第二十五話 パシリ解放? 後編
「どうして?」
「さっきそこのバカが言った通りだ。ヤベェ不良共がたくさんいる所へ行けばタダじゃ済まねぇ。助けられずにただボコられんのがオチだ。行くだけ無駄死になんだよ」
「でも千聖を助けないと」
「だから、そう思うんならお前が一人で行けばいいだけの話だろ? そこのバカを巻き込むな」
「むー……」
冷たくあしらう司に、根上は不満そうに頬を膨らませる。
「でも、湊斗は協力してくれるって言った。司がなに言っても、かんけーない」
くっ、悔しいがその通りだ……。俺にはもう根上に協力するしか道はない……。
「おい湊斗」
「ん? なんだよ」
「お前なんか弱み握られて脅されてんだろ」
―—……。
「は、はぁ!? な、なななななななに言ってんだお前ぇ!? そ、そそそそそそそそんなワケねぇだろぉ!?」
「何年つるんでると思ってんだ。お前のことなんざ手に取るように分かるんだよこっちは。脅されて仕方なくパシリしてんのはイヤでも分かる」
「司、お前……」
―—……。
「なんかキモいな」
「ブッ飛ばすぞぉてめぇ♪」
「ちょっ!? 悪い悪いマジでごめぇん!!」
危うく絞め落とされそうになった俺は即座に謝罪を敢行。難を逃れた。
「ったく。で? なにやらかしたんだ?」
「そ、それはぁ……」
「この期に及んで誤魔化そうとすんな。安心しろ、悪いようにはしねぇ」
「……」
もはやこれまで。
観念した俺は、意を決して言葉を発した。
「……実はぁ、星名さんの胸を……揉んじまったんだァァァァァァァァ!!」
「……」
俺の圧倒的懺悔が店内に響き渡ると、誰が見ても分かるくらいには無表情だった。
「おいなんだよその反応!? 人が一世一代の告白をしたってのに!!」
「……一応聞いておくが、それって証拠写真とか撮られたのか?」
「え? 別になんにも撮られてねぇけど」
「はぁぁぁぁぁ……」
無表情かと思えば、次は呆れたように息を吐く。
一体どうしたんだコイツ?
「湊斗、やっぱりお前はバカだな」
「はぁ!? いきなりなんだよ!」
「お前が星名と根上に掛けられてる脅しはなんにも怖くねぇって言ってんだよ!!」
「えぇ!? ど、どういうことだよ!!」
「いいかよーく想像しろ。胸を揉まれたと星名と根上に言いふらされたとする」
「おう」
「学校の生徒のほとんどはお前がド変態だと分かってるから今さら白い目で見られるのは問題ない。問題なのは教師の方だ。場合によっちゃかなりメンドウなことになるからな」
「おう……ん? ちょっと待て、今大変聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど!?」
「で、その問題の教師の方だが、星名たちの言葉は信じない」
「おい無視すんなぁ! ……って、なんで?」
「今の時代、こういうデリケートなことをちゃんと問題化するには確固たる証拠、もしくは訴える人間の人望が必要不可欠だ。今回の場合、そのどちらも満たしてない。お前が胸を揉んだ証拠は無く、素行不良の生徒として見られている星名と根上の発言は証言としては弱い」
「な、なるほど……つまり」
俺はくるっと振り返り、根上の方を見た。
「根上さん、いや根上ぃ!! てめぇに従う必要はこれで無くなったってことだなぁ!! ざまぁねぇぜぇ!!」
「相変わらず清々しいまでの手の平返しだ」
「あはは~! 湊斗ださ〜い!!」
後ろで司と陽那がなにか言いながら拍手を送ってきている気がするが気にしない。
圧倒的優位に立った俺は、その身長差を利用し見下すように根上を指さした。
「よくも今までさんざんコキ使って、さらには俺を辱めやがったなぁ? だがそれも今日まで!! これで俺は自由! もうお前らに縛られることは……」
そこまで言って、俺は思わずそれ以上の言葉を飲み込んだ。
「……」
根上は何も言わずに、泣いていた。
「あ〜湊斗が女の子泣かせた〜」
「ひゅー女の敵ぃ!」
「うるせぇ!? お、おい! 俺に泣き脅しは通用しねぇからな!」
「バカ」
「え?」
「湊斗のばかばかばかばかばかばかばかばかぁ!」
俺に罵声を浴びせた根上は、そのまま走って店を出て行った。
「けっ! 小学生みてぇな捨て台詞だな」
「根上だいじょぶかな? 一人で無茶しないといいけど」
「さぁな。まぁ少なくとも一人じゃムリだってのは分かってるみたいだったし、下手に動いたりはしないだろ」
「そっか〜。ふふ、にしても優しいね司」
「なにがだよ」
「だって、危ないから湊斗を助けたんでしょ」
「そんなんじゃねぇよ。このままだと俺も危険に巻き込まれそうだったから事前に釘刺しただけだ。この前みたいな目に遭うのはこりごりだからな」
「その節はほんと〜に申し訳なく思ってます」
珍しく少ししゅんとする根上。
司が言った『この前』とは俺と司が3月に巻き込まれた、というか首を突っ込んだ騒動のことだ。
そしてそれは、俺と司が初めて陽那と関わって、こうしてつるむようになったキッカケでもある。
司の言う通り、俺もあんな危険な目に遭うのは二度とごめんだ。
「司、あんがとな」
まぁ今回は司に感謝しとくか。
「気にすんな。困った時はお互い様だろ」
「おう」
そうして、俺と司は互いに拳を合わせようと……。
「オラァ!!」
した瞬間、俺の拳は司の拳を通過し、奴の顔面へ向かい全力の速度で放った。
「あっぶね!?」
「ちっ、避けられたか」
「てめぇいきなりなにしやがる湊斗ぉ!」
「あぁん? そんなもの貴様をこの世から抹殺するために決まってんだろぉ?」
「急に怒りのボルテージ上げんじゃねぇ! 理由を言え理由を!」
「理由だぁ!? ンなもん決まってんだろ! さらっと言ってたが聞き逃さなかったぜぇ俺は! あの言葉ぁ、裏を返せばてめぇが安全なら俺はどーなっても構わねぇってことじゃねぇかぁ!」
「ちぃっ、気付いていたか! あえて温厚な態度で俺に近づいたのは不意の一撃を決めるため……相変わらず汚ねぇ悪知恵だけは働くな……!」
「なんとでも言え! 今日こそ引導渡してやるぜぇ! 陽那合図を!」
「レディ〜ファイッ!」
どこからともなく取り出されたゴングを陽那が鳴らす。その瞬間、俺たちの戦いは始まった。
(もちろんその後、店で暴れたから亮士に叱られた)
こうして、星名たちのパシリから解放されるための戦いは幕を閉じた。
まさに一件落着の大団円。最高のハッピーエンド。
俺の平穏な学校生活はこれからだ!
『ギャルにパシリとして気に入られた男が、解放されるために超頑張る話〜ただしギャルとの距離はどんどん近くなる〜』
完ッ!!(まだ続きます)
勢いで『完ッ!!』とか書いてしまいましたすみません。
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