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【完結】魔王への階段  作者: 稲山 裕
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八、堕淫のイザ


 初老の魔族は、イザと交わる者を、若くて負傷の軽微な者から集った。

 だが、数を集めたものの手を挙げる者が居ない。

「人間の娘だって? いくらあなたの命令でもそれは聞けません!」

「そうだ! それも、我等を蹂躙した破壊者となど!」

 話は進まなかった。

 かと言って、初老の魔族も同じ考えだったからこそ、下の者に投げようと思ったのだ。

 だから強くは出られなかった。

 ただ、容姿は優れているからと、荒れるのを承知で会議の場にイザを同席させていた。

「……私だって、絶対に嫌です。でも……。復讐したいの。人間に。私の幸せを奪い尽くした、浅はかな人間どもに」

 イザは一刻一刻が過ぎる間に、さらに復讐心を強くしていた。

 愛する者はもう、完全に失われたから。

 その絶望は深く、さらに深くへと沈み続けている。

 それに比例して、「人間」への恨みが増しているらしかった。

「……お前が人間どもと蔑むのか。お前とて、ついこの間まで同じ側に立っていただろうが!」

「そうだ。今すぐでも殺してやりたいというのに、貴様の復讐とやらのために、我らに汚れろと言うのか!」

 およそ収拾のつかない事態に思えたが、イザは動じなかった。

「あなた達の怒りを、ぶつけるだけで構いません。自分で言うのも何ですが、容姿だけは優れています。そこに剣の代わりに、精を注いでください」

「……そこまで言うか。恥も知らぬ下衆が」

「いや、俺は気に入った。捌け口に使ってくれと、こいつは言ったのだよな。それなら使ってやらんでもない」

 そう言った若い魔族は、そんな事でも少しは怒りを吐き出せるのではと考えたらしい。

 同胞を焼き、住処を吹き飛ばした破壊者を……その手で蹂躙するのも一興だと。

「……ならば、気が変わらんうちに頼もうか。そのために寝具を新調したのだ。寝心地は石の間よりは良いだろう」

 初老の魔族は、彼とイザを急かすようにその部屋へと向かわせた。



   **



 若い魔族の要望で、イザの両手と口を拘束している。

 部屋はぼろぼろのままだが、ベッドだけは新しく、白いシーツも清潔そうだった。

「遠慮なく行かせてもらうぜ。俺はグリークだ。この名を忘れられないくらい、酷く犯してやる」

 そう言ってイザをベッドに押し倒すと、赤いワンピースを乱暴に捲り上げた。

 下着を剥ぎ取り、その下腹部に目をやる。

「ここに魔玉を入れたなどと……頭がどうかしている」

 呑気に挿入していては、自分の物にも何か影響があっては恐ろしい。

 そう考えたグリークは、イザの足を開かせるとすぐに挿れた。

 痛がろうと、泣きわめこうと、遠慮などしない。

 そう考えていたのに、イザは小さく呻くだけで、泣きも叫びもしない。

 ただじっと耐えて、なすがままを受け入れている。

 目を閉じ、縛られた両手を胸に抱えて。

 それがグリークの嗜虐心をそそったのか、彼は興奮してすぐに果てた。

 魔玉の事を思えば、それで助かったとも彼は思ったが、意外と楽しめた事を素直に喜んだ。

 ただ耐えるだけの生活だったのに、捌け口が出来たのだ。

 前戯をしなくても、己の欲が猛ったら自由に犯しても良いというのは、彼の性癖を刺激した。

「悪くない……。もう一度だ。俺の気が済むまで、楽しませてもらうぜ」



   **



 イザは、ようやく事が終わって男が去ると、一粒だけ涙を流した。

「……ごめんなさい。さようなら」



 ――それからというもの、毎日列を成すほどに入れ替わり立ち代わり、男がイザの部屋を訪れた。

 その寝室はイザの部屋と呼ばれ、憂さ晴らしに男達が並ぶ。

 そう、魔玉はイザを魔王と認め、魔族達に魔力の恩恵をもたらしたのだ。

 初老の魔族が全員に治癒の魔法をかけ、数日のうちに生き残り全員を癒しきった。

 死にかけの重傷者さえ。

 それは魔玉の恩恵なくしては成し得ない事だった。

 お陰で、イザの事も徐々に、受け入れられつつあった。

 半月もしないうちに、乱暴に犯す数が減り、少なくとも痛くないように気を遣う者が増えた。

 それだけ、絶大な力が魔族全員に行き渡り始めたのだ。

「すこぶる調子がいい」

「女魔王の誕生か。人間のくせに、我らを仲間だと心底から思っているようだな」

「あんなに毎日、犯されているというのにな」

 噂もふくめ、イザの話題も悪くないものに変わっていく。

 そして――。

 イザもまた、何とも言えない風格を持つようになった。

 魔玉の力は、それを持つ本人にこそ、その恩恵を与える。

 それをイザは、しかと感じていたらしい。

 人間への復讐を、挙兵をいつ頃にするかの会議でイザは言った。

「魔族達よ。私を魔王であると、心底から認めなさい。そうすれば、もっと大きな力を与えてあげるわ」

 服など纏わず、布を巻きつけただけの淫靡な姿とは裏腹に、その態度は女王のようであった。

 絶望の底に堕ちた人間が、その身のままに魔族として生まれ変わった美しき淫らな魔王――。

 皆はいつの間にか、「堕淫のイザ」「情艶の女魔王」などと呼ぶようになった。




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