第三十四話 騒動の終幕
「サンキュー司。助かったぜ」
司は俺の指示で倉庫の上で待機。俺が「次に賭ける」と言ったら上から降りてきて強襲するという役目だった。
「マジでてめぇが今回こんだけ必死になってた理由を聞いた時は帰ろうかと思ったけどな」
そう言って司はため息を漏らしながら腰に巻いたロープを外す。なにはともあれプランC、そして作戦第三段階は大成功だ。
「ざけんじゃねぇぞぉ!!」
「卑怯過ぎんだろてめぇごらぁ!!」
「もう我慢できねぇ!! 創さんをコケにしやがってぇ! ぶっ殺ぉす!!」
その直後、俺は不良たちにとてつもない罵詈雑言を浴びせられた。
あとは第四段階、「不良たちを大人しくさせる」。
これができれば今回の千聖救出作戦は成功だ。
「うるせぇ!! 勝ちは勝ちだろ!! 俺は最初に言ったぜ!! 目つぶし金的、多勢で掛かってきてもオーケーだってなぁ!! それを創は認めたんだ!! 俺はルールの中で戦っただけ!! 文句言われる筋合いなんてねぇ!!」
そう言い返すが、罵詈雑言が止まることは無かった。
正直、まぁこーなるのは分かってたことだ。
俺の積み上げた作戦、言っちまえば論理は筋こそ通ってはいる。
けど、相手が納得するかどうかは別問題だ。
「おい湊斗、このままじゃアイツら俺たちに殴り掛かってくるぞ」
「安心しろ司。こーいう時のための策もちゃーんと考えてるぜ俺は」
「ほう」
そうして司を横目に、俺は不良たちに向かって言った。
「おぉいてめぇらぁ!! 変なこと考えてんじゃねぇぞぉ!! てめぇらの大将の命は俺たちが握ってることを忘れるなぁ!! ちょっとでも動き見せたら分かっってるよなぁ!! 分かったらこの勝負は俺の勝ちって認めろぼけぇい!!」
「本当に汚いなお前……」
なぜか呆れるように言ってくる司だが、そんなものは知らん知らん。
この世は勝てば正義名のよさ! ガハハハハ!!
「くぅ!! 創さんを人質に取るなんてなんつー卑怯な奴だ!!」
「許せねぇ!! 許せねぇよオレェ!!」
「認めるしか、ねぇのか! 創さんの負けをぉ!!」
おーおーおー、不良どもが涙を流しとる!
さぁさぁ早く降参せい!
なんてことを俺が思っていると、
「おい待てよお前ら。これはチャンスだ」
「チャンス?」
「あぁ! 俺たちがあの野郎をぶっ潰せば俺たちがこのチームのトップに立てるってことじゃねぇか!?」
「おぉたしかに!!」
「超名案じゃねぇか!!」
「よーしてめぇらあのクソ野郎を狩るぞー!」
『おぉぉぉぉぉぉぉ!!』
なにぃぃぃぃぃぃ!!??
あまりの超展開に俺は目を見開いた。
おいふざけんな!! 話聞いてた感じアイツら創を超崇拝してたんじゃねぇのか!! なんて変わり身の早さだ……!!
「てめぇらに人の心はねぇのかよぉ!!」
「お前が言うな」
司に頭をはたかれた。
「ふっ、ま、まだだ!! こーいう時のために策はもう一つ用意してある!! 陽那ぁ!!」
「ほいさぁ!!」
俺の呼びかけに突如として横に現れた陽那。その両手はスマホをコントローラーのように横持ちしていた。
「お前らぁ!! 上を見ろぉ!!」
『ん?』
陽那の言葉に、不良たちは上を見る。そこには一台のドローンが空中を旋回していた。
「今日の一部始終はぜーんぶあのドローンのカメラに抑えてあーる! その映像を好き勝手編集してお前らが100:0で悪いことにしてネットに流されたくなかったら大人しく負けを認めて消えろー!」
「よっ! さっすが陽那!! 可愛いだけじゃなくてそーいうトコも好きー!」
「えへへ! 照れるよ湊斗~!」
そう言って陽那は恥ずかしそうに自分の頭の後ろに手をやった。
そしてコントロールを失ったドローンは不良集団の方へ墜落。
バキッ! バキッ! バキッ!
不良たちはドローンを凄まじい勢いで踏み潰した。
「なにやってんだ陽那てめぇ!?」
あまりにも綺麗なオチに俺はたまらず叫ぶ。
「ちょ!? なに僕のせい!? 湊斗が照れるようなこと言うからじゃん!! この無自覚たらし!!」
「俺に責任を押し付けんじゃねぇ!? おいマジどーすんだよ!! 俺の策全部終わったんだけど!?」
「どーすんのさ!!」
「知らねぇよ助けてくれよヒナえもん!」
「みな太くん。君はもう僕がいなくても大丈夫。だって君はそんなに強くなったんだから。だから僕も安心して帰れるよ。バイバイ、みな太くん」
「帰らせるかぁ!! こーなりゃ道連れじゃゴラァ!!」
「いやあぁぁぁぁ!! 僕の顔は湊斗と違って国宝なんだぁ! ボコボコにされていいワケないんだ離してぇ!! 助けて司ぁ!!」
「ちょっと待て俺にしがみつくな陽那!!」
ギャーギャーと言い合い、俺たちは三人連結したような形でその場で動けなくなる。
「な、なんかしらねぇけど今がチャンスだ!」
「アイツらに落とし前つけさせて、俺たちが新しいトップになるんだぁ!」
「行くぞォ!!」
『うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
『ぎゃああああああああ助けてぇ!!??』
こっちに向かって突っ込んでくる大量の不良に、俺たちの叫びが同調る。
クソ!! ここまでかよ……!!
俺は悔しさで唇を噛み締める。
その時だった。
「待ちやがれてめぇらぁ!!」
『っ!?』
圧のある一声。
不良たちは全員動きを止めて、声のする方を見た。
そこにはまるで狂犬のような顔つきで不良たちを睨みつける千聖の姿があった。
「あ、アレはまさしく『足立区の強戦士』!!」
「俺たちを恐怖のドン底に陥れたそのもの……!!」
「痺れるぜぇ……!!」
口々にそう呟く不良共。
俺でも分かるすげぇ圧だ。アレが不良モードの千聖か!! いつもおっかねぇけどその比じゃねぇ……!!
けどいい流れだ!! 千聖の圧で不良共が委縮してやがる!! このままエンドに持ち込めれば……!!
そんな俺の期待とは裏腹に、千聖はどんどんこちらへ歩いてきた。
そして気付けば、千聖は俺の目の前まで来ていた。
「……」
「えーと、あの~……千聖?」
俺が恐る恐る名前を呼ぶと……。
「ふんっ!」
「ぐっほぉぉぉぉぉぉ!!??」
千聖の鋭い拳を受けた俺は、そのまま気絶した。
◇
湊斗がくるくると空中で回転し、そのまま落下。
彼は白目を向いて気絶していた。
「てめぇらぁ!!」
『っ!?』
湊斗を気絶させた千聖の呼びかけに、不良たちはビクリと肩を揺らす。
「創に勝ったバカは倒した! これでてめぇらのトップはウチだ!!」
千聖の宣言。誰も異を唱える者はいなかった。
「……」
自分の身勝手で無神経な行動が招いてしまった結果。
自分のせいだとそれを受け入れた千聖。
だがそこに、彼女より身勝手で無神経で、どこまでも己の欲望のために突き進むバカが現れた。
そのバカが連ねた行動は、重ねた言葉は、彼女の後悔や悩みがバカバカしくなるには十分過ぎるものだった。
もちろん、それで自分のしてしまったことが無かったことになるなど、千聖自身は微塵も思っていない。
……ただ、それでも。
「……」
この湊斗みたいに生きたい。
気絶している彼を見ながら、千聖は心底そう思った。
「いいか! ウチが最初で最後の命令を出す!! 耳の穴かっぽじってよーく聞け!!」
次の瞬間、千聖は息を吸い込んで、大声で言った。
「チームは解散!! あとは勝手にしろ!! けど!!」
ドンッッッッッッッッ!!
その直後、千聖は拳を地面に振り下ろす。その威力に耐え切れず、地面には大きなヒビが入った。
「もしウチの身内に手ぇ出そうとすんなら死ぬ気でこい。ウチが相手になるからよ」
こうして、千聖を取り巻く騒動は幕を閉じたのだった。
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