第二十三話 ボコされるチンピラ系主人公はここです。
どーすんだよコレマジでぇ……！？
千載一遇のチャンスからまさかの絶体絶命。ひとまず、聞かれたことに答えるしかない。
「お、俺は星名さんの……パシリですよ～」
「……」
嘘偽りなく、しょーじきに答える。
すると創は俺と星名を交互に見る。そして……。
「嘘だね」
アレェ！？
「あんまり俺をナメないでくれるかな？ 千聖ちゃんが君をパシリにしてないのは、千聖ちゃんを見れば分かる！」
「は、はぁ！？ いや俺はマジでパシリで……」
「黙れぇ！！」
「わぁ大きい声ぇ！？」
驚いた俺は、思わず後ろに後ずさる。
「あ、あのなぁ。俺は超絶マジのマジで星名さんのパシリなんだって」
「あはは、まだそんな口を叩くんだ？ いい加減にしろよ？」
――イラッ
初対面だが、流石にムカついた俺。
だから自分の心に従うことにした。
「それはこっちの台詞だっての。俺はマジで嘘は言ってねぇ……星名さんを見れば分かるとかほざいてたけどよぉ、見る目がねぇのはてめぇの方じゃねぇのかぁ？」
「……」
「おいお前、創さんになんて口の利き方だ！」
「潰すぞゴラァ！」
すると、創の両隣に立っていた男二人がずいぶんな圧でそう言ってきた。
――だが、
「おい」
「「っ！？」」
その瞬間、創が男二人に眼を飛ばし、萎縮させた。
「お前ら、どういう了見で口を挟んでるんだ？」
「「す、すみません創さん！！」」
すぐさま頭を下げる男二人。なんか知らんがメチャクチャ創を恐れてるみたいだ。
「決着は俺がつける。引っ込んでろ」
「「はいっ！」」
創の言葉通り、二人は後ろに引っ込んだ。
「千聖ちゃん。見ててね。ソイツが君の隣に立つのは相応しくないって、今から俺が証明する」
この野郎……さっきから勝手なことばっか言いやがって。
けど……。
「いいぜぇ！ かかって来いよぉ！ てめぇみたいなナヨナヨした野郎、俺がちょっと本気出せば……って？」
アレ？ 創、どこ行った？
俺は目の前にいたはずの創を見失った。そして、探す暇もなく……。
「ここだよ」
俺の下から奴の声がした。
ドスゥゥゥゥゥン！！
「がっはぁ……！？」
次の瞬間、俺の腹に鈍い衝撃と痛みが走った。
星名から放たれるパンチから受けるのとは違う感覚と共に俺は後ろに吹き飛ばされた。
一瞬で俺の死角まで距離を詰め、下から抉るようなパンチを腹に受けたんだと、本能で理解させられる。
「はぁ……はぁっ……はぁっ！？」
やっべぇ呼吸、呼吸が……！！
俺は大きく口を開け、必死に酸素を取り込んだ。
「君がちょっと本気を出せば、なんだって……？」
「がっ……！？」
髪を掴まれ、無理やり顔を上げさせられた俺は、創の顔を強制的に間近で見させられる。
表情こそ変化がないものの、その目にはとんでもなく殺意が籠っていた。
ちゃんと強いんかぁい！ なんだコイツゥ！？
まさかの展開に、俺は内心でそう叫ぶことしかできなかった。
「じゃあ次」
「ぶべらっひ！？」
追撃で頰に膝蹴りを入れられた。口の中が切れて血の味がする。
いやいや無理無理。勝てん勝てん勝てん！！
「すんません冗談です！ 勘弁してくださぁい！」
こういう時はさっさと降参するに限るぜ！
「そんなんで俺が許すとでも？」
「ごほぉう！？」
ま、マズイ……！！ コイツ俺が気絶するまでやめねぇ気だ……！！
俺はこの状況を脱するために必死に回そうとする。
たがその間も創は俺を殴り、蹴る。
当然、思考は鈍り、なにも思いつかない。
ヤッベェ、意識が……。
そして徐々に気が遠くなり始めた。
もういいか、そう思い意識を手放そうとする直前。
「だめ」
「ん？」
根上が創の腕を掴んで、そう言った。
「きみ誰？ あんまり女の子は傷つけたくないから早く手をどけてほしいんだけど」
「じゃあ湊斗を離して」
「……」
なに、言ってんだよこのバカ……。アブねぇから、さっさと逃げろ……！！
これ以上、創を刺激しないように、俺はなんとか目で根上に訴える。
だが全然効果は無かった。根上のヤツは一歩も退かない感じだ。
「はぁ……。警告はしたからね？ 手加減はするけどさ」
創が根上の手を振りほどくために、自身の手を伸ばす
ダメだ……！！ このままじゃ根上が……助けねぇと……！！
しかし体は動かない。創にやられたダメージが効いている。
万事休すか……そう思った瞬間、
「ハジメ！！」
千聖のそんな声が響いた。
「なに千聖ちゃん？」
「……分かった。お前と付き合う……だから二人に手を出さないでくれ」
なに、言ってんだ星名……。
初めて見る星名のその表情から放たれた言葉に、俺はただただ困惑する。
「や、やったー！」
そして創は想像以上の喜びを見せる。その流れで俺は解放された。
「もっと色々段階を踏んで付き合えればって思ってたのに、まさか千聖ちゃんから告白してくれるなんて……今最高に幸せだよ！！」
クリスマスプレゼントもらったガキみてぇだな。
思わず、そんなくだらない例えが頭を過ぎた。
「じゃあ今日は俺と千聖ちゃんが付き合い始めた記念日になるね！」
「……あぁ」
「よし、今日はお祝いだね！ 行こう千聖ちゃん！」
「…………あぁ」
力無く答える星名。抵抗する気は微塵も感じられない。
「コトハ、ミナト」
星名たちはもう俺たちの方を見ていない。ただ、こっちを見ずに、名前を呼んだ。
「二人とはここまでだ。良い退屈凌ぎになったぜ……じゃあな」
そう言って、星名は創たちとそのまま消えていった。
「……」
「湊斗、大丈夫？」
根上はしゃがんで、地面に倒れたままの俺を覗き込む。
「……なんだったんすか。今の」
「琴葉も分かんない」
「ですよねー……」
殴ったり蹴られたりしたトコに走る痛みを感じながら、俺は体を起こす
あまりにも唐突で衝撃的な出来事に、脳が追いついていない。
――ただ、
『……分かった。お前と付き合う……だから二人に手を出さないでくれ』
そう言った時の星名の顔が、脳に焼き付いて離れなかった。
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