第三十七話 忘れてた強敵
麗らかなで暖かな陽気と日差し。
午後の授業が眠くなるのもムリはない。
「ふぁああああ……」
おっと、思わず大きなあくびが。
俺は横を向いて、窓越しに外の景色を見る。
踏ん張っていた桜の花びらはすべて散って、四月の終わりを感じさせた。
……なんかそれっぽいこと言えてるな俺。
ではここで問題。
『四月が終わるとどうなる?』
ふっ、知らんのか?
ーー五月が始まる。
で、五月が始まるとどうなるのかって言うと……。
「ゴールデンウィークじゃああ!!!って痛ぇ!? おいいきなりなにすんだよ一花先生!?」
「すまんな。いきなり奇声を上げて立ち上がるから精神に異常をきたしたと思い、対処させてもらった」
「だからってチョーク投げてくる奴があるかよぉ! ててて、ぜってぇ額に跡ついたってぇ! 恥ずかしいだろうがよぉ!」
「安心しろ。チョークの跡がつく前から、お前は十分に恥ずかしいことになってるからな」
一花がそういった瞬間、クラスがドッと爆笑の渦に包まれた。
新たなイジメでらないかと思うかもしれないが、残念ながらそうじゃない。
俺は窓にうっすく映る自分の顔を改めて見た。
そこにはマジックで頬にヒゲを描かれ、頭に猫耳、首には鈴付きカチューシャを着用して、猫を表現してる俺の姿があった。
当然好き好んでこんなことするワケがねぇ。
原因は……。
「っぷ! ははっ……! に、似合ってるぜミナト……」
「ふふ……最高に可愛い。自信持って」
「あぁん!? どの口が言ったんだテメェラァ!?」
この笑いを堪えきれてない千聖と琴葉に向かって、俺はついついそう叫ぶ。
いつものように理不尽なゲームに負けた俺は罰ゲームをもらい、このこの姿を強いられているのだ。
屈辱、あまりにも屈辱だぜ……!!
今に見てろよ! 千聖、てめぇの胸を揉ませてくれる寛大な彼氏を作らせて、俺にとって最強の環境を構築してやっからなぁ……!!
そんなことを思っていると……。
「あとついでに言っておくがな湊斗。ゴールデンウィークを楽しみにするのは結構だが、忘れるなよ」
突然、意味のわからない言葉を挟んでくる一花。
「んぁ? なにがだよ先生?」
反射的に、俺はそう聞き返すと、一花はやれやれといった感じでもう一回口を開いた。
「ゴールデンウィークが終わればすぐに中間テストだぞ」
◇
「やっべぇぇぇよぉぉぉぉぉ!!!」
授業終了後、俺は机に伏して絶望を噛み締めていた。
「ったく、ゴールデンウィーク明けのテストなんざいつものことだろ。なんで毎回忘れてんだよお前は」
「あはは! でも分かるよ湊斗。楽しいことがあるとつまんないこと忘れちゃうよねー」
近くにいた司と陽那はそれぞれそう口にした。
「クソマズイ……!! このままだと赤点確実だぁ!」
バッと顔を上げた俺は頭を抱える。
「そんなに気にすることか?」
と、そこでこっちに歩いてきた翔真がそんなことを言い出した。
「ちげぇよ佐鳥。このバカが気にしてんのは赤点そのものじゃねぇ」
「そそ」
「え? じゃあ一体……」
「ゴリの補講だよ」
「あぁ……」
司の言葉に、翔真は納得したように声を漏らした。
俺たちの生活指導教員、豪田力人。通常『ゴリ』。ヤツは最悪なことに生活指導だけで無く、俺たちの数学科目も担当している。
つまり数学で赤点を取れば、数学担当であるゴリの補講が待ち受けているのである。
ゴリの補講、それすなわち『死』である。
去年から連続してゴリの補講を体験してる俺が言うのだから間違いない。
「ってかなんでゴリの野郎、担当科目が数学なんだよ!? あの見た目なら体育だろどう考えても!!」
「「「それはそう」」」
司たちは同時に首を縦に振る。
「ま、それなら観念して勉強するしかないんじゃないか? 数学だけに集中すれば赤点回避くらいはできるだろ」
「ふっ、おいおい翔真。簡単に言ってくれるなよ」
俺は立ち上がり、自分の胸に手を当てた。
「残念ながら生まれてこの方、俺は勉強ができない! これまで取った赤点の数は数知れない! 頑張って勉強してみたことはあるが、全然点は上がらなかった! そしてゴールデンウィークは遊びたい!!」
「一番言いたいのは最後のヤツだけだろ」
司の鋭い指摘に俺はさっと顔を晒した。
「ま、お前がいいなら別にいいけどよ。また赤点取ってゴリの補講受けることになった時、この前みたいに逆恨みで八つ当たりすんのはやめろよな」
「は? 勿論するが?」
「ざけんなよ!? なんでいつもそーなんだよお前は!!」
「俺だけゴリの地獄補講食らっててめぇらだけのうのうと高みの見物なんざ許されるワケねぇだろうが!!」
「だったら勉強せぇやお前はぁ!!」
「うぇぇぇん!! だから勉強できないんだってぇ! 逆になんでお前ら勉強してないのに点数高いんだよぉ!」
司と陽那は言いたくはないが頭がいい。学校のテストは全部大体90点前後取ってる印象だ。
「んー、湊斗は地頭はいい方だと思うけどなぁ」
「サンキュー翔真。だが今はその言葉が鋭いナイフのように俺の心を抉るぜ……」
俺はポロリと涙を流す。すると、
「なに、湊斗。赤点取りたくないの?」
突然ひょっこりと俺の机の下から顔を出し、そのまま俺の膝に座ってきた琴葉がそう言ってきた。
「いや、まぁ……うん」
改めて肯定するのはなんか癪だったが、俺はそう答えた。
「じゃあ湊斗。琴葉が勉強教えてあげる」
「え……?」
あまりにも唐突で、予想外の言葉に、俺はポカンと口を開けた。
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