんだよお前ら……」
「湊斗? よーく思い出してみろ。今までお前が赤点取って補習になった時、千聖も一緒に受けてたか?」
「いや、受けてた記憶は無い。けどそんなのバックれてるだけだろ」
「陽那、この哀れな子羊に現実を教えてやってくれ」
「はーい」
陽那からスッと差し出されたスマホの画面に目をやる。そこには俺と千聖のテストの点数が示されていた。
「えーと……っておいおい陽那。このデータおかしいぞ。俺の点数が全部千聖より下じゃねぇか」
「ううん。全部間違ってないよ」
「まっさかーw」
「えへへー、そう思うよねー? でも事実なんだーw」
「あははははははははははははは!!」
ーー……。
◇
「湊斗、笑顔のまま固まっちゃった」
「星名にテストで負けてたことが余程ショックだったんだろうな」
「はんっ、こーみえてウチはちょっとはできんだよ勉強」
ふふん、と得意げな顔をする千聖。
だが点数自体は全て赤点回避スレスレのため、あまり褒められたものではない。
しかし、万年赤点の湊斗とは天と地ほどの差があった。
呪◯廻戦でいうと黒閃を経験してるか否かくらいの差があった。
「はっ!?」
「お、戻ってきた」
「大丈夫か湊斗?」
「ふ、ふふふふふふ……!!」
「また笑い出したな」
「湊斗壊れちゃった」
「壊れてねぇよ!! コレは武者震いってヤツだ!」
湊斗はそう言うと、ビシッと千聖を指差した。
「おい千聖ォ!! 次のテスト、俺と勝負しろぉ!! 俺がお前より勉強ができないなんてあり得ねぇ! ソレを証明してやるからよぉ!!」
「はぁ? 威勢がイイじゃねぇかミナト! いいぜぇ? けど分かってんだろうなぁ? ウチに勝負吹っかけんのがとーいうことかぁ!」
「罰ゲームだろぉ!? なんでもやってやんよ!! お前より下のままで終われるかぁ!!」
万年赤点の男と、万年赤点ギリギリ回避の女。
とても低レベル……だが互いの意地と尊厳をかけた勝負の火蓋は、こうして落とされたのだった。
◇
「と、いうワケでお願いします琴葉様ぁ!! オラに勉強を教えてくだせぇ!!」
その直後、俺は琴葉に向けて華麗な土下座をかました。
「さっきまで琴葉のことかなりバカにしてた気がするんだけど……」
「気にするな佐鳥。湊斗はいつもあんな感じだ」
「そそ。勝つためだったらなんでもする。いくらでも手のひら返す。それが湊斗の最高にダサくて最高にイイ所だよ♪」
「はは、なんとなく分かるなソレ」
なにやら後ろでほざいてる声が聞こえるがどうでもいい。俺は次のテストで千聖に勝たなくちゃならない。
それために学年一位の琴葉の力を借りるんや……!!
け、けどまぁこれがあまりにも都合が良いってのは分かってる。琴葉の反応はどーなる……!?
「顔上げて、湊斗」
「へ、へい!」
琴葉の言葉に従い、俺は恐る恐る顔を上げる。
すると、
「ふふん。よーやく湊斗が琴葉に頼んだ」
そこには満足そうな笑みを浮かべた琴葉の顔があった。
「仕方ない。琴葉の最強の脳みそで、湊斗がテストで点取れるようにする」
「あざーーーーーっす!!」
っしゃオラァ!! 届いたぜ俺の想いがよぉ!!
これで怖いモン無し!! 見てろよ千聖ォ、てめぇに吠え面かかせて、罰ゲームお見舞いしてやるぜ!!
こうして、俺は琴葉に勉強を教えてもらうことになった。
ーーけど、これは新たな始まりに過ぎなかった、
根上琴葉に迫り、根上琴葉を取り巻くーーその物語の始まりに。
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