第十九話 最強に可愛い男
コンビニ店員に変質者と勘違いされた次の日、俺は普通に朝から学校に登校した。
「はぁー、ひでぇ目に遭ったぜ昨日は……」
俺がそう言って息を吐くと、
「てい!」
「うおっ!?」
急に両方の脇腹に刺激が走った。
一体なんだ、と後ろを振り返ると……。
「へっへーん! 僕さんじょーう!」
……。
「なんだ。陽那かよ」
「ちょおっ!? なにそのうっすい反応!? 僕だよ!? 僕が目の前にいるんだよ!?」
胡桃陽那。
高校一年の終わりに知り合って、そっからなんやかんやあって今では親友(悪友)だ。
そんなコイツは……。
「きゅるーん!」
男なのに、とてつもなく可愛い……!!
これはお世辞でも冗談でも無く、マジの話。
陽那の顔の可愛さはそこら辺の美少女を圧倒している。おまけに華奢な体と160cmくらいの身長が合わさって、美少女よりも美少女してる。
初見じゃコイツを男と見抜くのはほぼムリゲーだ。
さらに特筆すべきは、制服!!
歩和高校は制服についての校則も緩く、制服の改造が許されている。
そんな中、陽那の制服はどうなのかというと……。
――ズボンを切って、ハーフパンツみたいにしてやがる!! おまけにニーハイソックスまで履いて……けしからん!!
「さぁさぁ遠慮せんでいいんだよ! 僕が可愛いのは世界の理、そんな僕に可愛いと言うのはなにも躊躇うことじゃあないんだから!」
相変わらずムダにウザ絡みをしてくるがしっかり可愛いな。思わずホモにジョブチェンジしたい衝動に駆られるが、疲れている今の俺にそれは逆効果だった。
「うるせぇ!! 今俺は疲れてんの!! お前のダル絡みに構ってる余裕はねぇんだよぉ!」
思わず大声で叫ぶ俺。
「……うぅ、この超絶きゃわたんな僕にそんな酷い言葉を浴びせるなんて……!!」
それに対して、陽那は悲し気な表情で、うるうると涙を流した。
「へっ、泣き真似したって無駄だぜ。お前の嘘泣きには慣れてっからなぁ」
陽那は演技が上手い。俺も何度泣き顔に騙されたことか。
たが直後、俺は周りからの視線とヒソヒソとした話し声に気付く。
「おい、ガラの悪い男子校生がいたいけな女の子に迫って泣かせてるぞ」
「通報案件だろ」
「女の子の方かわいそ〜。あんな感じでいかれたら怖くて何もできないっしょ」
おっとぉ……?
周囲の話し声を聞いた俺の顔面から、ブワッと汗が出た。
マ、マッズィィィィィィィィ!!
今のこの状況、はたから見りゃあ俺が大勢の前で可愛い女の子を大声で泣かせたみたいな感じになってるじゃねぇか!?
「お、おい陽那……!! 嘘泣きすんなって……!!」
俺は小声で陽那に説得を試みる。
が……、
「きゃあ!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさぁい!! また僕の身体好きにしていいから叩かないでぇ……!!」
「なぁに言ってんだてめぇはぁぁぁ!?」
さらに誤解を加速させる陽那の物言いに、俺は叫ばずにはいられなかった。
クソ!! なんとかして周りの誤解を解かねぇと……!! いや陽那がこんなんじゃ解けるモンも解けねぇ!!
――ポン。
そう思った矢先、俺の肩に優しく手が置かれた。
「あぁ!? ンだよ!?」
荒ぶる感情のまま、バッと後ろを振り向く。
するとそこには……。
「はい君、ちょっといいかな?」
ニッコリと笑う警官がそこにいた。
「……ははっ(高音)!」
瞬間、俺は陽那を担いでその場から逃げ出した。
「あ!? こら待ちなさい!!」
後ろから警察が声を荒げて追いかけてくるのが分かる。
当然待つワケもなく、俺は走り続ける。
「あははぁ! 湊斗号だぁ! さぁ走れ、風よりも速く!」
コイツ、あとでぜってぇ殴る……!!
そう固く決意し、警察を撒くことを考えていると、
「よぉ湊斗、朝からご機嫌だな」
「全然ご機嫌じゃねぇよ!?」
どこからともなく現れ、隣を走る司に俺はたまらずツッコむ。
「状況は理解した。そこのバカのせいだな」
「やほー司」
「よう陽那。復学するの今日からだったのか」
「そうそう。二人を驚かせようと思って」
先月、俺たち三人はある騒動をやらかした。
俺と司は一応なんのお咎めも無かったけど、陽那は停学処分になった。戻って来たらラーメンでも奢ってやろうと思っていたが……。
「ってワケで二人共! 大復活を遂げた僕にぃ、お祝いちょーだい♡」
「任せろ。あとでその顔面に特大のう〇こプレゼントしてやっから!! おい司、このままじゃヤベェぞ。なんとかあの警官撒かねぇと……!!」
「ん? なにがヤバいんだ?」
「はぁ!? 後ろから警官追っかけて来てんだぞ!?」
「追われてんのはお前だけだろ。俺はここで離脱させてもらう」
「……」
――ふっ、まったくコイツは……。
「司」
「ん?」
「ヘイパス」
「うおぉっとぉ!?」
俺が投げた陽那を、咄嗟のことながら司は軽々とキャッチした。
そして次の瞬間、俺は大きく口を開く。
「助けに来てくれてありがとう友よぉ!! さぁ一緒にこの窮地を乗り切ろうじゃあねぇかぁ!!」
「そこの二人ぃ!! 女の子を降ろして止まりなぁい!!」
よし、ちゃんとロックオンされたな。
「なに俺を巻き込んでやがんだてめぇゴラァ!!」
「落ち着け司!! 今は言い争ってる場合じゃない!! まずはこのピンチを切り抜けるのが先決だ!! 俺だけじゃ厳しいかもしれないけど、お前とだったらきっと大丈夫!! 頑張ろうぜ親友!!」
「俺が今ピンチなのはお前のせいだわ!! 良いこと言った感じ出して誤魔化されると思うなよ!!」
などとほざく司だがもう遅い。コイツは俺と同じ船に乗っている。
「さ、行くぞ司!!」
「クソ!! あとで覚えてろよ!!」
こうして、共犯者となった俺たちは走る速度を上げた。
◇
「ふぅ、よし撒いたな」
「おう……」
学校に到着し肩で息をする俺に、司は担いでいた陽那を降ろしながら答えた。
「いや~、お前がいて助かったぜ。俺が陽那担いだままだったら、ぜってぇ途中で捕まってた」
司を巻き込んだのには、俺と同じ苦しみを味わってほしいという至極正当な理由もあるが、それよりも大きかったのはコイツのパワーだ。
司は星名ほどじゃないがかなりの腕力がある。
女子レベルで体重が軽い陽那であれば、俺ではムリでも司なら担いで走ってもスピードを落とさず動ける。
そして手ぶらになった俺も同じく軽々と動ける。
この状態なら追って来た警官を撒くのは簡単だ。
学校周辺は言っちまえば俺たちの庭。逃げれるルートや隠れる場所は知り尽くしてるからな。
まさに合理的な役割分担による完璧な作戦。
「まったく、自分の脳みそが恐ろしいぜ……」
「そうだなぁ!」
「ブエゴギスタッ!?」
直後、右頬に衝撃が走った。
それが司の右ストレートによるものたど俺は瞬時に理解する。
「ってぇなぁ!? なにすんじゃい!!」
「こっちの台詞じゃボケェ!! 朝から必死こいて走らせやがって!!」
「うるせぇ!! てめぇ一人だけ逃げるなんざ許されるワケねぇだろうが!! 友達が苦しんでたら手ェ差し伸べるモンだろぉ!?」
「こっちがピンチの時秒で切り捨てるヤツの手を取るワケねぇだろこのバカ!!」
「ンだとぉ!?」
「あぁ!? やんのかゴラァ!!」
苛烈する俺と司の言い合い。
いい加減収拾がつかなくなってきたその時、陽那のヤツが大きく手を広げて俺たちの間に割って入ってきた。
「ちょっとちょっと二人共! ケンカはダメだよ! ほら、僕の可愛さに免じて仲直り~♪」
「「てめぇが余計なことしなきゃそもそも逃げることになってねぇんだよ!!」」
流石に俺と司の声が同調る。
――キンコンカンコーン。
その時、チャイムが鳴った。だがまだ始業時間じゃない。
じゃあ一体なんのチャイムかと思ったら……。
『えー、生徒の呼び出しだ。二年三組、束橋湊斗。同じく椎名司と胡桃陽那。お前たちが既に学校の敷地内にいるであろうことは分かってる。至急生徒指導室に来い。以上』
「「……」」
一花から俺たちへの呼び出しチャイムだった。
「「なんでぇ!?」」
「あっはは~。三人で呼び出し食らうと学校戻って来た感あるね~」
「ちょ、ちょっと待て!! なんで俺たち呼び出し食らってんだよ!!」
「ちゃんと逃げ切っただろうが!!」
呑気に笑う陽那に、俺と司はたまらず疑問をぶつける。
対して、陽那はなんてことないように答えた。
「だって僕たち、今コレじゃん」
着ている制服を指差す陽那。
「「あ……」」
俺と司は思わずそう声を漏らした。
そうだ。俺たちは制服を着てる……つまり追ってきてた警官からすりゃあ俺たちがどこの学校の生徒かは分かる。
あとは学校に連絡を取って事情を説明すれば、学校内の誰のことなのか、一花なら気付く。
一年の時からしょっちゅう呼び出しを食らってた俺たちには、一花が俺たちだと断定する……その確信があった。
「「……」」
顔を見合わせる俺と司。
次の瞬間、俺たちは「はぁ」と溜息を吐いて、職員室へと向かった。
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