【一章】追悼と邂逅 Ⅲ
そういえば、シーナ様って『聖女』なのに、こんな下町の喫茶店で働いていても誰も何も言わないんだな。
いや、ヤドリギのことを「こんな店」だなんて言うつもりはなかったんだけど、国の象徴にもなるような竜がウェイトレスとして働いていることがちょっと意外だったってだけで、ヤドリギを悪く言うつもりは全然ない。
今日は定休日だから客はいないけど、昨日とかも当たり前のように働いていたから気にしなかった。
どうも料理長にどやされたからって仕方がなく働かされていたって感じではなかったんだよな。
随分前から働いていたかのような、自然な立ち振る舞いだったからなんとも思わなかった。
誰も聖女様とか呼ばなかった気がする。
おれの気のせいなのかな。
確か、シーナ様とフラン様ってこの国の象徴の二人の竜人ではあるけれど、発言力こそ大きいものの特に権力を持たない一般市民として扱われているはずだ。
統一暦になってからは竜としての権力は放棄していて、この国の政治は十二人会って組織に完全に任せている。とか、そんなことをリリとリオから習ったような。なにしろ物覚えの悪いおれのことだから、正しく覚えているとは限らない。
ユークリッドの爺さんでも付いていたらすぐに答えを教えてくれるんだろうけど、あまり頼りすぎるのもよくないよな。
今更聞くのも、その程度の常識も知らないのかって三人の先生に叱られそうだ。かと言って、知らないままにしておくのも問題だし、おれ自身中途半端にしておくのもなんだか釈然としない。自主的に勉強したら、それはそれで「熱でもあるのか」と心配されそうだ。これって詰みじゃないか。
「どうしたエリシャ、今日は街に遊びに行ってきたんじゃろう。浮かない顔をしおって、人混みはやはり疲れるか?」
シーナ様が隣に座ると、おれの顔を覗き込んできた。というか、リリもリオもユークリッドの爺さんもシーナ様でさえおれより体がちいさくて背が低いから、なんだか子供みたいなんだけど、みんな親のようなものだからフクザツな心境になる。
しかも、みんな無自覚に可愛らしい仕草をするものだから、ちょっとドキッとする。
街中で獣人の子供を見ても特に何も感じなかったのに、なんなんだろうか。やっぱり疲れてるのかな。
「あー、うん、そんなところかな……」
「ちょっと前までは言葉も通じなければ、シーツに爪を立ててビリビリに裂くわ、怯えて噛み付いてくる野良猫のような子じゃったからのう。それを思えば、まあ、たった数年で立派になったもんじゃな」
「やめてくれよシーナ様」
「公務から帰ってくるたびに「ちなさまちなさま」と泣きながら駆け寄ってきた頃が懐かしいわい。竜の成長は早いとはいえ、あっという間にわしよりでかくなりよって」
「し、シーナ様!!」
ただ慈愛に満ちた瞳でおれを見るシーナ様は、まるで『聖女』のようだった。というか、どちらかといえばおれはシーナ様が『聖女』っぽいところしか見たことがないんだけど。
たまに、従者のヘルメス様に怒られて頭に拳骨を落とされたり、長時間正座させられて叱られているところ以外は。
ヘルメス様って人は成り行きで仕方がなく従者をしているだけで、別にシーナ様に忠誠を誓っているわけではないし、自他共に認める『竜人嫌い』だから普通にシーナ様の嫌っている。なんならおれも嫌われている。
でもおれみたいな子供には優しいから、おれは好きなんだけど。実のところよくわからない。
ああ、もう、みんなからの温かい視線がなんだか痛い。
普段からなにかと問題ばかり起こしてるから、身の振り方を考えさせられる。
「エリシャをずっと独り占めしたかったんじゃがな、どいつもこいつも聖女とやらのわしを求めておる。人の子とは、いつの世も仕様がない奴らじゃ本当に」
シーナ様は、困っている人を見かけたら手を差し伸べずにはいられない人だ。悪人だろうと善人だろうと関係なく。シーナ様曰く、善悪というものは他人にとっての都合が善いか悪いかの評価でしかなく、人は誰しも自己が正しいと思った理念の元でしか行動できない。自ら間違ったことをする者は誰一人としていない。その選択や意思を否定することは何者にもできない。
罪や罰というものは、本来ならば過去の自分自身に科すものだという。ただ社会というものは、様々な種族や思想が混沌とした共同体であるが為に規律が必要とされている。その規律から弾かれてしまった者を世間では悪と呼ぶが、それもまた都合が悪いだけで間違いではないのだと言う。
世の中には善人もいなければ悪人もいない、そこにいるのは誰もがただの人であるというのがシーナ様の持論だ。
ヘルメス様は、シーナ様のことを救いようのない馬鹿だと評している。
「しかし、慈善事業だの聖女様だのと。堅っ苦しくて嫌になるわい。あまつさえ勝手に宗教などという面倒この上ないものまで作りおって、なぁにがシーナ教じゃ、馬鹿馬鹿しい」
「それってシーナ様が作ったんじゃなかったのか」
「勝手にじゃ、勝手にぃ。自分の名前で新興宗教を開くほど自惚れてはおらんのだがな。まあ、タダより怖いものは無いとも言うし、布教とかいう大義名分やらを立てておいた方が何かとやりやすいのも事実なんじゃが。想像してみよ、わしが無垢な少女のように振る舞っていたら鳥肌が立つじゃろう。公務ではそんな公開処刑を日常的にやらされる。どんな羞恥プレイじゃ、こうしてヤドリギでのんびりと過ごすことが至福の時間なんじゃあ、だぁれも聖女様を求めんし酒は飲めるし美味いメシも食える。永久就職したって構わんぞ?」
シーナ様って働かされていたわけじゃなくて、好き好んで働いていたんだ。ちょっと意外だ。
「それに、聖女である手前まだ籍こそ入れてはおらぬが愛しい婚約者もおるしのう」
えっ、いまシーナ様なんで言ったの?
「ちょっと待ってシーナ様、おれの聞き間違えじゃなければ婚約者がいるって聞こえたんだけど」
「そう言ったんじゃが、なんじゃ、血は繋がってはおらぬが、よもや母親の顔を忘れたなどとは言わぬな?」
えっ、ちょっと待って、おれってお母さんいるのか。というか、そうなるとシーナ様ってお父さんなのか。
一応、おれってシーナ様の娘なんだけど。
「あの、確認なんだけどさ、シーナ様……っておれにとってはお父さんなのか?」
「どうした、本当に疲れておるのか。わしはこれまで父親としてエリシャに接してきたではないか」
……眩暈がしてきた。
「いや、でも、シーナ様って聖女なんだろ?」
「何を言っておる。聖女だろうがなんだろうが、竜に女も男もあるか。まあ、人族の戸籍上では竜は雌とつがえば雄じゃし、雄とつがえば雌じゃ。一応、竜に限らず未成年者は生物的に孕む身体構造をしていれば例外なく雌じゃ、常識じゃろう」
「あー、あはは、そうだったっけ……?」
なんでみんな何も言わないんだよ。おかしいだろうが。えっ、もしかしておかしいのっておれのほうなのか。
「ミスルトゥとココノは同性婚じゃからなあ、こんがらがってしまうのも無理はないが、愛の形には色々とあるんじゃ色々と、そこに優劣などない」
「シーナ様、たぶんエリシャってば、まずはお姉ちゃんのことしらねぇっスよ。なんならぼくとリリさんやヤドリギみんなのことを叔母にあたる存在だということもわかってないっス」
「……は?」
リオは、本当に何言ってんだおまえ。
シーナ様は今まで聞いたことがないくらい、でかいため息を吐きながらカウンターテーブルにめり込むように頭をぶつけた。
「エリシャの母親、わしの嫁はミスルトゥの実の妹であるカミラじゃ。つまり、ヤドリギの皆は血こそ繋がっておらぬが全員家族なんじゃよ。逆になんだと思っておったんじゃ今の今まで。だいたい大切な一人娘を赤の他人に任せる親がどこにおる」
シーナ様まで何を言っているんだ。
「いや、でも、じゃあそれってさ。つまり、おれって、リリやリオにとっては姪の立場なの?」
「……だから、そう言っておるんじゃ。エリシャもカミラのことは「みらさまみらさま」と慕っておったろうに」
そ、それは存在しない記憶だ。
「まあ、あやつも終点街が陥落してからというものヤドリギには滅多に顔を出さぬのも悪いのだが……それでも母親の顔を忘れるとは何事だ!」
えぇ、ちょっとさ。
一年くらい、おれにゆっくり考える時間をください。
「なんなら、わしとフランの間柄は兄妹じゃから、エリシャもゆくゆくはこの国を象徴する竜人の三人目ということになるかもしれんな。まあ、わしの娘ということも世間では伏せられておるが」
もう何を言われても驚かない。
今まで話半分に聞いていた家庭の事情を知らなかった全ての責任がおれの脳を焼き払って破壊した。
「エリシャ、起きて、起きてったら」
「いやいや、シーナさま、さすがにそれは、話を盛りすぎだって、へへっ、へへへっ」
「こら、起きなさい」
「うわっ?!」
温かいおしぼりで顔を拭かれて気が付いたら日が沈んでいた。寝ぼけ眼でリリの心配したような顔を見て、真っ先に脳裏を掠めたのは、おれの叔母さんで三十七歳という口したらいくらリリでも助走を付けて殴ってきそうな情報だった。
「もう、シーナ様ったら今度は何をしでかしたんですか。帰ってきたらエリシャが壊れたラジオみたいになってて心配したんですからね」
「いや、だから、なぜいつもそうわしばかりが問題児扱いされるのだ……」
「問題児だからですよ」
「だ、だがな、今回ばかりはいくらなんでもエリシャに非があるぞ。何せ、母親であるカミラの顔も覚えておらんばかりか、わしらが家族ということすら知らんかったのだからな」
あ、やっぱり夢じゃなかったんだ。それ。
「それは、今まで一度もエリシャに会いに来なかったお姉ちゃんも悪いけど、シーナ様が言ってることが本当だったら……わたしは悲しいよ。エリシャは、わたしたちのこと、家族だと思ってくれなかったってことなんだもんね」
リリ、本当にごめん。
お願いだからそんな悲しい顔をしないでくれ、良心の呵責に殺されそうになるから。今回の件に関しては、もう一切の言い逃れができない。これまで人の話をちゃんと聞いてこなかったおれが完全に悪い。
「……ごめん。おれは、捨て子だしさ。今まで、そういう話とかおれには関係ないのかなって、縁遠い話なのかなって思ってて、ちゃんと聞いてなかった。でも、シーナ様から血の繋がりがなくてもみんな家族なんだって聞いて、びっくりしたけど。だからって、何か変わるわけじゃないもんな。いつも通り、なんだもんな」
「……エリシャ、ちゃんと謝れるようになったね。ただ、ちょっと何か隠したでしょ。怒らないから洗いざらい吐いちゃいなさい。きっとそっちの方がすっきりするよ」
……うわぁ、言いづらい。たぶん、また朝まで正座させられるよな。コレは。
「り、リリがおれの叔母さんで、戸籍の上では三十七歳って知って、めっちゃ驚きました……」
「なあんだ、そんなことか、確かにこんなちびっ子が四十歳近いって知ったらびっくりするもんね。わたしもお酒とかタバコ買う時に住民証を毎回確認させられるんだけど、みんな中々信じてくれなくて大変なんだよ」
全然怒らないどころか年齢のことに関してはリリにとって笑い話で済むんだ。そりゃあ、実際にはその十倍以上も生きているわけだから、それくらい誤差の範囲内なのかもしれない。
ただ、年齢の話を一般女性にしたら縊り殺されるかもしれないので、こういう話題には今後気をつけよう。
「まあ、タバコはこの前団長に叱られたからやめるかもしれない……。うん、言いたいことはわかるんだ。狙撃手が簡単に位置割れるような真似するなってことなんだろうけど、少しは大目に見て欲しいな。ただでさえ光の反射で場所がわかるからってスコープ没収されてるんだよ。団長は、できるできないじゃなくて「やれ」だもんなぁ……」
リリは珍しく愚痴を溢しながら、リオに甘えるように抱き付きに行った。
仲のいい双子の姉妹だということは以前から理解しているつもりなんだけど、今まで人前ではあまりこういうことはしなかった。つい最近はよく見るようになった。
だいたいおれがリオに泣き付いた日のあとくらいから、なんとなくこういうことをするようになった。
やはり、リオが何か言ってくれたんだろうか、当の本人はどういう情緒なのかはわからないけど、ちょっと困ったかのような表情をしている。自分のことなのに、なんとなく妬ましそうだ。リオは普段から「リリさんリリさん」と何かと嬉しそうにくっついているのだが、される側となるとちょっとそっけない感じの反応をする。
甘えたいけど、あまり甘えられたくはないのだろうか。「そういうのは、本当はぼくにして欲しいんスけどね」と、顔を赤らめながら拗ねているのだが、混乱しているのかちょっと言い間違えているような気がする。
やっぱりリオは妹として甘える側で居たいのか、おれにはちょっとよくわからない状態だ。
なんかたまに、リオの姿にノイズが走るように見える。
ユークリッドの爺さんは、それを「他人の記憶の発露を無意識に捉えている」とか「電波の周波数を拾っているようなものだから無理に合わせるな」って警告してくれるんだけど、それって自分で制御できるモノなのか不安になる。
リリの過去を見た時の反動というか、あの時の情報が五感に焼き付いてしまっていた。未だに、おれの体がリリになってしまったかのような錯覚すら覚えている。
だから、何もないところで躓いたりすることも珍しくない。こういう感覚がいくつもごちゃ混ぜになってしまったのなら、どうなるのかあまり想像したくはない。
だから危険なのだろう。
「……しかし、ヤドリギの皆が許しても、カミラがこのことを知ったとなれば、エリシャがどんな酷い目に遭わされるかわからんからな。まあ、身も心も存分にわからされるんじゃろうが、遠慮とか常識とかいう言葉を知らんからな、あやつは」
「そういえば、なんかシャナが震え上がるほど怖がってたけど……そんな怖い人なのか、おれのお母さんって」
「そうじゃな、あのグレイと対等に渡り合えるくらいじゃから腕は立つ、が。その、な。淫魔とか言われるだけあってな貞操観念が恐ろしく低い、あと、わりと女子に見境がないぞ。おそらくクエレブレの娘っ子も何か逆鱗に触れるような真似をして取って食われたんじゃろうな。まあ、そういう堅苦しくない博愛主義なところがカミラの良さなんじゃがな、わははっ」
なんだか、惚気はじめてしまった。
シーナ様にとっては魅力的な人なのかもしれないけど、今のおれに配られた情報といえば、団長並みに強くて、淫魔とやらで、貞操観念が終わっているという聞いた限りでは怖そうな印象しかなくて、心配しかない。
「あとは、そうじゃな。顔とスタイルがいい、かなりの美女で出るとこ出てて引き締まるところは締まっておるぞ」
シーナ様、外見のことしか言ってなくないか。なんだか聖女様が一気に即物的な助平オヤジみたいになってしまった。
「……なあ、シーナ様。それで、おれはそのお母さんにどう接すればいいんだ」
「どうもこうも、心配せずともカミラはエリシャを好いておるからな、再開した暁にはたぁっぷり可愛がってもらうといいぞ。ミラ様と呼んでいたことさえ覚えておれば特に問題はないじゃろう、外見はそうじゃな、腹違いではあるがミスルトゥとは血が繋がっておるし、よく似ておるからな、わかるじゃろう。……あ、今はそうでもないかもしれぬが、まあエリシャの体が覚えとるはずじゃ」
「体が覚えてるって、おれ何かされたの……?」
「愛じゃよ、愛」
店長に肩を叩かれ「大丈夫、私たちがなんとか守ってみせるから」と、ものすごく自信がなさそうに言われた。
いや、守るって何から?
おれのお母さんから守るってことなのか?
お母さんなのに?
嬉しそうなのは自分の世界に浸っているシーナ様だけで、他のみんなは気まずそうに視線を逸らしている。
なあ、おれのお母さんの話してたんだよな?
その、まるで大丈夫じゃない反応はなんなの?
「お姉ちゃんってば酒癖が悪いからね、酔っている時に近付かなければ被害は受けないと思うよ。向こうから近付かれたらどうしようもないからその時は諦めて」
「お、おう……」
リリも十分酒癖が悪いほうだとは思うけれど、まるで自然災害みたいな余りといえば余りな言い草だ。もしかして、シーナ様の好みのタイプってわりとイリーガルな感じの人なのだろうか、無法者というか荒くれ者というか、悪い感じの人が好きなんだろうか。
おれには恋愛観なんてわからないけど、自分とは真逆の性格の人を好きになるってよくあるらしいから。それと似た価値観なのかもしれない。
シーナ様曰く、自分の周りの人って融通の利かない石頭とか堅物とか真面目で面白くない奴って……あっ、コレは全部ヘルメス様に対する悪口だった。
そうじゃなくて、リリとか店長みたいな手の掛からない都合の善い人ばかりが集まるから、手の掛かる都合の悪い人を求めるのだろう。この理屈だと、おれってかなり面倒な手が掛かる都合が悪い人になるんだけど、シーナ様ってもしかして、おれがそんなんだから好きでいてくれるのか。
そう思ったら、かなり複雑な気分だ。
「シーナ様、おれって面倒な子か?」
「……なんじゃ面倒な物言いをしおって、子供など面倒だから可愛いのではないか。手間の掛からぬ子など逆に心配になるわ!」
店長や料理長が強く頷いていて、リリが顔を赤らめていた。
「子供って言うけどさ、もうシーナ様より大きいんだけど」
「体躯も調整できぬ未熟な竜など馬鹿みたいに大きく育つだけじゃぞ」
リオが卑屈に笑いながら隅っこの方で「どうせぼくなんか」と言いながらいじけてしまった。何故か各方面にシーナ様の発言が飛び火して、リリとリオに対してはクリティカルにヒットしているように見える。
「そもそもエリシャ、おぬしは、かなりめざといがまだ五年と生きておらぬだろう」
「……おれ五歳くらいなの?!」
「……うぅむ、見つけた時はかなり痩せこけて衰弱しておったからな、劣悪な環境での生活を考慮してもだいたい二歳か三歳、保護してからそろそろ三年が経つ、そうじゃなぁ、拾った日を誕生日とするなら追悼式の前後くらいが誕生日ということになるのだが、そうすると、そろそろ六歳になるのかもしれん。長生きしておるといかんせん年月の感覚が無くなってしまってのう。誕生日もロクに祝ってやれなんだ。すまんかったな」
「いや、別におれの誕生日なんてどうでもいいんだけどさ……。そんなに子供だったの?」
「竜の仔というのも稀有な存在であるからな、竜人社会の黎明期でも新生児は数えるほどしか生まれなかった。黒曜の角が最高位となるが、最初は誰しもエリシャみたいに白磁のようなツノの色をしておる。色持ちと呼ばれる成竜となってから次第にツノは色味が濃くなり次第に宝石のようになる。竜は何度も自分で自分を孕んでは産むからな、生物濃縮のように毒素に近い細胞をツノに蓄える、綺麗な花にはなんとやらだ。エリシャが成竜となるのは数万年以上先ことじゃがな」
「……なんか、竜ってとんでもない生き物なんだな。数万年生きてようやく成人だなんて、一年過ごすのも長いのに気が遠くなるよ」
なんだかんだで、みんなおれに優しいなとは思ってはいたんだけど。子供だからってかなり甘やかされていたんだろうな。
「そういえば、シーナ様。竜って体躯の調節ができるって言ってたけど、どうしてそんな子供の姿をしてるんだ?」
「それは見た目が愛らしい十歳前後の子供の方が得をするからに決まっておろう、極端な話そこらのおなごの胸や尻を触ろうが謝れば許されるからな」
「……うわっ」
「……エリシャよ。冗談じゃから、引くな。愛娘にそんな顔されるとは、ちょっと傷ついたぞ」
シーナ様って、もしかして本当は結構俗っぽい人なのではないだろうか。




